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網野善彦さん
民衆の生活の記録を掘り起こし日本史に新たな視点を切り開いた歴史家で元神奈川大教授の網野善彦(あみの・よしひこ)さんが27日午前2時、東京都内の病院で肺がんのため死去した。76歳だった。葬儀の日程は未定。自宅は東京都練馬区関町南4の5の31。
山梨県生まれ。東京大学国史学科を卒業後、日本常民文化研究所に勤務し、民衆史の研究を始める。都立高校の教諭を経て名古屋大助教授、神奈川大教授に。この間、荘園や漁村に残る古文書を丹念に読み進めた。
中世を中心に民衆の暮らしぶりを明らかにすることを通して、領主による農民の支配関係を基本に展開されてきた従来の封建社会論に根本から疑問を投げかけるなど、日本史の「常識」を覆す見解を打ち出した。ベストセラーとなった「日本社会の歴史」「日本の歴史をよみなおす」など数多くの著作を残した。
(02/27 14:07)
http://www.asahi.com/obituaries/update/0227/003.html
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【書評】日本の中世6 都市と職能民の活動 網野善彦・横井清著 [朝日新聞]
本紙掲載2003年03月30日
「非農業民」による「職(しき)」の秩序
日本の中世史学の総決算ともいうべきシリーズ「日本の中世」(全十二巻)も、はや十一冊目、そろそろ完結が見えてきた。これまでの諸巻で描かれた千姿万態の図柄の幟(のぼり)の数々が、大局を見通した大御所二人による本巻によって、石井進氏が第一巻で見晴らしよく掲げたポールにしっかりと結わえつけられた、といった塩梅(あんばい)である。
網野氏は本書前半で、都市の職能民を中核に据えた議論を力強く展開する。従来研究されてきた荘園公領制の「職(しき)」だけではなく、神人(じにん)・供御人(くごにん)制(職能民)にもじつは「職」があり、中世世界は特定の職掌・職務の世襲的請負の体系である「職」の秩序として捉(とら)えられる、というのである。海民・山民・手工業者・商人・金融業者、さらには遊女・傀儡(くぐつ)・博打(ばくち)にいたるまで、これら「非農業民」が自律的集団を組織し、職能に応じた義務をはたしていた中世は、河海交通が列島全域をむすび、東北アジア、朝鮮半島とも活発な交易がなされるダイナミックな時代だったのである。土地に緊縛された農民=「百姓」を支配し、地代を収取する在地領主が支える農村的世界=封建社会といったイメージは、ここではすっかり払拭(ふっしょく)されている。
ただ、日本の中世世界に無理矢理当てはめられてきた、と批判される西欧の「封建制」像自体、最近の研究では様変わりしており、流通組織としての初期中世の荘園制とか、封土を媒介とした主従関係が支配的ではない、約定の体系の一部をなす封建制とかが言挙げされていることは、指摘しておきたい。日欧の新たな比較の可能性が兆している、とわたしは考えている。
網野氏による筋金入りの論述の後、後半で横井氏の嫋嫋た( じょうじょう )る筆から紡ぎだされるのは、京都人の雅びな生活風景である。季節感と信心、食生活と遊びなどの話題をめぐって、一見とりとめのない話の接ぎ穂を幾度も接いでゆくうちに、いにしえの雅人の思いが、読者の琴線に着実に触れてくる。
世界の中の中世日本という大きな視野の下に、歴史の転換期の基本構造を覗(のぞ)かせる本書は、世界史の理解にも欠かせない一冊となろう。
評者・池上俊一(東京大教授)
(中央公論新社・358ページ・2700円)
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あみの・よしひこ 28年生まれ。歴史研究者(日本中世史・日本海民史)。 よこい・きよし 35年生まれ。歴史研究者(中世史)。
http://book.asahi.com/review/index.php?info=d&no=3240