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はじめに
本書はデジタル・ライブラリの構築について入門的解説を目的とするものであり、その情報コンテンツの編成について論じるものではない。すなわち、図書館にたとえれば図書館の建物とその機能・サ−ビスについて論じるものであり、そこに 蔵書として収集される情報源や二次資料のための組織化について触れるものではない。
時として、デジタル・ライブラリというと後者について論ずるものであるかのような誤解がある。そこで最初に断ったしだいである。
さて、筆者がデジタル・ライブラリ構築を思い立ったのは、図書館という知識情報サ−ビスに興味を抱いたことによる。
それはもう35年前の筆者の学生時代に遡ることである。あの貧しい筆者の青春時代において、図書館機能の一部を機械化できないかということに情熱を燃やした。
やがて、驚異的なコンピュ−タ技術の進歩にともない、図書館機能を完全にコンピュ−タの中に組み込めないかという夢を描くことになる。これは、ある意味で、Memexというモデルを筆者自身の手によって実証する試みであった。
図書館の機械化は1960年代から本格的に開始された。
最初は紙カードによるソータ(分類機)や光学的技術によるピーカーブーカード(Peek-A-Boo Card)であった。筆者が初めて接した情報検索機器というものはその種のものであり、その驚きはやがて研究心に変り、新たな勉学の原動力となった。それらの機器は、当時では先端をいくものであったのだが、情報検索として活用するには限界があり、なかでも難しい操作は論理演算であった。ピ−カ−ブ−はカ−ドを重ねて、光が通るものが論理積であり、それまでのユニタ−ムカ−ド(Uniterm Card)では手作業でしかできなかった複雑な操作がたった一回で行えた。それが登場する前は、パンチカ−ドを何枚も重ねて、カ−ドの穴に針を通すことでキーワードの組み合わせ条件を満たすものとするという論理演算を手作業によって行った。
ピ−カ−ブ−は、針の代わりに光を通すという点では機械的であり、処理速度も速くなった。しかし、ピ−カ−ブ−でも論理和やそれらの複雑な組み合わせとなると、煩雑な何回もの繰り返しを行う必要があった。要するにコンピュ−タのプログラミング以外に論理演算式の完全な処理はできないのである。
やがてIBM製のホレリスカ−ドと分類機(Sorter)を使うことができ、その論理検索(正確にはふるい分け)の高速自動処理に感嘆したものである。さらにコンピュ−タを使うことによって、プログラミングで論理演算式(逆ポ−ランド記法)を処理できた。その時の喜びは今でも忘れることができない。
1970年代にはいり、コンピュータもオンラインやデータベースが登場し、続く1980年代では図書館のコンピュータ化も飛躍的に進展した。貸出し、目録、逐次刊行物管理そして館内事務処理といった図書館サービス機能は完全にコンピュータに置き換えることができた。
紙の目録カードは閲覧室から消滅し、端末による電子目録検索に置き換わってしまった。そして現在では図書館システムも世のダウンサイジングの波に乗り、クライアント・サーバ型情報システムへと移行する段階にきている。また、蔵書の電子化、マルチメディアの登場そしてインターネットも加わり、図書館システムは新たな変貌を求められている。
このように図書館システムの発展を振返ると、間違いなく図書館というサービス機能は徐々にコンピュータの中に組み込まれていったと考えることができる。
さらに決定的な出来事が起こった。それは意外にスム−ズな方法によって劇的に遂行された。
すなわちインタ−ネットの登場と、その上で展開されるサイバ−スペ−ス・アプリケ−ションの成功である。その一つにはデジタル・ライブラリも含まれる。
これまでは、デジタル・ライブラリの構築には巨大なデ−タベ−スとそれを制御できる巨大なコンピュ−タが必須のものであると信じられていたわけであるが、それがなんと小型のワ−クステ−ションやパソコンの集合体で実現できることが証明されたのである。
つまり、世界一巨大なデ−タベ−スとコンピュ−タとはネットワ−クにほかならないという事実である。
さて、デジタル・ライブラリと情報エージェントに代表されるデジタル・ライブラリアン、このような図書館司書のような人が消え、人間性もないロボットにサービスされるような図書館は一体何のため必要なのか。そういった疑問に答えなければならない。結論から先にいうならば、これまでの情報を提供するだけの図書館の役目は終わり、新図書館とはその上の段階にある知能環境を支援する新たな役割を担うものである。
これまでの図書館によって提供される情報は、デジタル・ライブラリに置き換えることで、人々は安心して情報を頭から切り離せるようになる。
携帯電話やモーバイル端末の驚異的な普及を見ていると明らかなように、手元の携帯端末によって、およそ学校で学ぶような情報はいつでも自由に取り出せるようになる。
これまでの図書館やデータベースに蓄積されるような情報は、人々が共有するコンピュ−タ(デジタル・ライブラリ)が記憶しておけばよい。学ぶ人々はいついかなるときも、端末を介してその記憶内容を参照できる。そうすると、単なる情報取得作業に煩わされることなく、多元的な学びの方向を獲得し、私たち個々に内在している知恵や技能や創造性といった知とその機能を、より豊かに育む機会を手にすることになる。
本書は、筆者のこれまでの小論をまとめてものであり、まだまだ研究途上の未熟な内容であることは承知の上で発表した。みなさまからの叱咤激励を大いにお願いしたい。
1997年 初夏 斉藤 孝
(1)デジタルライブラリとは何か
(2)デジタルライブラリの基本技術
(3)デジタルライブラリの応用技術
(4)コンテンツ技術
(5)情報ビジュアライザの構築
(6)イントラネットの構築
(7)情報エ−ジェントの構築
http://www.saitolab.com/lite/newbook.html