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《特別対談》(上)
共同通信台北支局長 岡田充
国際問題ジャーナリスト 藤原肇
http://www2.tba.t-com.ne.jp/dappan/fujiwara/article/newleader0212.html
いま改めて問う「アフガン戦争」の真の意味
テロ報復<克タに米国は何を狙っているのか
「構造改革」の本当の意味を知らず
藤原 岡田さんが共同通信の台北支局長になる前の経歴として、世界のどんな場所で取材活動をしてきましたか。
岡田 台北にはこれまで三年ほど駐在しましたが、その前はモスクワに三年と香港に三年いまして、一九八九年の天安門事件から三年間は東京の本社です。ソ連が崩壊した直後からはモスクワ駐在になり、体制崩壊による混乱をじっくり観察しました。
藤原 そうなると、モスクワ、香港、台北と北京を包む形で、ユーラシア大陸のレベルで過去十数年の中国を観察し、地政学的な激震地帯を取材できて幸運ですね。私は東京オリンピックのあった一九六四年に日本を出て、フランスに留学して五年ほど滞在してから、カナダに渡って一〇年ほど石油地質学者として働き、シベリアを北極洋の対岸から観察しました。独立後は米国で石油開発会社を経営したが、一五年前に引退してフリーのジャーナリストになり、二〇年ほど米国に住んで国際政治を観察しています。
岡田 外国生活の始まりが一九六〇年代のフランスなら、ちょうどあの時期はベトナム戦争が拡大していて、パリで学生たちが五月事件を起こした頃ですね。
藤原 そうです。五月事件でドゴール大統領が退陣したのは、グルノーブルの久季オリンピックが関係していて、町の知識層が市民党を作った結果です。それが日本に飛び火して各地に革新市政が生まれた話は、『オリンピアン幻想』(東明社刊)に書きました。
岡田 それで藤原さんはフランスに留学して、どんなことを勉強されたのですか。
藤原 地質学専攻ですが、この構造地質学は、地球上の山脈がいかにできたかの研究です。だから、構造主義者の一翼を担っている私には、今の日本で盛んに言われている構造改革が、権力者のデタラメであることがよくわかります。構造は形として目に見え数量として計算もできるが、それに対して形のない機能が一体になり、構造と機能はコンビで考えるべきものなのです。国家には司法、立法、行政などの機構があり、組織がミスマネージでうまく機能していないので、失政のために亡国現象が発生しています。うまく機能しない原因は理念や責任感の喪失にあるのに、組織のあり方を変えればすむと思う政治家により、対症療法ばかりが言い立てられてきました。中曽根内閣の行政改革も小泉内閣の構造改革も、共に構造改革が必要な理由を理解していません。実は、自民党体制という利権構造がガンの病巣だから、半世紀も政治を独占した利権構造を解体して、新しい統治機構を生み出すことに解決の鍵があるのに、そのことがまったくわかっていないのです。
アメリカカ帝国主義はハード指向
岡田 現体制の改革と言うなら革命思想につながりますね。
藤原 ヨーロッパ流の革命理論ではなくて、孟子の言う「渇武放伐論」に共通するもので、統治する能力を失った者は自ら辞めない限り、別の統治候補によって交替を強いられるのです。岡田さんは歴史的な事件を両国で観察したが、独裁支配が内乱なしで権力の交替をして、比較的スムーズな体制転換をしたのがロシアと台湾です。また、大変革が今後に持ち越されているのが中国と日本であり、中国共産党と自民党がどんな具合に解体して、半世紀続いた権力支配がどう変わるかが、今後の興味深いテーマになりそうですね。
岡田 掛け声で政権を維持する小泉内閣の人気は、その前の森内閣があまりにひどかったからであり、小泉首相は自民党を壊して改革すると言ったが、口先だけで問題の先送りがこのまま続けば、自民党は放っておいても空中分解します。
藤原 そんな感じです。人気で政権維持するのは卑劣な手口だが、それを逆手に取る反対党が存在していないので、問題は解決しないで混乱が強まる一方です。
