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<ワシントン情報> インサイド
急増する駐イラク米兵の自殺
◇自衛隊も直面する戦場ストレス◇
〜ワシントンDCから〜
「兵舎にはシャワーも、ベッドもない。警備の時、子供がこちらに向かってくるだけで、襲われるのではと、緊張する毎日だ」
イラクで自殺した米兵、ジョセフ・スエル伍長(24)が書いた手紙にはこう記してあった。バスケットボールで鍛えた強靭な身体を持ち、3人の子供を愛する良き父。彼は6月15日、鎮痛解熱剤を大量に飲み、そのまま意識が戻らなかった。
イラク派遣の前には韓国に駐留しており、もう2年も家族と離れ離れだった。死の直前、妻に電話し、「クリスマスには帰りたい。精神的につらい。帰国できるよう、司令官に頼んでもらえないか」とまで依頼していたという。妻へのSOSだ。実際、妻は司令官に帰国を懇願したが、受け入れられなかった。
厳しい気候、寂しさ、そして恐怖……。戦場の過酷な環境からくる精神的圧力のことを米国では「戦場ストレス」と呼ぶ。若き父は耐え切れず、発作的に死を選んだのだった。
国防総省は6月18日、彼の死を発表。地元テキサスの新聞は「ヒーローの死を悼む」と書いた。当初、死因は隠されていた。
国防総省によれば、12月11日現在、451人の米兵がイラクで犠牲になったが、うち143人が「非戦闘行為中の死」と分類されている。同省はこのうち17人が自殺だったと公式に認める。
しかし、発表を詳しく分析すると、「武器の発射」が13人、「呼吸不全」が1人、さらに死因が記載されていない例も13人ある。この中に、スエル伍長と同じような自殺例が隠されているはずだ。
米国のNPOには「イラク駐留米兵の自殺者は、米国の一般社会の3倍」と主張する団体まである。国防総省はこれを「大げさだ」と否定するが、その一方で、ひそかな対応も始めている。
11月、メンタルケアに関する緊急医療チーム(12人)をイラクに派遣。どのような対策が有効かの検討を始めているのだ。米陸軍の担当部署は、「現地調査をしたのは事実だが、報告書ができるまでは話せない」と多くを語らない。しかし、<急増する自殺者に手を打たないと、兵士たちの士気に影響する>と考え始めたのは事実だろう。
◆半数が「部隊の士気低い」
では、その戦場ストレスによって、実際、現場の「士気」はどうなっているのか。フランスの週刊誌「カナール・アンシェネ」は、任務を勝手に離れる米兵が増え、1700人に達すると報じた(12月3日)。ただ、これまでに公になったのは、陸軍特殊部隊の三等軍曹(32)が9月、戦場でイラク人の遺体を見てショックを受け、「精神的な打撃を受け職務を遂行できない」と帰国を申し出た例だけである。彼はベトナム戦争以来、初めて「戦意喪失罪」に問われた。
「1700人」という数字が、どこまで真実を反映しているか検証できない。ただ、戦場ストレスによる精神的なダメージを訴え、一時的に職場を離れるケースが少なからずあることは事実だ。国防総省の統計によると、「治療」を目的に、イラクからドイツの米軍病院に移送された米兵は8093人(11月20日現在)。米軍関係者は、「肉体的なけがよりも、メンタルな病気によるものが多い」と証言している。
この関係者は「ベトナム戦争の時と違って、今は国際電話で簡単に祖国に電話ができる。一般には良いことだと思われているが、家族からの連絡はいいニュースばかりでなく、逆に心配事が増え、ノイローゼになるケースも増えている」と説明する。
さらに問題なのは、ベトナム戦争のときと同様、前線の兵士たちが「何のために戦っているのか」と自問自答し始めていることだ。
米軍の準機関紙『星条旗新聞』が9月、駐イラク米兵の約2000人を対象に実施した調査によると、3割近くの回答者が「戦いの目的が明確でない」と回答した。同調査は、さらに「自身の所属する部隊の士気」について聞いているが、49%が「低い」との答え、「平均的」(34%)、「高い」(16%)を合わせた数字をも上回る。自殺者の多さは、士気の低下に起因すると見ても間違いないのではないだろう。
◆足を撃ち、帰国する米兵も
米兵の自傷行為も、問題になり始めている。「戦場ストレス」を感じたとしても、軍歴に傷がつくことを恐れ、上官に相談するケースは少ない。このため、所持する武器で、自らを傷付け、戦場離脱を図る米兵が増えているというのだ。
国防総省はこうした例を積極的に発表していないため、実態はつかみにくい。しかし、事実が垣間見えることもある。例えば、バグダッド近郊のティクリートの衛生部隊に勤務するジャスティン・コール大尉は10月23日、ロイター通信の取材に答え、「自傷行為が死亡につながった事故は、私が扱っただけで2件はある」と話している。
同大尉によると、1人は、上官に一時帰国を許されなかった男性兵が銃で足を撃ち、大動脈を切断して死亡した例で、もう1人は女性兵が自らの銃で身体を撃ち、やはり当たりどころが悪く死んだケースだ。
コール大尉は、「両者とも、明らかに自殺する意思はなかったが、運悪く死亡につながってしまった」と述べる。これらは、たまたま明らかになっただけで、氷山の一角にすぎない。米軍は「成功者」の例をまねて、戦線離脱を図る兵士が増えると困るので、事実を隠したがっている。
さて、イラク派遣のための基本計画の決定を受け、日本の自衛隊もついに「戦場」への一歩を踏み出す。死の危険と隣り合わせの現場への派遣は、戦後初めてのことだ。ゲリラ対策をどうするのかが議論の中心だが、「戦場ストレス」という内なる「敵」がいることは、見過ごされていないだろうか。
「何のためにイラクへ行くのか」「イラク人は本当に歓迎しているのか」――。こうした問いに自衛隊員自身が、積極的な答えを見いださない限り、士気の低下は免れないし、戦場ストレスの問題が持ち上がってくるのは確実だ。
しかし、現状を見る限り、防衛庁に準備と覚悟ができているとは言えない。「初めてだから」という言い訳は通じないことを知るべきではないだろうか。
★在ワシントンDCジャーナリスト・森暢平=サンデー毎日12月28日号(12月16日発売)連載中。
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