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進まぬイラク復興
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20031231/mng_____kakushin000.shtml
サダム・フセイン元大統領の拘束後も反米勢力の攻撃がやまないイラクで、米軍は戦後復興にも苦戦している。各地に展開する米軍部隊は、ゲリラ掃討作戦と並行して、小学校の修復や警察組織の立て直しを進めるが、復興は遅々として進まない。ティクリット郊外の小さな町で、復興をめぐるトラブルを実際に目撃した。そこでは、部族社会の論理が、米軍の壁となって、立ちはだかっていた。
(バグダッドで、秦融)
十二月末、日本人外交官殺害事件を捜査するティクリット郊外のディジュラ署の署長室。ジャバール署長と、この地域に展開する米軍第四歩兵師団のヒューロン大佐が約一時間に及ぶ会談を持った。会談の中身は外交官殺害事件ではなく、主に小学校の修復工事と、警察に配布された制服について、だった。
■「逮捕せよ」
大佐は、地元の部族長に任せた小学校の修復について、「族長は米軍と交わした契約をきちんと履行しているか」と署長に尋ねた。
署長は「取り換えたドアのノブは安物ですぐに壊れました。約束のヒーターも入っていません。族長は壁を塗り替えただけです」と答えた。
「何?」
大佐は絶句した。「族長は十分な金を受け取り、契約にサインもした。契約に従わなければ、君は族長を逮捕しなければいかん」と言った。
署長は「そうですね」と笑い、居合わせた部下たちも笑った。冗談と受け止めたようだ。
この地域で、族長は「威厳を持つ父親」のような存在で、武装した村人に守られている。署員にはその村の出身者も多い。署長など吹けば飛ぶような存在だ。
大佐がゆっくり、繰り返した。「逮捕しろ。(新しいイラクで)それが君らの任務だ」。署長たちの顔が凍り付いた。
■わずか一組
次に大佐は、米軍がイラク警察全体に支給した警察官の制服が行き渡ったか、確認した。
署長は「署員四十八人分のうち、署に届いたのは上下の制服一組と、靴下八足です」と話すと、大佐は再び絶句した。
署長は「戦争前は(元大統領の出身地)ティクリット署が装備のすべてをぶんどっていきました。戦後は(上部組織にあたる)サマラ署が全部持っていってしまいます。われわれのような小さな署の状況は何も変わっていません」と両手を広げた。
大佐は「わかった。その件は軍で調べておく」と答えた後、外交官殺害事件の取材で待っている記者を振り返りつぶやいた。
「私には(日本人外交官殺害事件と)もう一つ別の重要な捜査が残されたわけだな」
■甘かった
大佐から族長逮捕を命じられ、青ざめた署長に数日後、状況を聞いた。「族長はドアのノブを替え、ヒーターも入れ、契約を全部やってくれた」とホッとしたように答えた。「米軍が怒っている」と族長を説得したようだ。
だが、制服については「少し回ってきたが…」と口ごもり、「今度、大佐が来るときに相談する」と話した。“中間搾取”された制服は、すでに闇市で売り飛ばされた可能性もあるようだ。
◇ ◇ ◇
イラクの戦後復興に、日本などから注ぎ込まれる巨額の経済支援。しかし、復興事業を仕切る米軍でさえ、民主化が進まないイラク社会の現実に振り回されている。米軍大佐と署長のやりとりからそうした実情をかいま見た。
力の論理が支配するイラクの社会を、恐怖政治で抑え込んでいたフセイン政権なき後、それに代わりうる存在が、現時点では米軍以外にない、というのも現実ではある。しかし、米軍は戦後統治計画で、イラクに二百以上あるという部族の論理を甘く見た。そのつけがきている。