岡田 台湾でも陳水扁政権が人気を頼りにしているが、時と場所を問わずに人気政治に共通する欠陥は、短期的な有効性しか持ちえないことであり、ポピュリズムで得た人気に頼って浮かれていれば、取り返しのつかない大破綻で終わります。
藤原 人気で破綻を誤魔化している小泉内閣もひどいが、テロ事件に便乗したブッシュ政権の人気取りに比べたら、陳水扁政権のポピュリズムは田舎芝居ですよ。アメリカ経済は戦争をやらない限り救いがないから、インチキ投票でブッシュを大統領に仕立てたし、その結果がアフガン戦争の実現になっています。
岡田 アフガン戦争の原因として9・11事件があり、ブッシユが新しい戦争の形態だと言って、イスラムを相手に大規模な戦争を始めたが、それはアメリカの覇権主義への挑戦だったからです。だが、テロによってあぶり出されたとはいえ、世界新秩序という現在における大きな矛盾は、一九九八年のアジア通貨危機の段階ですでに現れていて、あの時は幸運なことに台湾は無傷ですみました。アメリカが車事力や政治力をバックにして、金融さえも操ることができるようになり、一国支配が九八年に確立したわけだが、それを学者がグローバリズムと呼ぶにしろ、ドルという単一通貨が一人歩きしています。
グローバリゼーションは抗い難いものであり、それに対する反発は当時でもあったが、9・11事件のようなドラスチックな形で、世界の声として現われるとは誰も予想しませんでした。
藤原 アメリカ帝国主義はヨーロッパと違い、ソフトでなくハード指向が目立ちます。
岡田 アメリカによる完壁な世界覇権というのは、マルクスが予言した資本の独裁の実現であり、ソ連の崩壊でマルクス主義の展望が破綻した一方で、彼の予言がピタリ的中したというのは強烈な皮肉でした。
藤原 そうですね。ただ、私がマルクスよりエンゲルスを評価するのは、「自然弁証法」と「遊撃戦論」のせいです。国家が用いる正規軍に対して遊撃戦で臨み、遊撃戦論の延長として9・11事件のテロを考えれば、イスラエルや北京の政府が国家権力として、軍隊や秘密警察を使いテロ行為をしているのに、それを誰も問題にしないのは実に奇妙です。
あまりにも出来すぎた戦略構想
岡田 あれだけ強いKGBの鉄の支配があったが、強力でありすぎたが故にソ連は硬直化して、鬼子の横暴な振る舞いで自滅しており、それをテルアビブや北京は教訓にしているはずです。9・11事件のテロがアフガン戦争になったが、崩壊したニューヨークの世界貿易センタービルは、アメリカを頂点とした世界の繁栄の象徴でした。あのビルが崩れた時に感じたのは五〇年前のことで、私の父親の世代がB29の空襲を毎日受けて、脅えて防空壕に籠った時と同じ恐怖感です。アメリカ人の多くは空爆に脅えた経験がなく、9・11事件が奇しくも本土襲撃の初体験だから、パニックを起こして取り乱したのは当然です。
藤原 それにしても、最初の頃にアメリカのメディアが口を揃えて「これはパールハーバーだ」と叫んだのは見当違いであり、民間人が殺傷された点で広島や長崎と同格だのに、日本政府もジャーナリズムも抗議をしなかったのが残念です。
岡田 パールハーバーとか報復の十字軍と言いかけて、あわてて口を閉ざすような光景が至る所であり、アメリカ人は確かに冷静さを失っていた。また、世界貿易センタービルがあれだけスペクタキュラーに崩れ落ち、三〇〇〇人の市民が死んだ強烈なイメージは、アメリカ人を一致団結させる威力を発揮しました。だから、事件の前までは指導性を疑われていたのに、事件のおかげで大統領の人気が爆発的に高まり、軍事予算が要求の二倍も認められるとか、戦争の全権を議会が大統領に渡す法案に、反対した議員がわずか一人という状況が生まれ、アメリカが全体主義になった感じがしました。
藤原 あの事件の発生を内心で一番喜んだのは、ブッシユと共にラムズフェルド国防長官でしょう。テレビに出たラムズフェルドは好々爺のようで、ボソボソしゃべる口調は軍のタカ派リーダーに見えないが、空軍が作ったシンクタンクのランド研究所理事長時代に、紛争制圧に軍事干渉が必要だと主張している。
