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http://www.hotwired.co.jp/news/news/culture/story/20021213205.html
カルト・オブ・マッキントッシュ(上)
Leander Kahney
2002年12月5日 2:00am PT イタリア人で世界的な記号論学者のウンベルト・エーコ氏が以前、マッキントッシュとウィンドウズをキリスト教信仰の2大宗派、カトリックとプロテスタントに喩えたことはよく知られている。
コラムを連載していたイタリアの週刊ニュース誌『エスプレッソ』の1994年9月号に、エーコ氏はマックはカトリックだと書いた。マックは「陽気で、親しげで、機嫌を取ってくれる。マックは忠実な信者に向かって一歩一歩進んでいかなくてはならないのだよと語りかける。そうすれば、天の王国ならぬ――自分たちの文書が印刷される瞬間に到達できるのだからと」
一方、ウィンドウズはプロテスタントだ。ウィンドウズは「困難な個人的決定を要求し、微妙な解釈学をユーザーに強要し、またすべての者が救済されるわけではないのを自明のことだとする。システムを作動させるためには自分でプログラムを解釈する必要がある。つまり、どんちゃん騒ぎをする奇怪なマック集団とは対極で、ユーザーは自らの内なる苦悩の孤独に閉じ込められるのだ」
エーコ氏はジョークにしているが、実際に指摘する専門家もいるように、マックのコミュニティーは本当に宗教に似ている。またマックのユーザー自身も宗教の信者のようだ。
マックの熱心な愛好者であると自認する心理学者のデビッド・レバイン氏は「多くのマックユーザーにとって、(マック・コミュニティーは)内に宗教的な雰囲気を有している。宗教に落ち着きの悪さを感じる多くの人々にとって、マックがコミュニティーと共有財産を与えてくれる。マックユーザーはある種の共通した考え方、物事を行なうやり方、思考様式を持っている」と言う。
「人が自分を仏教徒だとかカトリック教徒だと言う同じ感覚で、われわれは自分はマックユーザーだと言う。それはつまり、同じ価値観を共有していることを意味するのだ」とレバイン氏は続けた。
ユタ大学の消費者行動心理学者、ラッセル・ベルク氏はさらに踏み込んだ見解を持っている。同氏はマック・コミュニティーは擬似宗教的だと言う。
ベルク氏は2年ほどマック・コミュニティーを研究し、マックユーザーとの一連のインタビューに基づき『マッキントッシュという新興宗教』(The Cult of Macintosh)と題されたビデオモノグラフを制作した。このビデオはアトランタで開催されたマーケティング会議の席で10月に初公開された。
「マックとその愛好者は宗教に等しい関係を作っている。この宗教の基となっているのは、米アップルコンピュータ社の起源神話、アップル社の共同設立者で現最高経営責任者(CEO)のスティーブ・ジョブズ氏にまつわる英雄/救済者伝説、これに従う信徒の敬虔な忠誠ぶり、マッキントッシュの正当性に対する信念、悪魔的対抗勢力の存在、マック信者による非信者への改宗活動、そして企業資本主義を超越することで救済が達成されるという信者の希望といったものだ」とベルク氏はビデオの要約に書いている。
宗教というものは人が世界を理解する助けになるような信念の構造だとベルク氏は言う。「マックという宗教」はアップル社やマックに関する信念の集合体であり、技術の世界を理解させるものなのだ。宗教としてのマックは、コミュニティーにも半宗教的な性格を与える。
スティーブ・ジョブズ氏は創造と破壊の力をもつ1つの神性として崇拝されていると、ビデオの中でベルク氏は論じている。アップル社の「企業神話」はジョブズ氏を「救世者」と表現している。ジョブズ氏の伝記は実際、比較神話学者ジョゼフ・キャンベルの描く古典的な英雄冒険神話とよく似ていると、ベルク氏は指摘する。
オデッセウス、イアソン、クリシュナ、キリストと同じように、ジョブズ氏の神話には、以下のようにキーとなる共通要素がある。
冒険への誘い:『ホームブリュー・コンピューター・クラブ』への参加
助力者:スティーブ・ウォズニアック氏
素晴らしい旅:初期コンピューター産業の爆発的成長
試練:米IBM社との競争と『リサ』や『アップル3』のような失敗
さらなる助力者:最初のマックを創った技術者およびアーティスト
神格化:ジョブズ氏は技術産業界の先見、すなわち予言者に聖別されている
逃走:アップル社からの追放と野に下ってネクスト・コンピューター社を設立した10年間
復活:アップル社への復帰
世界再建をもたらす恵み:『iMac』とこれに続くヒット製品
ジョブズ氏は聖人や苦行者のように描写されることが多いとベルク氏は指摘している。ジョブズ氏は俸給を取らない。タバコを吸わない菜食主義者だ。マックユーザーはジョブズ氏との間に愛憎関係を築くとベルク氏は言う。ジョブズ氏は、夢想家にもなれば専制君主にも成り得るのだ。
ビデオのためのインタビューを行なううちに、マックユーザーがコミュニティーについて宗教的な性格づけで語ることがしばしばあるのに気づいたと、ベルク氏は語っている。マックのプラットフォームを「伝道」し、ウィンドウズに支配されている世界でマックを使うために「迫害」され、コンピューター選択にあたっていかに「犠牲」を払ったかと、マックユーザーは話す。
「これは彼らにとって過去に覚えのある体験なのだ。真に心の琴線に触れる……。自分たちは少数派であり、信念にしたがって苦しみに立ち向かうという思い。営々と培われてきた殉教的な感覚がある」とベルク氏。
ベルク氏によれば、マックユーザーはコンピューターの選択に道徳的な理由をつけることがよくあるという。マシンの選択が善悪の問題そのものになっている人々がいるのだ。ビル・ゲイツ氏と米マイクロソフト社は悪魔のような「邪悪な帝国」であり、ただ利益のために動いている。これに対して、アップル社は革新的な技術を創造する使命に燃えて活動している。ベルク氏のインタビューを受けた1人のユーザーは「欲得ずくの理由よりも高貴な意図を持つ大義を追い求めたい」と語った。
アップル社の販売部門はアップル製品愛好者の強い愛着を培うように懸命に取り組んでいるとベルク氏は言う。アップル社創業の企業神話――ガレージで2人の男が事業を始めたという――には、聖書で描かれる情景に重なるものがある。「粗末な厩で奇跡の赤子が誕生したように」とベルク氏は語る。
(12/16に続く)
[日本語版:安井育郎/小林理子]
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