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「私の視点」ー日本人外交官殺害事件に思う(浅井久仁臣)
http://www.asaikuniomi.com/
殺害された2人の大使館員は、ティクリットで行われる復興支援会議に
参加するためにバグダッドから車を走らせていたということですが、昨日
の「速報」で疑問を投げかけたように会議をティクリットで開催すること
も、それに日本の外交官が参加することも私には信じられません。皆さん
ご存知のように、この町はサッダーム・フセイン元大統領の生まれ故郷で
すし、反占領軍攻撃の本拠地とみなされているところです。
その上、護衛、防弾車(簡易防弾とのことだが、イラクに出回っている
AK-47自動小銃には有効ではない)、防弾チョッキという、最低限の危機
管理も十分になされていなかった点を考慮に入れると、亡くなった大使館
員のご遺族には酷な表現ですが、任務とはいえあまりに不用意な行動であ
ったと断じざるを得ません。
マスコミは、2人の人柄を特記してその死を悼んでいますが、彼らの素
晴しい性格や業績を称えることと、今回の事件の分析とは一線を画すべき
です。
まず忘れてならないのは、現場が戦場であることです。戦場体験を多く
持つ私から言わせて貰うと、戦場や紛争地域では平常時の常識、日本での
善悪が通用しない、いや時に悪意に取られることさえあるということです。
また、自分の言動だけでなく、人や車の動きにも細心の注意を払う必要が
あります。その場の空気の流れに微妙な変化が出たら危険信号です。それ
を「読み取る」能力が、戦場では自分の命を守ってくれるのです。危険を
察知し、危機回避に全知全能を使わねば命がいくつあっても足りません。
危険察知能力と並んで重要なのは、人脈です。イスラーム社会では、人
脈が大きな意味を持ちます。キーパーソンの信頼が得られれば、様々な情
報がこちらから頼まなくても向こうから飛び込んできます。「それは、ジ
ャーナリストだから可能であって、外交官の立場では…」と言う人もいま
すが、そういうアプローチをしているヨーロッパの外交官を何人も私は見
ています。また、そんな古臭いことにとらわれる必要はない、とする人も
いますが、「郷に入っては郷に従え」、古人の教えに従うべきでしょう。
イスラームの人たちは、「あなたの国は嫌いだが、あなた個人は信用する」
とよく言います。地方の部族社会では、あらゆる情報がリーダーの下に集
められ、部族の長はその情報を上手く活かしながら部族全体の利益を守り
ます。それは地方だけでなく、都市部でも同様で、親族や同郷で構成され
るグループを通して、様々な情報が伝達されます。時に、「どこどこで危
険なことが予測されるから近付くな」といった警告さえ流されます。だか
らといって、彼らが実行グループと通じているということではありません。
実行グループとて部族やそれに準ずるコミュニティーの存在を無視しては
活動できませんから情報を流すのです。ただ、4月にイラク入りし、多く
の公務に追われていた2人にそれを求めるのは酷かもしれません。
奥参事官の外務省ホームページに連載されていた「日記」を読むと、彼
のいい人柄が読む側に伝わってきます。現地の人たちへの愛情も感じられ
ます。しかし、残念ながら随所に気になる点が見受けられます。それは、
彼が「日の丸」を背負ってしまっていることです。ラグビーで鍛えられた
たくましい精神が、日の丸の位置をさらに高く掲げてしまっています。実
行グループは、通り魔的に3人を襲ったとも考えられますが、私は彼らが
バグダッドにいる仲間たちと連携していたとの見方をとっていますから、
もしそうだとすれば、奥さんたちの活動は一定期間監視されていたのでは
ないかと思います。
それにしても気の毒なのは、井ノ上三等書記官と運転手です。アラビア
語の堪能な井ノ上書記官は、対イラク戦争が始まる前から「これは絶対に
やってはいけない戦争だ」と、取材したジャーナリストに語っていたぐら
いですから情勢に相当詳しかった方だと推察できます。ティクリートがど
んな場所かも熟知していたに違いありません。しかしながら、書記官で通
訳という弱い立場では奥参事官に異論が言えなかったのではないでしょう
か。映像で収容された3人の遺体を見ましたが(日本のメディアでは発表
されません)、中でも井上さんの両腕が宙に浮いたままの姿は、彼の悔し
さを現しているように見えてなりません。それと、イラク人運転手ですが、
現地映像を見ると、米軍の3台の護衛車両の下にバグダッドの日本大使館
に送られた外交官の遺体(軍用トラックの荷台に乗せたことで疑問に思う
むきもあるかもしれないが、これが戦争という現実である)とは別に、汚
い乗用車の屋根にくくりつけられて「帰宅の途」についています。これも
現地の人たちの感情を考えれば、他に方法があったのではと残念でなりま
せん。こうなった以上、せめて遺族の方たちが納得行く補償をするよう外
務省に強く訴えたいものです。