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イラク統治当局、報道規制を強化
12/02/2003(日本時間)
毎日インターナショナル
◇プロパガンダにすぎない「民主主義」◇
〜ワシントンDCから〜
中東の衛星テレビ局「アルアラビーヤ」は、イラクを含むアラブの人たちに人気のニュース専門局である。イラク統治評議会は11月24日、同局のイラク国内での取材を一切禁止する措置を発表した。背景には、米英占領当局(CPA)のブレマー文民行政官ら米高官の同局に対する激しい敵意がある。「報道統制」という強権の発動で、イラクでの民主主義実現という米国の大義のメッキが、また剥がれていくように見える。
取材禁止は、イラク統治評議会のタラバニ議長が記者会見で発表した。アルアラビーヤのバグダッド支局は捜索を受け、放送機材が押収され、閉鎖を命じられた。イラク人ジャーナリストからは、フセイン時代と変わらないメディア規制に、激しい怒りの声が上がっている。
問題になったのは、アルアラビーヤが11月16日に放映したフセイン元イラク大統領とされる人物のメッセージである。音声は、「米英両国は、まるでピクニックに行くかのようにイラクを侵略したが、今や袋小路に陥っている。イラク人は、敵が立ち去るまで戦い続けよ」と、米英軍への攻撃を強めるよう呼び掛けた。これを放映したことが、「暴力の扇動」に当たると判断されたのだ。
イラクでは、憲法も刑法もまだ整備されていないが、タラバニ議長は、「殺人や暴力の教唆は、世界のどの国でも犯罪だ」と措置を正当化した。だが、音声テープは、アラブ首長国連邦(UAE)にあるアルアラビーヤ本社に送られ、バグダッド支局は放映に関与していない。
それにもかかわらず、強引とも言える取材禁止で、ニューヨークに本拠を置くNPO「ジャーナリスト保護委員会」の中東担当者は、「フセイン元大統領をはじめとする旧政権関係者の声明は、いずれも報道する価値があるもので、テレビ局には放映の権利がある」と、イラクでの「報道の自由」の在り方に重大な懸念を表明したほどだ。
◆米国の期待に反した衛星テレビ局
中東では、カタールを本拠にする衛星テレビ「アルジャジーラ」が有名だが、アルアラビーヤは今春、発足した新しい衛星テレビ局である。サウジアラビアのファハド国王の義弟が経営に参画、クウェート、レバノンの投資家の資本も参加しており、米国は当初、アルジャジーラに対抗する穏健な放送を期待した。
ところが、イラク戦争が始まり、アラブでの視聴者が増えると、アルジャジーラと同様、「アラブからの視点」「反米」の色を打ち出したため、米高官が反感を強めている。
ラムズフェルド米国防長官は11月25日の記者会見で、「(アルアラビーヤ、アルジャジーラは)いつも襲撃現場の近くにいる。襲撃前からいることがあった。テロリストが、『これから襲撃するから来い』と衛星テレビ局を呼んでいるのではないか」と、米兵襲撃の撮影のために両局が「情報提供」を受けているとの見方を示した。
「テロリストと一体となって活動するメディアを規制するのは当然」との認識を披露したものだ。長官は「断片情報だけで、最終判断を下す立場にない」とも述べているから、はっきりした証拠は持っていないと考えられる。それなのに、ここまで非難するということは、両局に並々ならぬ敵意を抱いているということだ。
取材禁止、支局閉鎖、家宅捜索といった一連の措置は、形のうえでは、イラク側の統治組織(統治評議会)が決めたことになっているが、米英占領当局の承認がなくては発動できない。ブレマー行政官が直々に指示して、実行させたとの説まである。
◆ブレマーは「第二のマッカーサー」
というのは、ブレマー行政官は、かねてから、両テレビ局、特に穏健な立場を期待していたアルアラビーヤの放送の在り方に、強い不満を漏らしていたためだ。さらに最近、占領行政でのブレマー行政官の発言力が急速に高まっている。ブッシュ米大統領は10月初旬、国防総省主導だった占領行政を、事実上、ホワイトハウス直轄に移管。これに伴って、ブレマー行政官は、ブッシュ大統領と直接、話をして、政策決定を下せる立場になった。
行政官については、「事実上の閣僚級に格上げされた」「次の国務長官候補の筆頭だ」との評価もある。一方で、伝統的保守主義を信奉するブレマー行政官の「強権」への懸念も出%y7?p4いる。キッシンジャー元国務長官の下で働いていたこともあり、「力の政治」を信奉するあまり、「弱いものには、徹底的に強く出てしまう」傾向が指摘されている。
アルアラビーヤに対しては、イラク統治評議会が「扇動的な報道をしなければ、取材禁止を解く」という条件を出している。脅しとも、懐柔とも取れるやり方に、「メディアに対して普通はここまでやらない。ブレマーだからこそ」との見方がある。
さらに、ブレマー行政官は最近、ブッシュ大統領との強い関係を強調しながら、「イラク人への早期の権限委譲」など新政策を次々と打ち出しているが、「彼の『独断』をチェックする機能がない」「連合国軍総司令部(GHQ)のマッカーサー司令官のやり方に似てきた」との指摘もある。そのマッカーサー司令官も、メディアの検閲はしたが、取材活動の禁止を命じたことはなかった。
ブレマー行政官の発案で、イラクでは年内にも米国が主導する衛星テレビ局が発足する。すでに、米国はイラクで、ラジオ放送や「アルイラキーヤ」と呼ばれる地上波テレビを運営しているが、さらに広範囲の人に放送を見てもらうためだ。ブレマー行政官が発案した新メディア戦略の一環である。
しかし、ワシントン・ポスト紙(11月25日付)によると、米国務省が実施した世論調査の結果、イラク人の多くは「米国のテレビより、『アルアラビーヤ』『アルジャジーラ』を信頼している」と答えているという。新しい衛星テレビがいくら「イラクに民主主義を」と訴えても、「報道の自由」を認めない現状を見たイラク民衆は、米国のプロパガンダのにおいを感じ取るだけではないだろうか。
★在ワシントンDCジャーナリスト・森暢平=サンデー毎日12月14日号(12月2日発売)連載中。
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