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和田さんは、少しでもいいから法律学にふれてみるべき。
西洋世界がいかに、争いにつぐ争いを経てきたのか、
その結果として、いかに法律が不可欠であったのかといういきさつを学ぶべき。
精神科医としては優秀な和田さんへのものだからこそのアドバイスです。
〜〜以下本文
http://www.hidekiwada.com/
【 先進国という理不尽に堪えること / 和田秀樹 】
誰もが予想していたことだが、麻原彰晃に死刑判決が出された。
しかし、彼の弁護士たちは、すぐに控訴をした。
そうでなくても、8年以上の月日が経っているというのに、なんであんな男が、
まだ何年も生きていられるのかということに理不尽を感じた人も少なくないだろう。
実際、私もその一人である。
今は、アメリカはバリバリのタカ派のブッシュが大統領なので(彼はテキサス州
知事時代、記録的な数の死刑のサインをしたそうだ)問題はないが、現状のヨーロッ
パの流れをみる限り、死刑廃止がトレンドのようだ。これでアメリカにも同様の人権
主義者が大統領に選ばれるようなことがあれば、この流れは一気に加速しかねない。
そうなった際に、日本は「先進国の一員」でいるために、死刑廃止を受け入れること
だろう。
もともと法治国家というのは、多少理不尽でも、国や法に事件の解決を任せろと
いうことから始まったらしい。ありていにいうと、勝手にあだ討ちをされたのでは、
その連鎖が終わらないし、国としての秩序が保たれない。そこで、その罪の程度に
応じて、国が代わりに罰してやるというシステムが法治国家というわけだ。
しかし、人を殺しても、必ずしも死刑になるわけではない。むしろ、更正をさせる
という教育刑の考え方がでてくると、どんどん相対的な罪が軽くなっていく。しかし、
一方で民主主義国であるので、法律というのは民衆が選んだ議員が作る。それで不服
なら、人を殺した人間はすべて死刑にするという法律を作ると主張する議員を選べば
いいのだが、少なくとも、ヨーロッパでは、むしろ死刑を廃止しようと主張する議員
が選ばれてしまうのである。
ただ、右の頬を打たれれば左の頬を差し出せという宗教を信じている国と、目には
目をという宗教を信じている国では、どんな議員が選ばれるかはおのずと違ってくる。
問題は、現在、先進国と言われている国々が、日本を除き、すべて一つの宗教の
価値観で染まっていることだ。男女平等というのも、我々は普遍の価値観のように
思っているかもしれないが、宗教的な価値観なのかもしれない。ただ、もしそうで
あったとしても、先進国の仲間に入れてほしければ、その価値観や社会システムを
受け入れなければならない(ただし、それが大衆の選択であればの話だと私は
信じる。その価値観を受け入れないからといって、武力制裁を行うのはまさに宗教
戦争の発想である)。
いずれにせよ、法治国家でいたいと思っているのなら、国なり、国の選んだ裁判官
の方針なりに従わざるを得ない。先進国でいたいと思っているのなら、その国も、
ほかの先進国の方針に従わざるを得ない。この理不尽に堪える覚悟があるかどうかを
問われていると言うことだろう。
たとえば拉致問題にしても、被害者の意向を最大限に尊重して外交を進めないと
いけないというのが当たり前の世論のようになっているが、本来、外交というのは
そういうものではないだろう。
たとえば、沖縄に駐留するアメリカ軍の軍人がレイプや場合によって人殺しを
したとしても、今でこそ身柄が要求できるが、力関係が圧倒的に弱かった頃には、
日本は泣き寝入りするしかなかった。理不尽なことではあるが、個人の生存権より、
外交方針のほうが優先されたということだろう。
もちろん泣き寝入りをしないという選択肢もある。フィリピンのように駐留米軍を
追い出す政権を大衆が選ぶなり、対米強腰の人間を選ぶという選択肢を大衆が取れば
いい。しかし、一般大衆はそうしなかった。理不尽であっても、大衆の利益に、
個人は従わなければならない。たとえば、北朝鮮にものすごく貴重な資源がとれて
いたり、日本の経済状況が思い切り悪くて北朝鮮が大事なお得意先であるという
力関係なら、拉致被害者には申し訳ないけれど泣いてくれという話になっていたこと
だろう。
今回の場合はたまたま力関係では圧倒的に日本が上なので、妥協の必要はないよう
に見えるが、アメリカの政権が変わり、余計な軍事費を使いたくないという状況に
なって、とにかく核開発を断念してくれれば拉致を不問にしろとアメリカから圧力が
かかった際に、それを突っぱねる政権を選ぶかどうかは大衆が選ぶことなのである。
少年に殺された被害者の人権と比べてみればわかる。
妻をレイプされ殺された上、乳飲み子まで殺された被害者の家族が、裁判所に
