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総選挙、「自衛隊イラク派遣」と「読売」社説
2003.11.16
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はじめに
本サイトでは、従来、(特に国内の)政治的な話題に触れることをあまりしてこなかった。人権思想が党派性を帯びているものと思われたくなかったからという理由もある。
しかし、人権思想が法律によって規定され、政治が法に基づいて行われる(はずのものである)以上、人権思想と政治は切り離せないものだ。
侵略戦争による被害も人権侵害であるという見方から、人権思想と外交・防衛政策も切り離すことができない。そのため、米国のイラクへの侵略(このように表現する理由は後述)については何度か言及してきたが、いよいよ国内政治との関係についても発言するときが来たように思う。
2003年11月9日に投票が行われた総選挙では、外交・防衛政策が主要な争点となった。そのひとつに、自衛隊のイラク派遣(派兵)の是非があった。
与党の「自衛隊イラク派遣」争点隠しと総選挙当日の読売社説
民主、共産、社民の三党は派遣しないことを公約に掲げた。ところが、自民・公明・保守新の与党三党は、公約で派遣を具体的に明言しなかった。内閣も、派遣の正式決定を総選挙後に先延ばしした。
このことについて、「争点隠し」(東奥日報・10月19日付社説)などと批判したマスメディアもあった。 朝日新聞も総選挙投票日付の社説で『自民、公明、保守新の与党側は派遣に具体的に触れることを避け続けた。本社調査で有権者のイラク問題への関心がきわめて低い背景には、自民党などのそうした態度も影響していよう 』と評していた。
一方、 総選挙投票日付の社説で、自衛隊イラク派遣を「争点」とまで言いながら、与党三党の「争点隠し」に触れないメディアがあった。
読売新聞は『自公保三党は、国際協調や日米同盟重視の観点から、自衛隊の派遣を掲げている』と書いた。しかし三党が公約のいったいどこに「自衛隊の派遣を掲げてい」たのか。
確かに、マスメディアが報道しているように、自衛隊は派遣の準備をすすめており、今や派遣の時期や場所まで推測されている。しかし、総選挙では与党三党はついに「自衛隊をイラクへ派遣します」という約束を国民にしなかったのだ。このような目くらましに「読売」は沈黙を守った。
さらに「読売」は、『民主党などの議論には、しばしば、イラク全土がテロで混乱しているかのような発言が目立った。だが、これは事実ではない』と書いた。
同紙にとっての論法とは、イラクでも「テロで混乱している」ところは限られており、それ以外の、つまり「非戦闘地域」に派遣しさえすればよいというものだ。
確かに、従来は反米感情が特に強いバグダッド北方の「スンニ・トライアングル以外の地域は非戦闘地域である可能性が高い」 (高村正彦・衆院イラク復興支援特別委員会委員長、8月3日)といわれていた。
ところが最近、それ以外の地域でも治安が悪化してきている。総選挙後の11月12日にイラク南部のナシリアで自爆攻撃によってイタリア兵15人を含む少なくとも25人が死亡したことが大きく伝えられたが、総選挙当日までにも以下のような出来事があった。
8月16日には南部のバスラ近郊でパトロール中のデンマーク軍部隊が武装イラク人と銃撃戦となり、デンマーク人1人とイラク人2人が死亡した。これは米英軍以外の外国軍兵士がイラクで殺害された最初の例だ。
10月13日にはバスラとその周辺で相次いで爆発があり、英兵計4人が負傷。28日にはやはりバスラで路上に仕掛けられていた爆弾が爆発、多国籍部隊の兵士1人と民間人2人の計3人が負傷した。
11月6日には、中南部のムサイブ近郊で、ポーランド軍将校が何者かに襲われ死亡した。ムサイブは自衛隊の派遣先として検討されている南部のサマワから約200キロの距離にある。「ポーランド軍の管轄地域は、日本の自衛隊の派遣候補地の1つにあがっている」と書いたのは、他ならぬ読売(ヨミウリ・オンライン)だった。
自衛隊がさらされうる危険は戦闘だけではない。インターネット新聞「日刊ベリタ」(10月26日付)によれば、サマワは「湾岸戦争以来、米軍が使用した劣化ウラン弾による放射能汚染が深刻な地域の一つ」とされている。また「ベリタ」によれば、サマワは「イラク中の都市から最も安全な場所を自衛隊は選んだ」といわれるほど治安はよいが、地元住民はだからこそ「外国軍は要らない」と主張している。
