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吉林市の新興乗用車メーカー「通田汽車」が、第1弾製品を近く市場に投入する。いまのところ一般にほとんど認知されていない同社だが、実は中国初の民間自動車メーカー、吉利集団(浙江省)の経営者の兄が実質的オーナー。吉利は海外の名車をそっくりまねて格安で販売することで急成長したが、通田もこの路線をしっかり踏襲している。いわく付きの有名兄弟が、またまた自動車市場をかき回しそうだ。【北京・福地大介】
通田汽車が生産するのは、小型乗用車の「閣蘿」。「ドイツから専門家を招いて独自に開発した」という触れ込みだが、外観はフォルクスワーゲン(VW)の「ポロ」とそっくり。「閣蘿(発音はゴールオ)」という名前も、ポロの中国語名「波羅(ボールオ)」に極めて似ている。それでいて価格は4万2,800元と、本家の半分にも満たない驚異的な安さだ。
同社はポロを模倣したことを全く隠しておらず、ポロの広告塔の隣に「同じフィーリング、異なる価格」という自社広告塔を建てる計画が進行中。通田という社名からしてゼネラルモーターズ(中国名は通用汽車)とトヨタを意識したものであることは明白で、同社の徹底した「模倣・格安」戦略がうかがえる。
■吉利の「兄弟」会社
通田汽車は昨年4月、かつてスズキ「アルト」のライセンス生産などを行っていた江北機械廠をもとに設立された。浙江省の企業が出資したことになっているが、実質的オーナーとされるのは李胥兵氏。吉利集団の李書福董事長の実兄だ。
現在は書福氏が実権を握っている吉利は、書芳、胥兵、書福、書通の李氏4兄弟によって創設された。「夏利(シャレード)」をモデルにした格安乗用車の生産で一躍知られるようになり、ベンツの模倣でも物議を醸したことがある。最近ではトヨタから、乗用車「美日」のエンブレムが商標権侵害であるとして訴えられた。
吉利の書福氏はかつて「自動車はみな4輪でエンジンが1つなのだから、世界中すべての車が模倣だといえる。丸ごとまねれば盗作だが、我々は良いパーツを組み合わせて製品を作っているだけ」と豪語した筋金入りの人物だ。こうした確信犯的な模倣品作りの精神は、他の兄弟にも共通している。
■4男は「日本YAMAHA」
中でも、4男の書通氏が起こした「日本YAMAHA」事件は最も悪質だ。吉利から独立した二輪車メーカー、浙江嘉吉摩托車の代表だった書通氏は、2000年に同社の日本法人としてペーパーカンパニー「日本雅馬哈株式会社」を登記。その合弁会社を中国に設立したことにして、「日本YAMAHA株式会社」の商標を使用した二輪車を堂々と製造・販売し、ヤマハ発動機から訴えられた。
書通氏はその後も足を洗った形跡はなく、上海で新会社「傑士達集団」を設立。今度はシトロエンをモデルにした乗用車「美鹿」を開発した。この「美鹿」の生産を担当したのが、通田汽車の前身である吉林江北機械廠だった。
結局、起死回生を狙った「美鹿」は4カ月余りで生産停止。江北機械廠は次男の胥兵氏がオーナーとなり、通田汽車に生まれ変わった。一方、書通氏の傑士達集団は、「日本YAMAHA」事件で絶縁状態になったはずの吉利集団に吸収されている。
■第2弾もVWがモデル
李兄弟のこうした模倣路線を、海外の大手メーカーなどは「外見だけまねても中身の技術が伴わないので、いずれは行き詰まる」と冷ややかに受け止めている。ただ、胥兵氏らは一向に意に介しておらず、通田では来年、VWの「ボーラ」を手本にした第2弾車種を投入する予定を明らかにしている。
胥兵氏の意気込みは、通田汽車だけにとどまらない。同氏は通田の設立に先立ち、やはりアルトをライセンス生産していた江南機器廠(湖南省)の乗用車部門を掌握。昨年秋には生産車の「江南奥拓(アルト)」を2万9,800元に値下げし、全国初の3万元以下の乗用2004年2月9日して話題を呼んだ。
通田の今年の生産計画は3万〜4万台。一方、江南奥拓の生産台数は、これまでのところ数千台規模にとどまっている。
しかし、通田では今後15万〜20万台の生産ラインを構築するとしており、江南も2008年までに26万台規模の生産基地を建設する計画を打ち出している。胥兵氏は将来的に南北の2つの生産拠点を統合し、年産50万台の「乗用車王国」を築き上げたい考えという。【月曜特集】