また、大統領の中東問題アドバイザーのカリザットは、ランド研究所の幹部をやったアフガン出身者で、タリバン政権を攻略する構想を論文で発表したし、ラムズフェルド理事長はIRA(アイルランド共和軍)のテロを分析して、反テロ撃の準備が必要だと発表しており、戦争指向でブッシュ政権を導いています。
岡田 テロヘの報復に行なうアフガン撃なら、口実としてもっともらしく聞こえます。
藤原 ブッシュ政権の本音は景気と覇権の維持であり、9・11事件による世界貿易センタービルの崩壊を奇貨として、大量の民間人の爆死は大犯罪だと叫んだ。そして、世界中の人がカタズを飲んで見守る中で、テロ退治と報復を口実にタリバン相手の戦争を始め、米国の世界戦略にとって永年の夢物語だったアフガニスタンに軍事基地を確保したことで、世界の屋根を版図に含めてしまいました。しかも、旧ソ連南部のモスレム諸国をドルの力で抱き込み、中東石油に代わる力スピ海の油田地帯を抑えて、中国に対する西側からの包囲網を作り上げた。ランド研究所が作り上げた戦略構想にしても、あまりにも鮮やかで出来すぎだという感じがします。
アフガンめぐる石油利権争いの闇
岡田 石油のプロの藤原さんが石油戦略に触れたので、カスピ海の石油資源について論じますが、私が三年間のモスクワ駐在を終えたのが一九九五年です。その頃に米国企業によるカスピ海の石油生産が軌道に乗り、アフガンを通るパイプラインの話が浮上したら、国務省とCIAで猛烈な喧嘩が始まった。だが、結局はタリバン政権でも大丈夫だから、アフガン経由の建設計画の実現の方向で、ビンラディンの仲間と組むことにしたのです。
藤原 アフガン経由で天然ガスをインド洋に出す構想は、ユニオンオイル(ユノカル)が推進していた計画であり、アフガン生まれのカリザットが顧問として、ユノカルのために現地交渉を担当していました。しかも、計画の推進が一時中断になっていた時に、カリザットはランド研究所のスタッフになり、テロ集団と結ぶタリバン政権を駆逐して、アフガニスタンを安定化する論文を発表、そのうえで、現在の大統領相談役に就任しています。また、シェブロン石油はカスピ海石油の搬出用に、黒海に抜けるパイプライン敷設を推進したし、フランスのトータル・フィナ・エルフ石油はイランを中心に、実に複雑怪奇な利害争いが錯綜していました。かつてユノカルやフィナのスタッフだったので、私は同僚や後輩たちの話を聞いたがとても複雑であり、チェンチェン戦争も絡み合っていました。
岡田 第一次チェンチェン攻撃は一九九四年に始まりましたが、モスクワ駐在として最後の年だったので、私はロシア側から注意深く観察しました。コーカサスの石油はコメコン(経済相互援助会議)諸国をつなぎとめて、ソ連が経済支配を続けるうえでの決め手だったが、パイプラインの補修に必要な部品が不足しており、これがソ連の体制に痛打を与えました。しかも、カスピ海の石油をパイプラインで送る時に、中継地点のチェチェンの存在は極めて重要だが、チェチェンがロシアから独立しようとした。これはロシアにとっては死活問題だから、それがトラブルの始まりで戦争になったのです。
藤原 一九八六年に石油の国際価格が大暴落して、石油資源の輸出に外貨収入を依存していたソ連は、闇市場が蔓延し経済がガタガタになり、コメコン諸国への支配力が激減しました。だから、機械や部品の生産が大幅に狂ってしまい、計画経済はまったく機能しなくなった。石油開発や輸送は一つのシステムだから、ネックができると全体が機能しなくなります。
岡田 その通り。独立を試みたチェチェンはモスレムの国で、戦争が始まるとサウジなどの義勇軍がやってきて、アフガン内戦で鍛えたタリバンの兵士が、ロシア軍と熾烈な戦闘を繰り広げました。しかも、タリバンはアメリカにとって厄介者だし、チェチェンの独立はロシアにとり死活問題だから、CIAとKGBが密かに手を結んで、ドダエフ大統領の暗殺に協力しています。それは通信衛星を使う携帯電話を狙って、ロシア空軍がミサイル攻撃をしたのであり、米国の協力なしには実行が困難です。だから、ビンラディンは通信に携帯電話を使っていない。それで彼の居所を米軍は捕捉できないので、絨毯爆撃をしたりミサイルを撃ち込んだあげくに、脅威の超大型気化爆弾まで使用したのです。