その一方で、サマワより治安が悪い首都バグダッドでは日本大使館員が勤務し続けている。しかも自衛隊のように手当が出るわけではない。このことを取り上げた東京新聞(11月12日付)は見出しに『派遣のための派遣』と書いた。
結論を挙げれば次のようになる。
従来「非戦闘地域」といわれていた地域も今はそうではなくなってきている。
自衛隊は劣化ウランなど、戦闘以外の危険にさらされるおそれもある。
治安が安定しているのならば、そもそも「軍隊」はいらない。
ところで、「読売」社説は『小泉首相は・・・「自衛隊が『戦力』でなくていいのか」と、九条改正に踏み込み、「常識」を強調した』と書いているから、同社説は、自衛隊が「戦力」でなければならないことが少なくとも小泉首相と同紙にとっての「常識」であると論じているわけだ。
公約として掲げていないものを『掲げている』とし、戦闘地域が拡大しつつあるイラクで、『戦力』であるべき自衛隊を出したいがために『イラク全土がテロで混乱しているという事実はない』と主張する「読売」のこの社説こそ、まさしくジョージ・オーウェル(英国の小説家)が全体主義と監視社会を批判した小説「1984年」に出てくる全体主義社会のスローガン「戦争は平和である、自由は屈従である、無知は力である」を想起させる。
読売社説を国連憲章と日米安保条約から考える
このような幾重にもねじ曲がった主張は何に由来するものなのか。
もちろん、自衛隊派遣を既成事実化して憲法第9条「改正」につなげたい「読売」の策謀に言及すればそれまでかもしれないが、ここでは同紙のいう「国際協調や日米同盟重視の観点」が、国連憲章や「日米相互協力および安全保障条約」を含む国際法と国連機関の決議に基づいているものという仮定で議論をすすめる。
なお、私はそもそも“正当化されうる戦争が存在する”という思想自体に反対だが(戦争は容認可能であるか間違っているかのどちらかしかない)、ここではイラク戦争が正当化 さえできないものであることを示したいだけだ。
■国連安保理の承認を得なかった米英の武力行使
米英両国がイラク戦争の根拠としているのは、国連安全保障理事会(安保理)決議1441(02年11月8日採択)だ。しかし、この決議をどう読んでも、イラクを攻撃してよいと解釈できない。同決議はただ単に、「安全保障理事会がイラクに対し、義務違反が続けば同国は重大な結果に直面するであろうと、再三警告してきたことを想起する」と述べているだけだ。「重大な結果」として安保理がどんな行為を認めるかが書かれていないのだ。
湾岸戦争のときはどうだったか。安保理決議678(1990年11月29日採択)は、イラクがクウェートからの撤退に関する決議660とそれに続く関連決議を翌年1月15日までに完全に履行しない限り、クウェートに協力している国連加盟国に対し、これらの決議を堅守かつ履行し、「その地域における国際の平和と安全を回復するために、必要なすべての手段をとる権限を与える」としている。
「必要なすべての手段」、これが武力行使について通常婉曲的に用いられる言葉だ。決議1441は婉曲的にも武力を使っていいとは述べていない。
国連憲章第42条によれば、国連加盟国による武力行使は、紛争の解決が非軍事的手段では不十分であると安保理が認めたときに限り、しかも安保理の承認がなければならない。安保理の承認を得ずイラクへの武力行使に踏み切った米英は国連憲章に違反している。
安保理決議1441の後に、占領地における国際人道法上の義務を果たすことを求める決議1483(03年月5月22日採択)、イラクでの多国籍軍設置を認めた決議1511(03年月10月16日採択)もあったが、これらは米英の武力行使を何ら正当化するものではない。米英などがイラクから一旦撤退し、その後安保理の承認を得て再展開するのなら話は別かもしれないが、そういうことは今後あまり起こりそうにない。
■自衛権主張の挫折
国連憲章第51条は、加盟国の個別的または集団的自衛権の保障を規定している。米英はイラクが大量破壊兵器を所有し、また国際テロ組織アルカイダを支援しているとして、自国の安全が「現実的で差し迫った脅威」にさらされているとして、自衛権を主張した。
