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http://japan.cnet.com/column/loop/story/0,2000050146,20063916,00.htm
麻生祐司
2004/01/30 10:00 Trackback (0)
この記事は『ダイヤモンドLOOP(ループ)』(2003年2月号)に掲載された「ナノテクがビジネスを変える」の「三菱商事・三菱化学連合が挑む世界初フラーレン事業化のシナリオ」を抜粋したものです。LOOP本誌ではさらに詳しい内容がご覧いただけます。
IT、バイオと並ぶ21世紀の産業技術の中核─。米国クリントン前大統領がそう高らかに宣言して以来、世界の研究者と企業が懸命に開発を進めてきた“夢の技術”、ナノテクノロジーがいよいよ今年、製品として結実し始める。燃料電池や新薬開発、LSIの微細化などハイテクの最先端から、ゴルフクラブや化粧品、Tシャツなどの身近な製品に至るまで、ナノテクを使った画期的な製品が続々と誕生するだろう。全産業を巻き込んだ技術革命が、幕を開ける。
三菱商事・三菱化学連合が挑む世界初フラーレン事業化のシナリオ
「21世紀の黒いダイヤ」の異名を取るナノカーボン素材、フラーレンの商業化に向けた動きが、世界に先駆けて日本で本格化してきた。牽引するのは基本特許を保有し、量産に乗り出した三菱商事・三菱化学連合である。大学、中堅企業、ベンチャーとの連携を強化し、一般消費財から医薬品、燃料電池と猛烈な勢いで新市場を開拓中だ。知財をテコに、事業拡大を狙う三菱グループのフラーレンビジネスは、日本のナノテク革命の成否を占う試金石である。
注文が殺到しているため、納品までに2週間ほどかかります――。2003年夏、ゴルフ用品メーカー、マルマンのホームページ上に、ある商品の納品待ちをお詫びする広告が表示された。その商品とは、同社が03年7月に発売した最高級ドライバー、「ニューMAJESTY(マジェスティ)」。1本10万円以上という高額商品ながら、「飛距離が15ヤード延びる」という宣伝文句が受けて、発売当初より注文が殺到。品薄となったのである。
この商品、見た目にはなんら普通のゴルフクラブと変わりないが、じつはその飛距離を引き出すメカニズムにフラーレンが利用されている。フラーレンとは、1985年に米ライス大学のリチャード・スモーリー教授らが発見した球状炭素分子で、炭素60個からなるサッカーボールのような形をした「C60」が代表格だ。その直径はわずか0.7ナノメートル(nm、ナノは10億分の1m)。高い対称性のため非常に安定した構造で、たとえば、ロケットの速度で壁にぶつけても壊れないといわれている。
マルマンはこの目に見えないサッカーボールをドライバーのヘッドの素材であるチタンに混ぜ合わせ、その硬度や曲げ耐力を向上させた。結果、ヘッドの厚みを薄くできたので、重心位置設計がしやすくなり、飛距離アップを引き出した。
じつは、同社は01年にも“フラーレンチタン”を用いたドライバーを販売したことがある。しかし、このときはフラーレンの安定的な入手が難しく、価格も1g当り5000円と純金以上に高額だったことなどもあり、1000本の限定販売にとどめた。
だが、この2年間で、状況は大きく変わった。01年末、三菱商事と三菱化学はフラーレン量産会社、フロンティアカーボン(FCC)を設立。米国のTDA社から燃焼法と呼ばれる低コスト生産法を導入し、02年5月に三菱化学黒崎工場(福岡県北九州市)内で量産に乗り出した。価格は1g当り500円に低下した。
マルマン自体は現在、大阪の中堅化学メーカー、本荘ケミカルよりフラーレンを購入しているが、三菱グループによる安定供給に向けた動きが本格製品化に向けて背中を押したことはいうまでもない。ちなみに、チタンに炭素素材を混ぜることは、チタンを脆くするため本来はタブーだった。「先入観を持たずに試せば、他分野でも思わぬ成果が得られるはず」と開発担当者の双田武夫氏は語る。「ニューMAJESTY」の売行きは予算比130%と好調で、マルマンは今後もフラーレンチタンの性能向上に努めていく計画だ。
フラーレンの実用化開発がいよいよ本格化してきた。03年1月に日本エボナイトにより製品化された高性能ボウリングボール「NANODESU(ナノデス)」。その外側を覆ったウレタン樹脂にはFFC製のフラーレンが混ざっている。ボールの外側にフラーレンが散らばることで硬さが点在し、摩擦が増した。このためレーン上での空滑りが少なく、投球時に与えた回転でボールが安定的に曲がるようになった。
三菱化学出身でFCC社長の友納茂樹氏は、「フラーレンはようやく学術的に面白いというだけの存在から、産業分野に応用できる有用な素材として認知された」と見る。この10年間、超伝導素材や固体潤滑材、放射化分析への利用などさまざまな分野でフラーレンの研究は行なわれてきたが、その目的は主に学会発表などアカデミックなものだった。
商業化への用途開発を阻んできた最大の理由は供給体制――。三菱商事と三菱化学はそう信じてFCCを立ち上げた。実際、その狙いは的外れではなかった。サンプル出荷先は電機、素材、自動車、医薬と多岐にわたり、その数も03年12月現在で300社を超えた。FCCでは05年にも年産能力を現在の40tから300tに増強する考えだ。価格は1g当り50円程度に下がる見通しで、そうなれば、実用化研究の幅はさらに広がると見ている。
フラーレンは、ナノテクにおける日本の優位性を示す好例の一つといえる。図表1に示したとおり、三菱商事はフラーレンの物質特許を保有する米FIC社の筆頭株主であり、日本・アジア・オセアニア地域における専用実施権を得ている。
三菱商事とフラーレンの出会いは偶然だった。1993年、米国三菱商事に送られてきた、一枚の手紙に、担当者が着目したことに始まる。送り主は、米国のMER社。アーク放電法と呼ばれるフラーレン合成法の特許を譲渡されていた同社がその事業化の可能性を打診してきたのだ。この時担当者の上司でその後フラーレン事業化に“ゴーサイン”を出したのが当時米国支社長だった佐々木幹夫現三菱商事社長である。
佐々木氏らはその後、物質特許などを譲り受けていった。同時に、以前より付き合いのあった本荘ケミカルに研究開発をもちかけた。金属リチウムを日本で初めて国産化するなど、新規事業開発に長けた同社はこの話に飛びついた。「亜鉛末の製造などを通じてアーク放電法に馴染みがあった点も大きかったが、それ以上に単純に魅力に満ちた素材だと思った」と本荘之伯社長は当時を振り返る。
さらに、本社社長に就任した佐々木氏は01年、当時三菱化学CTOだったジョージ・ステファノポーラス氏(MIT教授)に合弁事業の可能性を打診した。三菱化学はタイヤの補強用の添加剤などに使われるカーボンブラックや炭素素材には実績があり、フラーレンに興味を示した。量産化までにはこうした長い助走期間があったのである。現在、日本では本荘ケミカルとFCCの2社が三菱商事より物質特許のライセンスを受けて、フラーレンを生産している。
図表1:フラーレンの基本特許を押さえた三菱グループ