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国家建設に関するこれまでの国連の成果は。
専門家によれば、成功、失敗のどちらとも言えない。国連は、戦争・紛争後の移行プロセスを数多くの国でうまく指導してきたが、本質的に国家建設の任務が非常に遠大で複雑なために、何をもって明確な成功とみなすかはっきりとしないためだ。なかには相対的にうまくいった国もある。開発援助の専門家は東ティモールとシエラレオネをそうした成功例にあげている。とはいえ、国家建設研究の専門家であるジョセフ・シーグル(外交問題評議会研究員)は「絶対的な成功例などない」と指摘する。
国家建設活動とは何か。
戦争や極度の混乱を経た国の市民秩序や政府の機能を再確立するプロセスのこと。
国家建設に不可欠な措置は何か。
国家建設に携わった経験を持つ専門家は、十分な財的資源、国際社会の政治的決意、時間に加えて、次のような要因が重要だと指摘している。
・ 治安 ― 市民に安全な社会環境を提供する
・ 政治改革 ― 市民社会と安定した地方政府を組織し、報道の自由その他の市民的自由を保障する。
・ 経済再建 ― 企業活動、産業再生、農業部門を中心とする雇用創出のための融資枠を用意して、経済インフラの再生を図る。
・ 法制度の強化 ― 機能する司法制度を整備し、その独立性を確保する。
国家建設活動が効果をあげるための社会条件はあるか。
カーネギー国際平和財団が二〇〇三年五月に発表したリポートによれば、戦後の日本やドイツのように、強固な国家アイデンティティーを持つ社会、民族的に同質な社会、相対的な社会経済上の平等が確保されている社会では、国家建設活動が効果をあげることが多い。立憲制度や民主制度を過去に確立した経験も、国家建設活動の助けになるとリポートは指摘している。
そのような社会条件はイラクに存在するのか。
存在しない。イラク社会は、部族や民族ごとに分裂している。シーア派、スンニ派、クルド人が影響力を手にしようと競いあっているし、経済的・政治的平等どころか、不平等がサダム・フセインの独裁政権の特徴だった。サダムに近いスンニ派の親族とその取り巻き、そしてバース党が権力を独占していた。
国連はイラクの国家建設活動に参加するだろうか。
参加するだろう。だが、イラクの再建活動にどの程度関与するかは、現在アメリカが国連安保理に提案しようとしている新決議の内容に左右される。
二十二名が犠牲になった八月十九日のイラク国連現地本部爆破テロなど、イラクの国連施設を対象とする最近のテロ攻撃以降、国連はイラクでの活動を縮小している。コフィ・アナン事務総長の命によって、九月下旬に現地に残留していた非イラク人の国連スタッフの多くも、ヨルダンのアンマンへと移動した。八月の爆破テロ前、イラクには六百五十名の国連スタッフがいたが、現在その数は八十六名へと減少している。ただし、四千名のイラク人現地国連スタッフが人道支援活動を行っている。国家建設には関与してないが、国境無き医師団などの人道組織はいまもイラクで活動している。
安定を確保することは国家建設にとってどの程度重要なのか。
安定化こそが再建プロセスの要であると専門家は口を揃える。安全が保障されて初めて、人々は日常生活に戻れるようになるし、人々が職場へと向かい、子供たちが学校に行くことは、国が再建への足場を固める上で不可欠だ。外国との貿易を再開し、消費者に食料その他の生活必需品を提供し、小規模企業への融資の流れをつくることも、日常、平常へと復帰するためには欠かせない。経済構造が整備されたら、人々は、外国の平和維持部隊を攻撃したり、国内の敵対勢力への憎しみを晴らしたりするよりも、新しい生活を形作ろうとするものだ。
国家建設にはどのくらいの時間がかかるのか。
専門家の多くは、十年かそれ以上かかるとみている。国家建設に必要な社会的凝集力(団結)や(民主主義の前提である立場の異なる勢力への)寛容の精神を現地社会で育んでいくのは難しいし、特に、政府への不信が大きかった閉鎖的で全体主義的な社会が現地に存在した場合は困難を極める。「自由が与えられたのだから、彼らは幸せだろうとわれわれは考えがちだが、往々にして、行く手には問題が待ちかまえている」と、国際開発・人道援助プログラムに二十年間関わってきたシーグルは指摘する。
アメリカはイラクでの国家建設のどの部門を他の組織に委ねることになるのか。
国連は、特定領域を手がける一連の機関や組織を束ねる統括組織として機能することになるだろう。 コソボでは、北大西洋条約機構(NATO)や欧州連合(EU)が治安任務にあたったし、ハイチでの米軍部隊同様に、東ティモールではオーストラリアの部隊が治安維持の役目を担った。ケアー(CARE)や国際救済委員会(IRC)のような民間の組織も、人道支援をめぐっては大きな活動をしている。
カーネギー国際平和財団シニア・アソシエートのマリーナ・オッタウェイは、イラクでの選挙監視は国連ではなく、ボスニアでの選挙監視にあたった欧州安全保障協力機構(OSCE)や、アフリカその他での選挙監視で大きな経験を持つ全米民主研究所などの、組織が担うことになるかもしれない、と指摘する。
国家建設活動に欠陥はあるか。
国家建設の弊害として、「結局は権力の集中が再現されることが多い」と指摘する専門家もいる。これは、国家を再建しようとする国際的な試みが、カブールやバグダッドなど、各国の首都での活動に焦点を合わせ、大多数の人々が暮らす地方を無視しがちであることに関連している。 中央権力の分権化を図れば、中央の権限に対する抑制と均衡のメカニズムを構築できるし、弁護士、看護婦、社会活動家などの地方の中産階級層が平均的市民に接触して、グラスルーツの政治活動も誘発されるとみる専門家もいる。地方の指導者が政治的才能を磨き、古いシステムのプレイヤーから権限を奪い取るのを促せることも、地方への権限委譲することの利点だろう。
http://www.foreignaffairsj.co.jp/source/Iraq/IraqToday.htm