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わたしの愛国リアリズム (一)
氏名:西尾幹二 日:2003/12/01(Mon) 20:30 No.18
しばらく振りで北朝鮮情勢に目を向ける。事態はこの数ヶ月あまり動いていない。
私は月刊誌『正論』(平成14年12月号)に「9・17から10・16観察記――小泉訪朝・拉致被害者帰国・北朝鮮核開発」(48枚)を書いた。日録によると、小泉訪朝から一ヶ月と少し経った10月21日夜に脱稿している。この文章は全文『日本の根本問題』に収録してある。
ところがその中で末尾に、イラク開戦は必ずあり、戦争の結果のいかんが北朝鮮問題の行方を左右するであろうというシュミレーションを試みている。この部分は平成14年10月22日付日録に引用され、当然だが、『私は毎日こんな事を考えている』の138〜139ページに転載されている。予測内容は次の通りである。
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しかしそれでも、多分寒い冬の夜中に、アメリカがイラクに「先制攻撃」を開始する可能性はきわめて高い。
さて、そこで北朝鮮問題だが、アメリカが(1)攻撃はしないで、国連決議に基くイラクの核査察の結果を承認して、サダム・フセインの生き残りを容認する、(2)イラクを攻撃し、フセインを排除する戦争にまたたくまに勝利し、戦後処理もスマートにやってのける、(3)勝利はするが、市街戦で苦戦して長期化し、一般市民に大量の犠牲者が出て国際的非難を浴びたり、イラクの戦後の立て直しで失敗し、アメリカ国民の多くが責任を背負いこみたくないと考え、逃げ腰になる、などの可能性によって、それぞれ違った局面をみせよう。
われわれから北方の悪魔の重しが取れるのに一番いいのは(2)である。ケリー国務次官補はすでに10月3日〜5日の訪朝時に、北朝鮮は国境から兵を引くこと、韓国と兵力を均等にすること、核兵器と化学生物兵器の廃棄を約束し、査察を受けること、南北間に数キロ幅の緩衝地帯を設けること、多分これくらいの申し渡しをしていると予想される。アメリカがイラクに大勝利を収めれば、この申し渡しは実行を迫られ、中国、ロシア、韓国も黙って従うので、金正日軍事体制は国内的に持たなくなるだろう。(1)の場合には、北朝鮮が拉致問題を形式的に「解決」し、核査察を受け入れた段階で、独裁者金正日に日本は巨額の経済支援を実行する羽目になるだろう。(3)のケースではもっとひどい。中国、ロシア、韓国が発言力を増し、金正日を擁護し、核危機をかかえたまま日本に資金を出させようとするであろう。
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日録に私はつづけて次のように書いている。「以上はわたしの推理である。当るか当らないかは分らない。短期間には当らなくても、一定の時間のスパンを経て、この通りになるだろう。当論文(『日本の根本問題』所収)を最初からずっと読んでいただければ、上記の結論の出てくる筋道がわかり、納得していただけるだろう。」とも書いた。
私は自分のこの予測に責任を感じつづけていた。そして残念ながら予測の中の最悪のケースが現実に当てはまりそうである。
わたしの愛国リアリズム (二)
氏名:西尾幹二 日:2003/12/02(Tue) 13:33 No.20
10月21日に予測を試みてから一年以上が経過した。これを踏まえて、私は産経新聞コラム「正論」に最近、以下のような情勢分析を行った。
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米国に日米安保への背信はないか
――懸念拭えぬ対北先制攻撃の放棄――
《《《避けたい最悪のシナリオ》》》
イラク戦争の結果が北朝鮮情勢にはね返ることは戦前に予想されていた。米国はアフガンとイラクでの大勝利の余勢をかって北朝鮮をさっと叩き潰すとの見通しもあった。
