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(回答先: The Conceited Empire[Informationclearinghouse/エマニュル・トッド]【機械翻訳】 投稿者 なるほど 日時 2004 年 1 月 25 日 22:09:49)
石油利権とネオコン理念
ブッシュ米大統領をイラク戦争へと駆り立てたものは何か。米国の強引なやり方を見た世界の人々が抱いた疑問である。
誰もが思い浮かべたのが石油。テキサスで自らも石油ビジネスに手を染めたことがあり、石油業界と関係の深い人物──チェイニー副大統領(元ハリバートンCEO)、ライス大統領補佐官(シェブロン役員)──を政権に入れたブッシュ大統領がイラクを狙うとすれば、サウジアラビアに次ぐ埋蔵量を誇るイラクの石油を支配するのが目的に違いない。
実際、ハリバートンの子会社を含め、米国の石油関連企業がイラク油田の復興に乗り出しているし、米政府はこれまで国連が管理してきたイラク石油の輸出を米国主導に切り替える提案を国連安保理に出した。今後、米国の石油関連企業がイラク油田の修復や開発で、巨額の利益を上げるのは確実だし、そこから産出される石油の世界への供給も米国の石油会社が仕切ることを狙っているだろう。
しかし、石油ビジネスの思惑だけで戦争をするわけにはいかない。少なくとも国民を納得させる正当な理由が必要で、それを用意したのが「ネオコン」と呼ばれる保守主義思想の人々だった。アルカイダへの支援や大量破壊兵器の保有が米国に直接的な脅威を与えるという理由にとどまらず、フセイン政権下で圧制に苦しむイラク国民を解放し、民主主義をイラクにもたらすという理由を作った。ブッシュ大統領がイラク攻撃を開始したときにも、「イラク解放」の目的は掲げられた。
ネオコンの拠点とされるのがワシントンにあるシンクタンク「新しいアメリカの世紀のためのプロジェクト」(PNAC)が1997年に設立されたときの発起人の名前を見ると、チェイニー副大統領、ラムズフェルド国防長官、ウォルフォウィッツ国防副長官、リビー副大統領補佐官、ロドマン国防次官補、カルリザード・アフガン担当特使、エイブラムズ国家安全保障会議(NSC)部長、ドブリンスキー国務次官といったブッシュ政権の有力者たちがずらりと名前をそろえている。
PNACの設立趣意書には、「米国の安全保障や繁栄、原則に対して友好的な国際秩序を維持し、拡大していくのが米国独自の役割であるという責任を受け入れる責任がある」といった下りがある。「米国独自の役割」というのは、超大国となった米国だけに与えられている使命といった意味合いが出ていて、まさにブッシュ戦略の中核がここに示されている。
しかし、ブッシュ戦略の理念はネオコンということで、納得はできるのだが、米国が超大国であるのは、たまたまの偶然だとすれば、ネオコンが考えている「米国の役割」は、偶然の結果から出てきた副産物なのだろうか。
レオコン
その疑問に答えるのがネオコンの源流にレオ・シュトラウスあり、という見方だ。ニューヨーク・タイムズ紙は週末版(5月4日)は、ブッシュ政権内のネオコンの支柱とされるウォルフウィッツ国防副長官をはじめとして、シュトラウスの思想に影響された人々の人脈を紹介している。
シュトラウスはドイツ生まれのユダヤ人で、ドイツや英国の大学で、政治思想を学び、ホッブスについての研究書を出版、米国に渡り、第2次大戦中の1944年に米国の市民権を獲得した。その後、シカゴ大学などで政治思想教え、73年に74歳で死去した。
日本では、『古典的政治的合理主義の再生』(ナカニシ出版)、『ホッブスの政治学』(みすず書房)、『自然権と歴史』(昭和堂)といった著作が出ている。ニューヨーク・タイムズ紙が引用しているのは、「西欧の民主主義諸国にとって安全な世界を世界を作るためには、世界全体を国家の社会としても、それぞれの国家についても、民主化をしなければならない」という1節。ここだけ読めば、ネオコンの大好きな「世界の民主化」というテーゼが示されているようで、「民主主義のトロッキズム」かなとも思う。
民主主義は歴史の偶然ではなく、歴史の自然的な流れというのであれば、フランシス・フクヤマ(ジョンズ・ホプキンス大高等国際問題研究大学院教授)氏の『歴史の終わり』(三笠書房)が思い浮かんでくるが、この記事の人脈図でも、フクヤマ氏はシュトラウスの孫弟子として出ている。実は、フクヤマ氏もPNACの設立発起人として名を連ねていて、ネオコンの思想的な背景として、シュトラウスが出てくるのは不思議ではないのかもしれない。
ニューヨーク・タイムズ紙の見出しは、「レオコンズ」で、レオ・シュトラウスの「遺産」なのだから、「ネオコン」ではなく、「レオコン」だというわけだろう。
「福音派」
ブッシュ大統領がネオコン思想に影響されているのは、たしかだと思うが、それでも、イラク戦争にゴーサインを出す最後の決断をしただろうか、という疑問が残る。そこで、出てくるのがブッシュ大統領の信仰だ。
「彼の信仰の中心を知ることなしに、ブッシュ大統領を理解することは不可能である。まさに、イラクを侵攻し、中東を再編する計画の中には、(黙示録のような)救世主的な世界の幻影が入っているのかもしれない」(3月5日、ニューヨーク・タイムズ紙のコラム)というわけだ。
