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T 「ユコス」捜査の衝撃
今年七月いこう石油会社「ユコス」を捜査の槍玉にあげてきたロシア検察総局は、十月二十七日、ついに同社社長ホドルコフスキーの逮捕に踏みきった。「シブネフチ」を合併してロシアの全石油生産量の三分の一を握る「ユコス・シブネフチ」をつくりあげたロシア一の大富豪は、脱税・横領・詐欺等々の容疑でモスクワ郊外の監獄に――巷の詐欺師三人が放りこまれている房に――収監された。ホドルコフスキーの「所有株」(ユコス株の四二%)は検察によって差し押さえられた。
これにつづけて、ホドルコフスキーを擁護してきた大統領府長官ヴォローシンが更迭され、大統領プーチン側近のメドヴェジェフが新長官に登用された(十月三十日)。大統領プーチンを支えてきた二つの派閥、「ピーテル〔サンクトペテルブルグの俗称〕」派と、前大統領エリツィン時代からの残留組である首相カシヤノフらの、いわゆる「セミヤー〔家族、すなわちエリツィン一家ということ〕」派との対立は、ユコス捜査をめぐって極点にまで達し、いまや政権内権力抗争が一挙に激化している。
すわ「旧KGB・チェキスト〔ソ連邦時代の秘密警察隊員〕の台頭だ」「自由なビジネスを抑圧する強権の発動だ」と帝国主義諸国のブルジョア・マスコミやロシアの新興財閥(オリガルヒ)系マスコミは騒ぎたてた。だが、大統領プーチンは語気も強く反論する――「法の前では誰もが平等であって、大金持ちも区別されない」「企業家の犯罪を検察が捜査するのは当たり前のことだ。米国を見よ、『エンロン』社捜査などで何十人も逮捕され、しかも『自殺者』まで出したではないか」と。
ブッシュ政権内および外部のネオコンサーバティブ一派も騒ぎだした。「ロシアを八ヵ国首脳会議参加国から排除せよ」とリチャード・パールはわめいた。国務省報道官バウチャーは「政治的動機にもとづく捜査だ」とロシア検察を非難し、「われわれの課題は、ロシアにおける法の支配と自由な市場を支援することだ」と言い放つ。これにたいして、ロシア外相イワノフは「なんという内政干渉!」と抗議し、ロシア外務省高官は、アメリカのイラク軍事占領やグアンタナモに拘束しつづけているアフガニスタン捕虜の問題にまで言及してアメリカ政府の「二重基準」を非難した。
とはいえブッシュ政権は、これ以上ユコス問題に触れることは控えている。「イラクでの戦争は終わっていない」と白状せざるをえないほど窮地に追いつめられている彼らは、ユコス問題どころではないのである。しかも、石油会社ユコスにかんしては、――後で述べるように――アメリカ資本はすでに十分な実利を確保しているのだ。
ロシアの大多数の人民は「ホドルコフスキー逮捕」に溜飲を下げ、検察の捜査を支持した。国の資産を略奪し、ロシアの資源を売りとばして巨万の富を築いた新興成金どもへの怒りと憎しみを、労働者・民衆は忘れようにも忘れられないのである。プーチン大統領への支持率は高まり、低迷していた与党「統一ロシア」の支持率も、十二月七日の下院議員選挙をまえにしてようやく上向きはじめている。
検察のユコス捜査とホドルコフスキー逮捕を声高に非難しているのは、ロシアにおいては、新興財閥系マスコミをのぞけば、ヤンキー式「自由な市場経済」を理想とする「右派勢力同盟」(いわゆる「急進改革派」のチュバイス、ガイダール、ネムツォフなど)と「ヤブロコ」(ヤブリンスキー)という右派政党くらいしかいない。今年に入って「反プーチン」の旗幟を鮮明にしたホドルコフスキーは、この二政党をはじめとする「野党」を支援し選挙資金を提供してきた。この男の逮捕は、ただちに、これらの党の選挙活動に支障をきたす。とりわけ、チュバイスの党とは違って、新興成金の企業をもたない「ヤブロコ」はひとたまりもない。ユコス捜査の一環として、検察は、「ヤブロコ」の選挙事務所になっている広告会社を家宅捜索し「多額のルーブリ」を押収した。
「反プーチン野党」へのホドルコフスキーの選挙資金供与は、ロシア連邦共産党にもおよんでいた、といわれる。ジュガーノフがやっきになって否定しようとも、これは事実であるようだ。ユコス捜査およびホドルコフスキー逮捕にかんするこの党の不明瞭な態度と、下院議員立候補者名簿とが、それを物語っている。ホドルコフスキー逮捕にさいして、ジュガーノフは、「右派勢力同盟」や「ヤブロコ」などと一緒に「大統領に会談を求める」という申し入れをおこなっただけであった。プーチン与党のひとつである「人民党」のように「検察支持」を叫ぶこともできず、さりとて「ヤブロコ」やチュバイスとともに布陣を組んで「プーチン非難」を言うわけにもゆかず、ジュガーノフは沈黙を決めこんだ。実は、「勤労者の利害・ロシア民族の利害を代表する」と自称するこの党の立候補者名簿には何人もの「元ユコス」の「企業家」が名を連ねているのだからである。〔三面参照〕
新興成金どもは、検察のユコス捜査に心底から震撼させられた。だが、公然と「プーチン非難・検察非難」を叫ぶ者はほとんどいない。エリツィンのもとで副首相や大統領府長官を務め、「統一エネルギー・システム」(電力独占体)社長に天下ったチュバイスただ一人だと言っても過言ではない。ホドルコフスキー逮捕の直後に、「産業家企業家同盟」(ヴォリスキーを頭にする、いわゆる「オリガルヒ組合」)は「右派勢力同盟」などとともにプーチンに会談を申し入れたものの、「どんな取り引きにも応ずるつもりはない」と即座に一蹴されて引きさがるほかはなかった。脱税、横領、不正な海外蓄財、そして脅迫や殺人、いずれにも身に覚えがある彼らは、「ホドルコフスキーの次」にならないように、さしあたりはホドルコフスキーと一線を画したり、あるいはプーチンに恭順の意を表したりして自己保身に務め、自己資産の保全に必死になっている。
十二月の下院議員選挙と来春の大統領選挙をまえにいま、ロシアの諸政治勢力と新興成金どもは大激震にみまわれている。
以下、見出し
U エネルギー資源政策のなし崩し的修正
アメリカによるロシア石油資源簒奪への危機感
「仏・独との協調」基軸への修正
V 「ピーテル」派の無知・無能
国家的統制による「再建」の白昼夢
生産基盤・技術的基盤の再建不能