ところが、イラクから大量破壊兵器は発見されただろうか? アルカイダとの関係はどうか? 国際原子力機関(IAEA)は9月9日までに、1991年以降イラクに核兵器開発の兆候は認められなかったとする報告書をまとめた。またアルカイダとの関係については、9月17日にブッシュ米大統領自らが否定した。米英が大量破壊兵器の存在もアルカイダとの関係も証明できないことは、両国は自衛権主張の正当化に挫折していることを意味している。特に英国では、派兵したいがために政府が国民をだましたのではないかという疑いが指摘されている。
■日米安保条約と国連憲章との関係
「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」(日米安保条約)の第1条は、締約国が国連憲章に従うことを明記し、国連の目的と両立しないいかなる方法も慎むことを約束している。
従って、「日米同盟重視の観点」を日米安保の観点と解釈するにしても、国連憲章の違反や脱法化を図った米国のイラクに対する侵略(国連は国連憲章に違反する武力行使を「侵略」と定義している)に日本は協力してはならず、まず米国に国連憲章違反をやめるよう説得しなければならないことになる。
もし「読売」社説が書いたように、自公保三党が米国に追従し、自衛隊派遣を公に掲げていたのなら、それは同紙のいうところの「日米同盟重視の観点から」おかしいはずなのだが、社説はこの点を全く批判せず、逆に自衛隊派遣に反対する民主党などに噛みついた。
「読売」がこの社説を掲載するにあたって、国連憲章や安保理決議はおろか、日米安保条約さえ考慮したようにみえないのは、根本的に、同紙が太平洋戦争、第二次世界大戦の誤りから何も学んでおらず、戦争さえ法による支配を受け、所定の手続きに基づかなければならないことを理解していない証拠ではないか。
■「読売」は「ペンタゴンの宣伝係」か
イラク・ナシリアにおけるイタリア兵死亡の衝撃と、ラムズフェルド米国防長官の来日(11月14〜16日)とに挟まれて、日本政府は身動きがとれなくなってしまった。ラムズフェルド長官の来日に合わせたような「読売」社説(11月15日付)も、何だかさえない。
『だが、ひるんではならない。』
『テロの狙いは、イラクをフセイン残党やテロ勢力の支配下に置くことだ。』
―この言語の貧困さは、どこかの国の大統領や首相のものと似ていないか。
『自衛隊派遣は、日本が国際社会の平和と安定のために責任ある役割を果たすためだ。それが日本の国益でもある。』
―「派遣のための派遣」のどこが「責任ある役割」か。バグダッドにとどまっている日本大使館員も泣くだろう。それに「国際社会」にフランス、ドイツ、ニュージーランドなどは含まれないのか。
『イラクの復興、再建を通じて、イラクをはじめ、中東地域の安定、ひいては国際社会の安定を図ることは、日本の平和と繁栄のためにも必要だ。日本が、輸入原油の九割近くを中東に依存していることを考えればなおさらだ。 』
―図らずも「石油利権のための戦争」を認めたかたち。
『治安維持は米国などにゆだねるとしても、復興・人道支援で、日本の自衛隊が側面から支援することは、日米の信頼関係を強め、同盟を強化する。』
―日米安保条約と国連憲章を遵守する今の日本政府の立場からも、「日米の信頼関係を強め、同盟を強化する」ためには、まず国連憲章違反の米国をいさめなければならないことは前に書いた。
『首相は、先の衆院選で、与党が絶対安定多数を確保し、イラクへの自衛隊派遣に「国民の支援と支持を得ることができた」と述べた。その通りである。』
―自衛隊派遣の是非を公約に掲げず争点隠しをした小泉首相に、派遣を支持の根拠にする資格はない。「読売」も同罪。
『だが、なぜ自衛隊派遣なのかについては、首相自身がさらに説得力ある説明をし、国民の理解を深める必要がある。』
―国連憲章違反の誤った戦争に追従する派遣を誰が理解できるものか。
『治安情勢が改善されても、自衛隊がテロの標的となる危険はある。何よりも、派遣される隊員の安全確保が肝要だ。』
―またしても登場する「戦争は平和である」スローガン。
『自衛隊を派遣する以上は、政府・与党は無論、責任政党として、民主党も、隊員の安全確保へ、実態に即した建設的な論議をする必要がある。』
―「自衛隊派遣」を勝手に未来の事実に据える「読売」社説。未来の事実を決定論的に論ずるのは新聞の役割か?
最後に、今春「ワシントン・ポスト」につけられていた「 ペンタゴンの宣伝係(press agent for the Pentagon)」という“栄えある”称号を、今度は「読売」に与えたいと思う。このメディアは、もはや「右翼」でさえない。
http://www.aurora.dti.ne.jp/~osumi/hrmedia/elect03.html