たしかに、ブッシュ語録を振り返ると、「神」という言葉や聖書の引用が多い。「私たちが誇る自由は、アメリカから世界への贈り物ではない。神から人間への贈り物だ」(1月28日の一般教書演説)、「主の偉大な力と力強さゆえに、だれひとりとして(呼ばれる名が)欠けることはなかった」(2月1日のスペースシャトル事故後の演説)といった具合だ。
バグダッドが陥落した4月9日には、フセインの銅像が倒されるのをテレビ映像で見ながら、「イラク国民を含め人々が自由を欲するのは、ブッシュ・ドクトリンでもアメリカン・ドクトリンでもなく、神から与えられたドクトリンだ」と語ったと、ホワイトハウスの報道官は明らかにした。イラクの「解放」は、政治理念というよりも、神の理念の実現というわけだ。
ブッシュ大統領と宗教との結び付きを丁寧に追ったのは、ドイツのシュピーゲル誌(2月17日号)やニューズ・ウィーク誌(3月10日号)などの週刊誌で、ブッシュ大統領の半生を追いながら、ブッシュ氏の信仰心をさぐっている。
酒におぼれていたブッシュ氏は40歳の誕生日を期して酒を断ち、やがて政治家として成長していった。彼の「回心」(ボーン・アゲイン)を助けたのがテレビ伝道師として有名なビリー・グラハム師や息子のフランクリン・グラハム師だった。かれらは、キリスト教プロテスタントの福音派で、ブッシュ氏はもともとのメソジスト派よりも福音派に傾いている。
両誌が伝えるのは、こんな物語だ。こうした記事のなかでは、「福音派」、「キリスト教右派」、「キリスト教原理主義」、「キリスト教保守派」といった言葉が混在していて、米国内のキリスト教の宗派を理解していないと、混乱してくる。蓮見博昭著『宗教に揺れるアメリカ』(日本評論社)は、福音派を以下のように定義している。
「聖書の権威や個人的な回心を特別に重視・強調する保守的プロテスタント」
「ハルマゲドン」
共和党のなかでも保守的な路線を進めるブッシュ大統領がキリスト教のなかでも保守的な傾向が強い福音派に心を寄せていても、あたりまえのように思える。
ギャロップの2月の米国民への世論調査では、自分が福音派だという回答は41%にも達する。大統領が福音派が喜びそうな言葉遣いをしたとしても、人気対策という側面もあるだろう。フランスのルモンド紙(4月16日)などは、大統領の宗教とからめて、イラク戦争を理解しようとする議論が多いのは残念なことだとして、「ブッシュの聖戦」論にくぎを刺したうえで、米国の大統領は演説で頻繁に神に言及するが、それは「信心深い民衆の心に訴えるため」で、ブッシュ大統領も同じだとしている。
ネオコンのひとりで、PNACの設立発起人でもあるクエール元副大統領が最近、来日したときに、「ブッシュ大統領と宗教」について尋ねたら、「大統領が宗教的なのは事実だが、キリスト教右派の思想が影響しているといった話は、メディアが作り上げた話」と笑い飛ばした。
クエール氏もキリスト教右派との結び付きが強いといわれる人物で、政治が宗教に影響されているなどとは言いたくないという事情を割り引く必要はあるが、大統領が宗教的な世界観で政治をしているなどということはないだろう。
それでも欧米のメディアが「大統領と宗教」を気にするのは、福音派のなかでも、聖書を厳密にとらえ、聖書には一切の誤りがないと考えるキリスト教原理主義の世界観がブッシュ大統領に影響を与えていないか、という不安があるからだろう。
というのは、キリスト教原理主義のなかには、「ヨハネの黙示録」に出てくる「ハルマゲドン」を「世界最終戦争」と解釈し、その戦争のさなかに、イエス・キリストが再び降臨し、その後千年に及ぶ平和の時代が訪れるという「千年王国」を唱える人たちがいるからだ。
こうした解釈に従うと、人類が破滅に瀕するような戦争が起これば、それはイエスが再臨する前段階ということになり、信仰の結果、最終戦争を生き残れるはずの人々にとっては、むしろ好都合な出来事ということになる。
まさかとは思うけど、ブッシュ大統領は、ハルマゲドンを信じているなんてことはないでしょうね、というわけだ。
ブッシュ政権とは何か
イラク戦争をめぐり、ブッシュ政権やブッシュ大統領個人の「裏読み」や「深読み」が盛んになり、ネオコンや福音派といった「回答」が浮かび上がっているともいえる。
しかし、冷戦後の米国をあらためて振り返ってみれば、90年代の経済成長によって、米国は繁栄を享受したが、その足元では、経常収支の赤字が大きくなっている。グローバリゼーションのもとで、国内の製造業はさらに弱くなったものの、世界中から投資資金が米国に向かうことで、米国民は消費を続けることができたともいえる。
90年代に米国へと資金を向かわせた原動力は、ITブームだったが、2000年を過ぎて、そのブームは去った。となると、軍事的な意味も含めた強大国としての緊張感を維持していかなければ、ドルを支えられない時代になっているのかもしれない。
ブッシュ政権や大統領個人の個性を超えて、米国が軍事大国であることを誇示しなければならないとすれば、米国への見方で必要なのは、「裏読み」ではなく、米国の構造分析ということになるだろう。
そういう分析の端緒として、エマニュエル・トッド著『帝国以後・アメリカ・システムの崩壊』(藤原書店)をあげておきたい。
こうした分析を読むと、ブッシュ大統領を突き動かすのは、利益(石油)でも、思想(ネオコン)でも、信仰(福音派)でもなく、米国の構造そのものということになる。
http://www.asahi.com/column/aic/Mon/d_drag/20030512.html