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[2004年2月27日]
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自衛隊はイラクで活動を始めたが、派遣を認めた国会は審議を尽くさず、政府の説明責任不足を指摘する声も大きい。評論家で作家の保阪正康さん(64)は「哲学、歴史観に欠ける小泉純一郎首相」の答弁をしかり、「議員は次世代に恥じない追及や質問を会期中に続けなさい」と注文する。【根本太一】
――自衛隊の「戦地」派遣は承認され、国会の論点は年金問題などに移っています。
自衛隊はイラク入りしました。この現実を受け止め、私の気持ちの3割は派兵を認めましょう。ですがそれ以上は決して認めません。第一、国会は何を論じたのか。民主党代表の菅(直人)さんも「ドイツは軍のNATO(北大西洋条約機構)域外派兵に踏み切った際に(憲法に相当する)基本法を改正した」なんて、間違ったことを代表質問で述べています。
子供の討論会と違うんです。きちっと資料に基づくのが筋でしょう。戦後約60年を経て初めて、日本の実質的軍隊が戦地に行くことの重大さが分かっていません。「憲法違反だ」と言ったところで、小泉さんに「あなたと私は考え方が違う」と答弁されて話は終わり、改憲論にすりかわってしまいます。不気味さを感じましたね。この人たちは昭和史から何を学んだのかと。
――60年前は、どういう議論がなされたのでしょうか。
その前にかつて中国戦線にいた元兵士の思いを聞いてください。この人は、ポケットの数珠を今も手放せない。村を焼き払うと子供が泣きながら現れたそうです。「どうしますか」と上官に尋ねたら、「始末しろ」。命じる人は言うだけですが、命令された方は自分の手で撃ち殺すわけですよ。「幼子を見るのがつらい。孫も抱けない」と言葉を詰まらせ、戦後社会でも数珠を握り締めているんです。
私はこれまで、旧日本軍の将兵ら延べ約4000人に証言を求めてきました。皆、心に深い傷を負っています。自衛隊員も負うかもしれません。ところが日本にはケアの思想もシステムもないんです。小泉さんは「国民は敬意と感謝の念を持って自衛隊員を送り出してほしい」と言いますが、心理的に傷付いて戻って来た時どうするか。手段も講じず万歳、拍手で送るのは人間性への侮辱ですよ。
http://www.mainichi.co.jp/eye/interview/200402/27-1.html
――首相は「戦争に行くわけではない」と言います。
政府の指導者が国会の場で「戦争」なんて言葉を簡単に使ってほしくない。武器は持って行くわけです。ところが正当防衛の基準は何か、発砲はだれが命令するのか、自己判断でいいのか、緊急事態で米英占領当局(CPA)との指揮命令系統はどうなるのか。議論で詰められていない。小泉さんは人道支援と言い換え、ぼかしてしまう。
私は戦時下の帝国議会を思い出すんです。東条英機首相が、法案の文言に関し「戦時下とはいつまでか」と問われて「戦争が終わった時」と答える。「必勝」の科学的根拠を聞かれれば「日本は3000年負けたことがない」。「負けると英米の奴隷になるから石にかじり付いてでも勝たねばならない」と。子供だましの論でしょう。
小泉さんと似ていますよね。「非戦闘地域がどこか私に聞かれたって分かるわけがない」はあきれるほど正直ですが、最高責任者の言葉ですか。「テロに屈しない」も、耳当たりはいいが、つまり一方が白旗を揚げるまでということですか。兵士を送る歴史の重みが語られない。むしろ私は保守の側に立っているだけに腹が立つんです。
――採決では自民党からも3人が「造反」しました。
ええ。ですが本来なら党議拘束を外し、持ち時間の規制もなくして夜通し議論をやるべき問題なんです。納得のいくまで次々に質問させればいい。野党も、小泉さんが哲学のない無自覚な答弁ではぐらかしても追及の手を緩めず、政府が情報の公開を拒んでも質問をし続けなくてはいけないんですよ。
東条首相の発言を読んで驚いたのが議会の形がい化でした。軍国主義下とはいえ、あんな答弁を許容してしまったんです。今も変わりないですよ。私が60年以上も前の議事録を手にしたように、将来いつか内外の研究者が今回の記録を読むでしょう。彼らは空虚なやりとりにため息をつき、同時代にいる私たちもマスコミをも、同罪と批判することは間違いありません。
自衛隊は行ってしまいましたが、今、私たちは帰す勇気を持たなければなりません。それが日常という平和な空間にいる者の義務です。国会は、冷静に、撤収基準の明確な答弁を引き出すべきなんです。でないと、法がなし崩し的に解釈されてしまう。仮に自衛隊に犠牲者が出た時、「それ見たことか」論が出ること、小泉さんと同じレベルに落ちてしまうことを、私は恐れます。
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ほさか・まさやす
1939年札幌市生まれ。同志社大文学部社会学科卒。出版社勤務を経て著述活動に入り、昭和史を描いたノンフィクションや現代医療を問い直す作品を発表する。「昭和史を語り継ぐ会」主宰。立教大非常勤講師。主な著書に「昭和陸軍の研究」(上下、朝日新聞社)「東條英機と天皇の時代」(上下、文芸春秋)「政治家と回想録」(原書房)など。
http://www.mainichi.co.jp/eye/interview/200402/27-2.html