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「欧州どまんなか」クリスマスツリー物語 [美濃口 坦]
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投稿者 なるほど 日時 2004 年 1 月 14 日 07:30:33:dfhdU2/i2Qkk2
 

January  13, 2004

ドイツで長く暮らす私は今年はじめて、我が家のクリスマスツリーが休日の1月6日にしまつされるのを知った。これは、私が生まれてはじめて妻といっしょにクリスマスツリーの飾りつけをはずし2メートル以上もある樅の木を捨てたからである。

松飾りをはずすのは京都では15日、せっかちな東京では7日といわれ、それまでは「松の内」である。妻がクリスマスツリーを立てた12月24日から1月6日までが、我が家の「樅のうち」ということになる、、、、、、、

ドイツ人は、確かV2とかいうロケットを発明したが、クリスマスツリーまでも自分たちがはじめたと誇りに思う。ドイツからクリスマスツリーが、1748年に北米ペンシルベニアに伝播したとか、1840年ビクトリア女王がドイツ男と結婚して英国にもたらされたとかいった話をよく聞く。確実にいえるのは、十八世紀から一九世紀にかけてクリスマスツリーがドイツの新教徒のあいだで普及していたことである。

地球上どこでも冬に葉を落とさない常緑樹が頼もしがられる。そのためにドイツの職人の世界ではいつも樅の木に飾り付けをする風習があった。昔我が家の隣の空き地で家が建てられはじめた。「棟上式」に似た儀式があり、私も招かれて飲んだり食べたりする。ほろ酔い気分でふと見上げると屋根に樅の木が固定されていて、その枝から色紙の帯が何本も垂れ下がっていて、私は一瞬七夕の笹を連想する。この風習も、常緑樹の樅の木が「家を守る」と期待されているためである。

キリスト教と無関係なこの種の風習がクリスマスツリーになるためには、もっと別の意味が付け加わる必要がある。あるドイツの民俗学者によると、港町・ブレーメンの年代記に1570年頃にあった「ナツメヤシの木」という職人の風習を紹介されているそうだ。木が建物の中に置かれ、その枝にお菓子や果物がぶら下がっていて、子供たちが食べたいだけ食べることができた。ここからクリスマスツリーを「楽園」の象徴とする考え方までは後一歩である。

ナツメヤシはオリエントと結びつくので、自分たちは理性で欲望を抑制するのに、オリエントでは人々が放縦に欲望を充足していると当時のドイツ人がすでに思っていたことになる。オリエントに対するこのやっかみ半分の偏見(=オリエンタリズム)がこんな昔から存在していたのは興味深い。

写真は平均的ドイツのクリスマスツリーである。部屋に置かれた樅の木にロウソクや星や天使などのいろいろな飾りものがぶら下がっているが、赤い玉が重要で、これは果実である。昔、私は南ドイツのお百姓さんの家でクリスマスを過ごした。そこでは本物の小さなリンゴがぶら下がっていた。これは、クリスマスツリーが「エデンの園」の木であり、その実を食べたアダムの「失楽園」と「堕罪」を表現し、その罪を救済するイエス・キリストの誕生というクリスマスの話につなげるためである。この宗教的意味は、現在クリスマスツリーを見るドイツ人の意識にのぼらないし、また多くの人は知らない。

北ドイツの新教徒の風習であったクリスマスツリーが南ドイツのカトリック教徒に受けいられるようになったのは、一九世紀の後半からである。プロシア軍上層部が1870/71年の普仏戦争のさなかのクリスマスに士気高揚のために兵舎や野戦病院にクリスマスツリーを立てさせた。その時、宗派がカトリックの兵士もそれまで馴染みのなかったクリスマスツリーを美しいと思ったといわれる。これがきっかけでクリスマスツリーが全ドイツにひろがる。

多くのドイツの家庭では、赤ちゃんのイエスとその両親を表わす木彫りの像や、厩舎のミニアチャがクリスマスツリーの下に置かれる。イエス・キリストの誕生をしめすこの厩の飾り物はカトリック起源で、ドイツのクリスマスとは、この旧教的要素とクリスマスツリーという新教的なものが仲良く同居していることである。こう見ると、ドイツ国民が三十年戦争以来の「新教対旧教」の宗教的対立を克服することができたのは、フランスという外敵の存在とクリスマスツリーのお陰になる。

クリスマスにドイツでは平和に対する願望や家族の絆が強調される。これも、当時戦場を生き延びた兵士の野戦病院や兵舎でのクリスマスツリー体験と無関係でない。

クリスマスツリーはドイツの町の広場でも見られるが、本来各家庭の居間にあるものとされる。これはクリスマスが家族で祝うものだからだ。でもこのようなクリスマスの在り方が今や変わりつつあるといわれる。昔12月24日の夜に営業しているレストランや飲み屋は稀であったが、今は本当に多い。

我が家でも、子供たちは大きくなり、今回本当は友だちといっしょにクリスマスをスキー場で過ごしたかったそうである。彼らはクリスマスプレゼントを現金でもらった途端出掛けてしまった。このような事情から、私は丹念にクリスマスツリーの飾り付けをした妻に同情を覚える。今までクリスマに関して非協力的であった非キリスト教徒の私がその後片付けの手伝いをしたのはこのためで、今後も繰り返すような気がする。

http://www.asahi.com/column/aic/Tue/d_tan/20040113.html

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