私は月刊『正論』平成14年12月号に小泉訪朝から以降の「観察記」を書いた。そこで「金正日が核開発とミサイル輸出さえしないと約束すれば、北朝鮮の金体制をアメリカはひょっとすると黙認するかもしれない」と述べた。
「北朝鮮が今のままであるのはアメリカには一番有利かもしれない」とも。そしてイラク開戦は必ずあるが、@万一戦争がなく、アメリカがフセイン政権を容認するAイラクを攻撃して大勝利し、戦後処理もスマートにやってのけるB勝利はするが、戦後の建て直しで失敗し、米国民の多くが責任を背負いこみたくないと考え、逃げ腰になる―の三通りの結果に応じた北朝鮮情勢を大胆に予測した。
金正日体制の除去にもっとも有効なのはAである。@の場合には金正日は形だけの核査察を受け、体制は温存され、日本は巨額の経済支援を強いられる。Bの場合は最悪で、中露韓が発言力を増し、核疑惑をかかえた北に対し日本に資金を出させようとする。Aのケース以外に拉致の解決はない、と。この予測記は小泉訪朝の一ヶ月後の昨年10月半ばに書いた。その後、中西輝政氏との対談(『諸君!』3月号)でも、大みそかの『朝まで生テレビ!』でも、私はこのシュミレーションをあえて公開した。イラク戦争は今年3月20日に始まった。
《《《平和解決には平和は禁句》》》
開戦に先立つ2月4日付本欄に、私は追い打ちをかけるように「米の北朝鮮対策に誤算はないのか」と題し、「もし北朝鮮問題で米国が責任を果たさないのであれば、日本は不本意でもNPT(核拡散防止条約)を脱退し、核ミサイルの開発と実戦配備を急がねば、国民は座して死を待つ以外に手のない事態が訪れ得る」「日本が核開発すれば、そのミサイルは確実に米大陸に届く」ことを知らしめよ。「核保有国の無責任ないし政策の失敗」は許せない、と記した。NPTは核保有大国の優先権を認める代わりに、非保有国の保護を義務付けている。さもなければ修羅のごとき核拡散が始まる。
イラク開戦の43日前に私は「日米安保に背信の匂いが漂いだした」ことを日本政府に警告したのである。「米国は自ら武力行使はしないなどと、なぜ先に言い出したのだろう。それは相手(北朝鮮)を安心させず、米国の弱さのサインとなった」「ブッシュには、まるで軍略がない。ハルノートを突きつけておいて、しかもそれが米国の真の強さから出ている要求ではなく、ブッシュ政権が自らの手詰まり状態、どうしてよいか分らない当惑から出ている要求だという弱みを北に読まれてしまっている」と。
北が逃げ切り態勢に入り、イラクの混乱で発言力を増した中露韓がそれを守り、支えようとする現在の情勢は、以上の通り、イラク開戦の前に私が予想して恐れ、警戒していた構図そのものなのだ。
米国が6カ国協議を言い出し、中国に解決を依頼し、加えて北の体制を保証する「文書化」提案を持ち出すに及んで、米国の政策の危険な間違いは一段と明らかになった。私は明日にも米国の空爆を期待してこんなことを言っているのではない。本当の平和的に解決を図りたいなら、米国は先に平和を口にしてはいけないのだ。
《《《日本の外交努力に疑問符》》》
中国は北の核を阻止するとリップサービスはするが、実効ある政策はなにひとつしない。経済制裁、海上封鎖、安保理制裁決議など、中国はこれまですべて妨害した。重油と食糧を北に供給している中国は、金体制を生かすも潰すも自由である。北に現状のような行動をとらせているのは中国である。その中国に効果的な政策をやらせるには、米国は実力行使の意思をいささかも緩めてはならない。
中国に認め難いのは北朝鮮に星条旗が立つことである。それさえなければ、核という火遊びを北に禁じ、米国の顔を立てることもあり得る。しかし、ポスト金正日の朝鮮半島の全面管理を中国に委ねることを、もし米国がすでに決定しているとしたら、日米安保への米国の背信は二重であり、過激である。小泉・ブッシュ会談ははたしてそこまで問題を煮詰めたのであろうか。日本政府は中露韓とは逆の立場に立つ国益を米政府に飲ませるべく必死の外交努力をしたであろうか。米国の核政策の失敗は致命的ではないが、日本は国家の存亡にかかわっている。
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