藤原 GPS(汎地球測位体系)は米軍が愛用する秘密兵器で、日本では力ーナビ装置として民間で普及しているが、同じ電波でも軍事用は一〇倍も精度が高く、携帯電話を標的に戦闘機がミサイル発射するには、米国の電波信号捕捉衛星の支援が必要です。ベオグラードの中国大使館を米軍が爆撃した時に、アメリカは誤爆だと言い訳をしたが、GPSを持っている以上は誤爆ではなくて威嚇のためのテストだとも言われています。
岡田 あの爆撃で中国はアメリカの言い分を認め、賠償金だけでカタをつけているから、北京は米国に扱いやすいと読まれてしまった。ソ連を仮想敵国と考えて準備した軍事技術の前では、中国は何といっても張り子の虎と同じで、ペンタゴンもホワイトハウスも正直な気持ちとして、大した相手だとは思っていません。ただ、アメリカは仮想敵国が必要だから本音は言わず、北京政府を大国意識で酔わせているのです。
真の敵は「イラクではなくイラン」
藤原 国際政治はアフガンの戦争を軸にして、チェチェンとかバルカン半島での紛争が続き、カスピ海の周辺に世界の関心が集まっているが、イエラエルとパレスチナの紛争は泥沼状態だし、中東が火薬庫として果たしている役割は、これから次第に危険の度合いを増していきます。
戦争を実行するために大統領の地位につかされ、ピエロ役を演じているブッシュは演技力が板につき始めたので、これからワーモンガー(戦争屋)たちが狙うのは、米国の覇権主義による一極支配に反抗して、嫌悪の気持ちを隠そうとしない勢力を潰すために、いかに危機を演出するかという戦略のはずです。その一端として現われたのが「悪の枢軸」の発言であり、いくら年中行事の年頭教書での発言だとはいえ、ブッシュのあの発言はあまりに軽率に過ぎていたから、ヨーロッパの反応はまったく侮蔑的でした。
岡田 なるほど。それにしても、昨年一月末の年頭教書におけるブッシュ大統領の演説は、それまでの「ならず者国家」という表現を越えて、「悪の枢軸」という極めつけの言葉を使い、イラク、北朝鮮、イランの三国を名指ししています。その中に保護国の北朝鮮が入っていたこともあり、中国の外交部がブッシュ発言をすぐに批判して、「国際社会においてそんな言葉は使うべきでない」と反発したが、迫力があまりなかった。
藤原 ブッシュ発言は一国の元首としては軽率だし、カウボーイ調の野卑な暴言だったから、イラク政府は「バカ者の発言」だと決めつけて、売り言葉に買い言葉の応酬をしていたが、イランはムスレム最大の実力者の風格を示し、「吸血鬼のざれ言」と切り捨てていたのは実に不気味でした。大帝国を築いたダリウス大帝の伝統を持つだけに、含みのある言葉使いを外交に適用する余裕を示して、ブッシュをバカ呼ばわりしたイラクとか、すぐに全面支持を表明した小泉の半細胞ぶりに比べ、遥かに貫録があることを証明している。
ただ、アフガン攻撃が一段落した後のアメリカが、次に口実を作ってイラクの攻撃に移るというのは、サダム・フセインを抹殺したいイスラエルの願望で、米国のメディアを支配しているユダヤ人の宣伝であり、アメリカの世論はそれに乗せられるでしょう。
岡田 米国のイラク攻撃の可能性は、やはり強いということですか。
藤原 国連とのからみで微妙な状勢にはなっていますが、あのブッシュなら自分の人気を維持するために、それくらいの博打をやりかねないでしょう。問題はブッシュを操っている戦争屋たちで、真の敵はイラクではなくイランだと認識しているし、サダム・フセインや大統領警護隊の幹部たちが、国境を越えてイランに逃げ込んだという口実を使い、最終的にイランとの戦争を開始するならば、中東問題は底無しの泥沼になる可能性があります。
それをロシアのプーチンは計算しているはずだし、イランが米軍のアフガン攻撃を黙認したのは、時間稼ぎして米国の消耗を待ったと考えれば、これが『三国志』的な天下取りの構図になる。テヘランの米大使館の人質救済の失敗とか、イランコントラ事件などを見てもわかるが、イランは米国の鬼門に当たる奥の院の国です。