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自衛隊イラク派遣 もうひとつの危険 『文明の衝突』加担
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20031221/mng_____tokuho__000.shtml
空自先遣隊に命が下り、自衛隊のイラク派遣は秒読みに入った。国内では派遣の違憲性が焦点だ。だが、外からはパレスチナを軸とする「文明の衝突」に日本が巻き込まれたかに映る。イラクの米軍統治がイスラエル右派との連携を強めているからだ。そのイスラエルで和平機運が盛り返す。日本の「背伸び」が世界を逆走する危険もある。 (田原拓治)
■米軍統治『イスラエル化』
今月十四日のフセイン元大統領の拘束を伝える米紙「ニューヨーク・タイムズ」の片隅に、見慣れない単語が記されていた。「特殊部隊タスク・フォース121」。米陸軍第四歩兵師団とともに拘束劇を演じた。
この特殊部隊の存在は今月初め、英紙「タイムズ」にスクープされ、一部の欧米メディアで注目された。米誌「ニューヨーカー」のシーモア・ハーシュ記者の報告を要約すると−。
「(121は)先制的な“人狩り”戦略のため、ラムズフェルド国防長官の肝いりで、陸軍のデルタフォース、海軍のSEALSなど特殊部隊、加えて米中央情報局(CIA)の選抜メンバーで編成された。イラクのバース党の地下情報網を操る中核メンバーの暗殺や拘束が主任務だ」
■人狩り部隊訓練を依頼
英紙「ガーディアン」はさらにこう付け加える。
「国防総省はこの部隊の訓練のため、イスラエル軍の対ゲリラ戦専門家をノースカロライナ州のフォート・ブラッグ訓練基地に招いた。イスラエル軍のコンサルタントはすでにイラクにも入っている。『121』にはシリア国内に潜入し、イラク国境を越える前にアラブ志願兵を暗殺する任務も課せられている」
イスラエル軍は二〇〇〇年九月の「第二次インティファーダ(対イスラエル民衆蜂起)」発生以来、パレスチナ自治区で暗殺も含む「テロリスト」掃討作戦を展開している。この経験に学べ、というのだ。
■湾岸戦争後暗殺計画も
イスラエルは九二年、前年の湾岸戦争でスカッドミサイル攻撃を受けた報復として、当時のラビン首相の命令で、訓練中の死亡事故で派遣は中止されたものの、フセイン元大統領の暗殺部隊を創設していた。
この「121」の創設に携わった国防総省メンバーも、強硬路線をひた走るイスラエル右派のシャロン政権に連なる面々だ。
代表格はステファン・キャンボーン国防次官(情報担当)とウイリアム・ボイキン国防次官代理(陸軍中将)。キャンボーン次官はイラク戦争を「イスラエルの平和のため」と先導した新保守主義(ネオコン)派で、「使える小型核」の開発を主張したシンクタンク「国家公共政策研究所(NIPP)」の幹部だ。五月のイラク戦争終結宣言直後、押収した軍用トラックが「移動用の生物兵器実験室だ」(誤りと判明)と騒いだ張本人である。
■『宗教戦争』物議を醸す
ボイキン中将はネオコンと同盟関係にあるキリスト教原理主義者で、イラク戦争を宗教戦争と位置づけて物議を醸した。いわく「イスラムの神はニセモノ」「イスラム社会は悪魔であり悪魔はわれわれをキリスト軍として滅ぼそうとしている」「ブッシュ大統領は選挙で選ばれたのではなく神によって指名された」。
だが大統領自らが「神が私を大統領選に出馬するよう欲していると感じた」(ステファン・マンスフィールド著「ジョージ・W・ブッシュの信仰」)と独白する政権下で、舌禍におとがめはなかった。
この特殊部隊に限らず、今秋以来、米軍は泥沼状況をパレスチナ自治区で続く「イスラエル方式」で打開しようとしている。抵抗勢力の同調者と見られる住民の家屋破壊、メンバーの自首を促すため親族の拘束、抵抗勢力が潜んでいるとされる村落の封鎖などだ。
■パレスチナ問題に重ね
一方、イラク国民も「われわれとパレスチナ人に違いはない。フセイン政権が倒れたとき、イラク国民は誰ひとり自分の村が米軍に包囲されるとは思わなかった」(イスラム・オンライン)と反米感情を強める。
シリア在住のパレスチナ難民で、イラクへの義勇兵として死亡した青年の家族が「パレスチナの敵と戦って死んだ」(アラブ首長国連邦英字紙「ガルフ・ニュース」)と語るように、イラクでの攻防は中東やイスラム世界でパレスチナ問題に連なる「文明の衝突」の色彩を帯びてきている。
特殊部隊や統治評議会が新設する情報機関は、抵抗勢力一掃につながるのか。
「ベトナム戦争でもこれと似た方式が採られ、二十万人以上が犠牲になった。戦争に関与した者だけでなく、私的な感情で殺された者もいた。この作戦の責任者であるウイリアム・コルビーCIA元長官は『すべきでない多くのことがなされた』と振り返った」(前出のハーシュ記者)
■米大統領も中道を模索
特殊部隊はバース党残党勢力を攻撃対象にするとしている。だが、これまでフセイン勢力の再興を恐れ、米軍に対し自制してきたシーア派勢力などが「フセイン拘束」を機に反米活動を激化させるという観測も流れている。
国防総省を根城とするネオコン勢力が、いまだ発見されない大量破壊兵器をあるかのように情報操作し、戦争の引き金を引かせたことはすでに周知の事実だ。
ブッシュ大統領も十月、イラク統治の指揮を国防総省からライス大統領補佐官が率いる「イラク安定化グループ」に切り替えたり、ネオコンと対立してきた中道派のベーカー元国務長官を今月、特使として欧州へ派遣した。イラクでの泥沼から抜け出すべく国際協調路線への転換を模索しているといわれる。
■シャロン政権批判が噴出
ネオコンと一蓮托生(いちれんたくしょう)のイスラエルのシャロン政権にも火が付き始めた。九月、イスラエル空軍の二十七人の兵士がパレスチナ自治区への空爆命令を「国家テロには加担しない」と拒否。制服組トップ、モシュ・ヤアロン参謀総長は十月、異例の政権批判をした。
「現行のテロ対策がパレスチナ人の憎悪をかきたて逆にテロを増やしている。(パレスチナ自治区での)夜間外出禁止令を緩和し、(自治区内に建設中の)分離壁も取り除くべきだ」
今月一日にはジュネーブでカーター元米大統領の立ち会いの下、野党労働党のヨシ・ベイリン元法相とパレスチナ自治政府のアベドラボ元内閣相が約二年半の秘密会合の末、「ジュネーブ合意」と名付けられた和平試案が署名された。
■はしごを外される可能性
法的拘束力はないものの、中道派のパウエル国務長官も激励したとされ、欧州連合(EU)、英国、ロシア、エジプトなどアラブ諸国も支持した。国際情勢の風向きは明らかに変わりつつあり、米追随型で自衛隊を派遣する日本がはしごをはずされる恐れもある。
ただ日本の中東地域研究家は「現状のイラク統治はまだネオコン主導だ。この時期に日本がイラクへ派兵すれば、主観的に復興支援と言っても、ネオコンやシャロン政権への協力者とみなされる」とし、日本が「文明の衝突」に巻き込まれる危険を警告している。