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題名:No.584 WTOのルールと不公平さ From : ビル・トッテン
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投稿者 まさちゃん 日時 2004 年 1 月 31 日 12:44:32:Sn9PPGX/.xYlo
 

題名:No.584 WTOのルールと不公平さ

From : ビル・トッテン
Subject : WTOのルールと不公平さ
Number : OW584
Date : 2003年7月25日

 世界貿易機関(WTO)の多角的貿易交渉で農産物の関税の引き下げを迫るアメリカなどの食糧輸出大国と、大幅引き下げに反対する欧州連合(EU)、さらには日本などの食糧輸入国が対立している。

(ビル・トッテン)

WTOのルールと不公平さ

 農業には食料自給率という国家の独立性に欠かせない重要な課題とともに、国土と自然環境の保全という大切な役割がある。しかしアメリカはこうした目的から課せられている関税障壁を、既得権を守るための保護主義の一つであるとして批判している。

 WTOは国家間貿易について世界的なルールを設け、貿易が円滑・自由に流れることを本来の目的とするが、貿易や投資の自由化によって利するのは、主に世界市場を席巻するアメリカを中心とした多国籍企業である。遺伝子組み換え技術をみても知的所有権を独占する先進国がその強化を主張し、そのため既得権のない国はWTOのルールが適用されることで逆に損失を被るという不公正な側面も存在する。

 しかし今年初め、鉄鋼製品のダンピングに対してアメリカが課した輸入関税についてWTOがアメリカ敗訴とすると、米下院議員が「WTOからの脱退」を叫ぶなど、国連を意図的に無視してイラクへ攻撃を開始したのと同様に、貿易交渉の場においてもアメリカは意のままにならない多国間機関に我慢ができなくなってきているようにも見える。その強気の姿勢から判断すると、アメリカ政府は国連同様、WTOを不要な国際機関だとみなし始めているのかもしれない。

 国家間貿易についての世界的なルールを設けることで消費者も生産者もさまざまな物の供給と広範な選択肢を享受できる、そのためにも貿易障壁の削減、つまり自由化を進めようとするWTOだが、加盟国の4分の3以上が開発途上国であることを考えると、先進工業国と同じルールで貿易を行わなければならないことは、プロの野球選手とリトルリーグが試合をするようなものだと思う。

 自由市場経済のもとで貿易障壁を限り取り除き、対等な条件で経済活動を行うということは、物と資金と労働力が国境を越えて取引されるということだ。それが今日の世界における富の集中と、開発途上国のさらなる貧困をもたらしている一因でもある。

 しかし、もしアメリカが、9月にメキシコのカンクンで開催される公式交渉でWTOを脱退するようなことにでもなれば、さらにルールもなしに世界貿易が行われることになってしまう。アメリカの記録をみると、すでに多国間の相互貿易システムから個別の国と交渉を行う政策へ転向している。

 貿易は国家間における富の配分の手段である。世界の富の二極化をみるとアフリカなどの貧困国は原料の輸出に依存している国が多いが、原料国の場合、資源を所有する人だけが富を手にする傾向がある。工業の遅れから不熟練労働者しか必要のない国では賃金は上がらず、労働者は常に弱い立場におかれる。

 このような現状で今までの貿易ルールでは、すでに開いている先進工業国と貧困国の格差を縮めることは不可能であり、二極化をなくすためにはWTOのルールを押し付けることでもルールそのものをなくすことでもなく、途上国の国々が望めば、アメリカやヨーロッパ、日本などの先進国がその地位を手にするまでとってきた手段、すなわち保護貿易を認めることなのである。

 現在、世界貿易を支配する国々はWTOの提唱する自由貿易によって先進国の地位を確立したのではない。ほとんどの国は他の国の知的所有権を盗んだか、または自国の産業が強くなるまで競争相手国から国内産業を保護してきた。同じことを今、貧困国に対して認めるべきであり、さらに、それらの国の経済があるレベルに達するまで、豊かな工業国の市場は開放するという貿易ルールを採用しなければ格差はなくならないだろう。

 これまでアメリカ政府は国外市場でアメリカ企業がうまく商売ができないとそれはその国の不公正な慣行のせいだと決めつけてきた。今から十三年前、私は「レッド・ペーパー」と題して、アメリカが問題とする日米貿易摩擦は日本の問題ではなくアメリカの問題だとして、当時の商務長官、米通商代表らに書簡を送った。あれから13年たったが、アメリカは当時とまったく変わらない。それどころか国連やWTOという国際機関に対しても、日本に対するのと同様、だだっ子のように振る舞っている。

 国家間貿易だけでなく、戦争や温暖化、重債務貧困国の問題は地球規模の視点からしか解決に向けての取り組みは不可能である。グローバル化の価値観は進歩をすべて富の蓄積の観点から定義してひたすら物質主義を貫き、経済活動や産業、人類の活動すべてが企業の投資家たち、すなわち強者に見返りを与えることである。これは古来の日本や東洋の価値観にはなかったものだ。多国間機関において日本政府がアメリカ追随ではなく信念を持った対応をすることを期待したい。

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