遺影をもちこんだだけでつまみ出される。そして加害者は死刑にされず、無期懲役の
判決を受ける。彼は少年であるが故に、おそらく10年かそこらで仮釈放され、少年で
あるが故に、匿名のまま街に住む。その少年が被害者の家族に対して、釈放後「お前の
負けだよ、バカ」と罵倒したところで、おそらく罪に問われないだろうし、それにもし
被害者の家族がカッとして殴ったりすれば、刑務所にその人のほうが入れられる。
その少年が釈放後、まだ30にもなっていないくらいなので、まだ性欲に盛りがあって、
レイプを続けたとしても、人を殺さなければ(殺したとしても一人であったなら)、
何人の女性が被害を受け一生心に傷が残った上、社会生活に支障がきたしても、
前の判決は覆ることはないし、娑婆に出た後の事件でも死刑にはならない。
最近、もと暴走族の頭だった人間が弁護士や役者になって大成功し、その更正ぶり
が世間でヒーロー扱いされているが、彼らが現役の暴走族だった時代に、ぼこぼこに
されて、あるいは集団リンチを受けて、いまだトラウマのためにまともな仕事に就け
ていない人もいるかもしれない。しかし、被害者のほうは泣き寝入りで、加害者の
ほうは、その後、悔い改めたのだから過去は問われず、むしろ、そのころ一切悪い
ことをしなかったまじめな秀才たちよりも、ヒーロー扱いされる。彼らの書いた本を
読んだことがないので、軽々しいことはいえないが、「青少年の時代は、多少悪な
くらいがいいんです」などという発言をすれば、それを大衆が真に受けるかも
しれない。これでは、その頃、人を殴りたいのを我慢していた子どもたちや、
あるいは、そいつらに殴られてトラウマを抱えている人たちの立つ瀬がない。
名古屋の刑務所内の受刑者の処遇問題だってそうだ。彼らにしても娑婆で人を
殺したり、ぼこぼこにしたり、レイプを重ねてきた人間かもしれない。また、
刑務所の中で、看守に殴りかかったのかもしれない。しかし、看守の側の暴力は
許されず、元加害者の人権は最大限に配慮される。
それが法治国家というものなのである。
北朝鮮問題にしても、何のメリットもないから、あそこの国と仲良くする必要が
ないという話になっているが、昔、日本の会社が仕事を受注することを条件とし
外国の援助をしていた日本は、自分の国のメリットのためだけに援助するのはよく
ないと、国外からだけでなく、国内からも批判された。メリットを考えずにやると
いうのが、途上国援助の原則とさえされている。これにしても理不尽な話だが、
先進国であるための義務だそうだ。
あるいは、拉致被害者の帰国問題にしても、北朝鮮側は「一時帰国だったのだから
帰せ」と迫る。当時の報道には確かに「一時帰国」と書かれていたから、おそらく
一時帰国の約束をしたのだろう。日本人の心情としては、向こうが悪いことをしたの
だから、約束を守る必要はないということなのだろうが、相手が野蛮国でも、こっちが
先進国である以上、本当は先進国のほうは、約束を守るというのが、先進国という
ものを選んだ以上はルールなのだろう。(もちろん、相手が野蛮国であった場合、
先方がルールを破った際には、アメリカがやるように制裁をする権利は先進国にも
あるようだが)
心理屋としての私の見解だが、今回の北朝鮮問題で、相手が悪いことをしてきたの
だから、乳飲み子を含めて何百万人飢え死にしても、経済制裁をしたり、かけらの
食糧援助もしない、相手にした約束も守らないという風な発想になるのは、先進国で
あるがゆえの理不尽に、本音のところでは、日本人も堪えられないということの発露
なのではないだろうか?あるいは、オウム事件の後のように、住民票を受け付けない
などという信じられない行為が公然と行われたのもそうだろう。
本音では、先進国のように加害者の人権なんて認めたくないし、こんな理不尽は
勘弁してほしいのだろう。だから、人権屋たちも一緒になって被害者の味方に
なったり、加害者の肩をもつようなことをいうと袋叩きになるのが怖いようなケース
では、かんたんに加害者の人権などは吹っ飛んでしまう。
この不自由さや理不尽に堪えるかどうかは純粋に価値観の問題だ。選挙などを
通じて、先進国として、キリスト教的な価値観に従わないという選択は十分に可能だ。
シンガポールにしても、中国にしても、善良な一般市民の人権を優先して、加害者
には重罰を与えるという選択をしている。多少の圧力にも動じないし、むしろ勝手な
価値観をおしつけるなと突っぱねる。
私は、先進国型とシンガポール型のどっちがいいのかはわからない。ただ、精神
科医としての直感としては、後者のほうが宗教をもたない日本人のメンタルヘルスに
いいように私には思える。
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