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自衛隊を必要とする米国の事情
12/09/2003(日本時間)
毎日インターナショナル
◇イラクでの実質「戦力」を期待◇
〜ワシントンDCから〜
「(自衛隊派遣の)日本の方針はぐらついていない。日本は、やると言ったことを、きちんとやると思う」
奥克彦・在英大使館参事官と井ノ上正盛・在イラク大使館3等書記官が殺害された事件を受け、12月3日、ワシントンの日本大使館を訪れたアーミテージ米国務副長官はこう語った。
12月1日にも、ホワイトハウスのマクレラン報道官が、同じ趣旨を述べている。日本への「信頼」が揺らいでいないこと示す度重なる言明は、自衛隊派遣への「期待」を込めた米政府の一貫した姿勢を示す。
その期待に答えるかのように、日本政府は、イラクへの自衛隊派遣の大枠を定める基本計画を12月9日にも閣議決定する方針を固めた。派遣時期は流動的だが、陸海空の3自衛隊で1100人規模になるとされる。
2人の外交官が亡くなったのと同じ日に、イラクで民間人が犠牲になった韓国でも、盧武鉉大統領が3000人規模の派兵方針を明言した。盧大統領は、「核問題など朝鮮半島の安全保障には重要な懸案がある。こうした時期には、いつよりも緊密な韓米関係が重要で、米国への協力が必要だ」と派兵の本音を正直に説明している。この言葉をさらに分かりやすく解釈すれば<本当は、イラクで血を流すのには気がひけるが、北朝鮮との有事があれば、米国が韓国を防衛するのだから、今は米国に協力しなくては>というところだろう。
小泉首相は自衛隊派遣の閣議決定にあたって、国民に説明する機会を設けるという。おそらく「日米同盟を損なうのは国家利益に反する」という本音部分の説明をにじませるとみられる。
日本・小泉、韓国・盧の両政権に共通するのは、人員派遣に関して、「テロと国際社会との戦いへの参加」という建前レベルの理由の裏に、「米国との関係強化」という本音レベルの理由が見え隠れすることだ。もちろん重点は後者にあるから、両国にとって、派遣は「実質」であるよりも、「象徴」的な意味合いのほうが強い。
◆アーミテージの「圧力」
一方、米国にとってみると、韓国軍の3000人、自衛隊の1100人はぜひともほしい実質的な「戦力」である。それには、駐イラク米軍の苦しい展開事情がある。
現在、イラクには米陸軍の4師団が駐留する。バグダッド周辺には第1機甲師団と第4歩兵師団、北部には第101空挺師団、西部には第82空挺師団がいる。米兵の総兵力は約13万1600人。
イラク戦争が終わった後、駐留期限を明示しないことについて前線兵士から不満が出たため、国防総省は7月、部隊ローテーション計画を発表。イラクへの駐留は7カ月から1年に限ることを決めた。そして、第82空挺師団が来年1月に交代になるのをはじめ、5月までには現在の4師団はすべて入れ替わることになっている。
計画では、現在の4師団に代わり、第1歩兵師団、第1装甲機動師団、第1海兵師団の3師団が、イラク入りすることになっている。師団が一つ減ることで、駐留米軍は13万人体制から10万5000人に減少する予定だ。
しかし、この計画には、(1)イラクの治安は安定する(2)イラクの治安部隊の訓練が進み、治安維持の権限を委譲できる――という条件とともに、米英以外の各国軍が次々とイラク入りし、復興を担うとの前提があった。例えば、トルコ、パキスタンのようなイスラム諸国、さらには、インドなどの近隣国が1万人規模で派兵し、米軍の物理的な負担を軽減することを、米政府は望んでいた。ところが、こうした国々は、大規模派兵を中止、あるいは躊躇している。
米陸軍はこのほか、アフガニスタン、コソボ、ボスニア、中東シナイ半島に兵を出している。だから、イラクの事情が変わったからと、陸軍がこれ以上の派兵するのは不可能だ。このため、11月末、海兵隊3000人を追加派兵することを急きょ発表したが、依然足りない。
米国にとって、自衛隊派遣は当初は、日本側と同じように象徴的な意味合いが強かったかもしれない。しかし、現状では、自衛隊の1100人は、喉から手が出るほどほしい「戦力」である。それも、来年1月から米軍の帰還が始まる事情を勘案すれば、できるだけ早く来てほしい。
参考までに、米軍以外の駐留軍は、英国(約1万1100人)、ポーランド(約2300人)の2カ国が南部と中部で主要な役割を担当し、そのほか34カ国が軍、警察部隊(合計約1万人)を送っている。自衛隊が派遣するとされる1100人より多くの人員を派遣するのは、ほかに、イタリア(2300人)、ウクライナ(1660人)、スペイン(1300人)だけだ。こう見ても、1100人が「象徴」ではなく、「実質」であることが分かる。
アーミテージ副長官が弔問のため、わざわざ日本大使館に出向いたのも、ブッシュ政権には日本を「信頼」したい期待の半面、「圧力」を掛け続けなければ日本が消極姿勢に転じるのでは、という「懸念」があるからにほかならない。
◆バグダッド訪問のパフォーマンス
繰り返すが、日本のような強固な同盟国には、人員を派遣してもらわなくては困るのである。そして、ブッシュ政権には、国際社会への広いアピールより、親しい「同盟国」に頼る内向き志向が顕著にな・td><2トいるようにみえる。
これは、感謝祭の夜の電撃的なバグダッド訪問でも感じた。イラク国民の前に姿を現すこともなく、米国テレビ向けの完全なパフォーマンスだ。イラク国民との対話より、「よくやっている米兵をねぎらう大統領」の国内でのイメージが大事だったのである。
ワシントン・ポスト紙のコラム(12月2日)は、10月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)に出席し、自分の言葉で中国の立場を訴えた胡錦涛総書記と比較し、ブッシュ大統領のアピール力不足を痛切に批判した。
日米同盟も大事だ。しかし、「内向き」ブッシュ大統領に「お付き合い」するツケは、日本自身が払うことになることも忘れてはならない。
★在ワシントンDCジャーナリスト・森暢平=サンデー毎日12月21日号(12月9日発売)連載中。