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火星有人探査計画に見る宇宙と政治
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投稿者 M総合研究所 日時 2004 年 1 月 15 日 16:00:20:YhMSq6FRP9Zjs
 

http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040113/mng_____tokuho__000.shtml

火星有人探査計画に見る宇宙と政治
ブッシュ再選の推進力
 火星探査車「スピリット」の着陸成功に沸く米国で、急浮上しているのが火星に人類を送る計画だ。イラク戦争そっちのけで、米メディアは連日、火星有人探査の可能性を報じている。元々は現大統領の父・ブッシュ元大統領がぶちあげながら、頓挫した計画だ。「戦いの神」も意味するマーズ=火星に再接近する米国の真意とは−。

■見直し、過去に何度も

 「火星有人探査でカギになるのは『いつ』か、ということです。それは、ブッシュ大統領の声明にかかっている。それまでは、何とも言えません」

 「こちら特報部」の電話取材に対し、スピリットの火星探査計画を指揮している米航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所のフィルーズ・ナディリ博士はこう繰り返した。

 ブッシュ大統領は今週にも、宇宙飛行士が常駐する月面基地の建設などを含めた将来の宇宙計画を発表するとみられる。米メディアは一斉に、新計画は火星の有人宇宙探査を視野に入れたものになると報じた。実際に大統領が、そこまで踏み込むか、研究者らはかたずをのんで見守っている。

 ナディリ博士は「五百年前、コロンブスがヨーロッパ人にとっての未知の大陸を開拓した当時、現在のような米国を誰も予想だにしていなかった。今、人類は地球全体を開拓し尽くした。『何のために火星に人を送るのか、無人探査で十分ではないか』という意見も確かにあるが、開拓精神は人間にとっては自然なことです」と強調する。

 「火星有人探査のためには、さらに高度な技術的開発、人体の安全性をどう保証するかなど数々の難しいハードルがある。何十年も先の話になる」と前置きしながら「ただ、宇宙開発の父であるフォン・ブラウン博士が一九五〇年代に『火星に人が降り立つのは百年後くらいになるだろう』と言っていたが、そう的を外れてはいないだろう」と期待を込めた。

 だが近年、米国の歴代政権は「金食い虫」の宇宙開発に及び腰で、NASAは数々の計画の見直しを迫られてきた経緯がある。

■「アポロ」時代は国家予算の4%

 ここ数年のNASAの予算は全体で百三十億−百五十億ドルで、国家予算の1%に満たない。アポロ計画を強力に推進していた六、七〇年代には国家予算の4%が投じられていた。

 ちなみに無人探査計画としては破格とされる今回のスピリット計画でも総費用は八億二千万ドルだ。これが往復で最低でも三年はかかるとみられる火星への有人探査となると、要するコストはけた違いだ。

 ナディリ博士も「取りざたされているだけで」と明言を避けながら「四百億ドルから四千億ドルまでの額を耳にしている」と話す。

 宇宙開発に熱心だったブッシュ元大統領が八九年に発表した火星有人探査構想の予算は五千億ドルだった。「アポロ五十周年の二〇一九年には火星に人類を送り込む」とぶちあげたが、巨額の予算に批判が集中し、クリントン大統領によって白紙に戻された。

■「あらゆる名目使い研究続け」

 NASAの事情に精通する宇宙工学アナリストの中富信夫氏は「ワシントンでは宇宙工学は、『宇宙政治工学』と呼ばれている。火星への道は、予算をどう獲得するかという闘い。いかに有力議員を味方に引き入れるかにかかっている。NASA内部でも競争があるくらいだ。予算が縮小される中でも、研究者はあらゆる名目を使って、火星有人探査につながる研究を行っている」と説明する。
 
 国際宇宙ステーション計画にも参加する大同工業大の沢岡昭学長も「火星はNASAの『保守本流』なんです。フォン・ブラウンが『月の次は火星だ』と言った時代から、研究者はひたすら火星を目指している。宇宙ステーション計画も、もともとは火星に行くための中継基地という位置づけだった。基礎研究もすべて火星に人を送る目的で特化している」と説明する。
 
 研究者の熱意とは裏腹にじり貧の時代が続いた「火星」が、ここにきてなぜ急浮上しているのか。
 
 沢岡学長は、「米大統領選に向けた戦略の一環だ」と断じる。

■支持率 宇宙でばん回

 日本惑星協会の関係者も「歴代大統領は、できることならかつてケネディ大統領が『十年以内に月に人類を送る』と宣言して、実現したのと同じ栄誉を得たいと考えている。月の石以上のインパクトがある宇宙の目標は、火星有人探査しかない。ブッシュ大統領にとっては、父が果たせなかった夢でもある。大統領選前に『次のターゲットは火星だ』と宣言したいはずだ」と説明する。
 
 国際政治学者の浜田和幸氏も「ブッシュ政権にとっての誤算は、フセイン拘束で期待したほど支持率が上昇しなかったことだ。逆に、フセインを拘束したのに、いつまでイラクに駐軍するのかという不満が高まっている。反米テロも加速する一方だ。大統領選で、ブッシュ大統領は『テロと戦う強いリーダー』とともに、他国の追随を許さない宇宙開発の力をアピールするはずだ」と話した。

■ケネディ大統領『政治的に必要』

 実際、米国では、泥沼化しているイラクのニュースは、連日の「火星報道」に埋没している。
 
 沢岡学長は「ベトナム戦争を抱えた時代にアポロの月面着陸に熱狂した雰囲気と共通する」と指摘する。
 
 「最近、ケネディ大統領が『(アポロ計画には)たいして興味はない。だが政治的には必要だ』と話している録音テープが見つかって話題になった。科学的な取り組みではなく、初の人工衛星(スプートニク)と初の有人宇宙飛行(ガガーリン)で先を越されたソ連を追い抜くこと、ベトナム戦争の暗い空気を変えることが最大の目的だった」

 技術的な差は開いているものの、ライバルも台頭している。昨年十月に初の有人宇宙飛行に成功した中国が、二〇二〇年までに火星に向けた探査機を打ち上げる計画を明らかにした。
 
 前出の中富氏は「米ソ冷戦の時代は『ソ連もやっている』という一言で、あらゆる予算が通った」と説明しながら、中国の“参戦”はNASAにとっての「追い風」とみる。「潜在的な仮想敵国であるだけではなく、露骨に米国の宇宙開発技術を盗んでいる中国に対しての敵がい心も強い」
 
 では、ケネディに模してブッシュ大統領も「火星」に向けまい進するのか。
 
 沢岡学長はこう見通す。
 
 「選挙戦を通じて、米国人の気を引き日常から目をそらせるために『火星』は最大限利用されるだろう。予算も多少は増えるかもしれない。ただ十年以上先の計画は米政権にとって『言い得』で、確かなものでない。それでも一進一退を繰り返しながら、いつか人類は火星に降り立つはずだ。ただ米国が言う人類とは米国人なわけですが…」


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