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中国の台頭がアジア経済にどういう影響を与えるかを考えるときに、対象国が中国と補完関係にあるか、競合関係にあるかによって明暗が分かれる。中国とASEANは互いの輸出入の品目別構成が類似しており、競合関係である。これに対して、日本の輸出と輸入構造は、それぞれ中国の輸入と輸出構造に近く、両者は補完関係にある。補完関係がウィン・ウィン・ゲームであるとしたら、残念ながら、競合関係はゼロサム・ゲームになりかねない。ASEAN諸国にとって、産業構造を調整しながら中国と分業体制を構築することは、経済発展を持続させるために重要な課題となっている。
中国の製品がどんどん安くなることは、ASEANの国々にとって、輸出価格の低下、ひいては交易条件の悪化につながりかねない。なぜならば、自国と中国の市場に留まらず、第三国市場においても中国と激しく競争しており、中国製品の価格が下がった分、自国製品もそれに合わせて下げなければならないからである。個別の企業の立場に立つと、その分だけ収益が減ってしまい、これに耐えきれない企業は倒産という形で退場を余儀なくされることになる。これは中国から多くの中間財を輸入し、生産コスト低下と利潤増大の恩恵を受ける日本企業と対照的である。
価格面だけでなく、貿易と直接投資の量において中国が急速に伸びている中で、ASEANに関しては少し停滞気味になっている。近年、中国の輸出はASEANを上回るペースで伸びており、2001年にその金額(ひいては世界全体に占めるシェア)は初めてASEAN4(インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ)を抜いた(図)。直接投資もASEANから中国へのシフトが進んでいる。例えば、2003年度の上半期における日本の対中投資は前年比で35.5%上昇しているのに対して、対ASEAN投資は14.6%減少している(円ベース、財務省統計による)。
それにもかかわらず、今のところ、ASEANでは中国脅威論は見られない。その理由は対中輸出が伸びつづけていることにある。しかし、中国以外の国への輸出が鈍化する大きな理由もまた中国にある。最終的にはこれら中国要因がASEANの景気にプラスであるかどうかは疑問である。その上、対中投資の急増はあくまでも移行期の現象である可能性が大きい。対中輸出の担い手は、外資企業(中でも部品や機械メーカー)であり、彼らがASEANから撤退して生産を中国に移転することになれば、今後はこれまでと同じような速いペースでASEANの対中輸出が伸びることはなくなる。
ASEANの国々にとっては、中国との分業体制を考えるときに、最終的に自分の比較優位をどこに求めればいいのかが問題になる。これについては、二つのシナリオが考えられる。一つ目は、中国より付加価値の高い製品や工程の担い手となることである。この「産業高度化」のシナリオが実現できるかどうかは、外資の動向に大きくかかっているだけに、最近の動向から判断して、やや厳しいものがある。もう一つは「脱工業化」のシナリオである。ASEAN諸国は石油やガスなど鉱物資源に恵まれ、食糧(タイの米、フィリピンの果物など)や工業原材料となる農産品(マレーシアのゴムなど)も強い国際競争力を持っている。中国の工業化が進むにつれて、一次産品に対する需要が着々と増大するだろう。このことは、ASEANにとって、単に中国への輸出を拡大するだけでなく、輸出価格の上昇、ひいては交易条件の改善を意味する。一次産品輸出国に逆戻りすることは「悲観的」に聞こえるが、オーストラリアのように、一次産品の輸出国であっても、有利な交易条件に恵まれれば、国民が豊かな生活を享受できる国もある。
このように、中国の台頭がASEAN諸国にとっての産業構造調整のきっかけになることは間違いない。これに加え、ASEAN・中国間の自由貿易協定(FTA)の進展も、双方間の比較優位に沿った分業を促すことになろう。「産業高度化」と「脱工業化」のいずれのシナリオが実現されても、最終的には、ASEANと中国の産業構造がより補完的になってこよう。
図 ASEAN4を抜いた世界輸出に占める中国のシェア
(注)ASEAN4:インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ
冒頭の図参照
(出所)WTO
(関連記事:2003年12月5日 「実事求是」欄掲載 「加速する日本の直接投資の中国へシフト」):http://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/ssqs/031205ssqs.htm
2004年1月26日掲載
http://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/ssqs/040126ssqs.htm