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http://japan.internet.com/column/public/technology/20040128/1.html
著者: 日本ユニシス 高谷 賢一 プリンター用 記事を転送
▼2004/01/28付の記事
□国内internet.com発の記事
1.紙媒体のアフォーダンス(余裕価値)という特性
20数年前「オフィス オートメーション(OA)」という流行語が当時のIT業界を席巻した。このときOAのゴールとして「ペーパーレス オフィス」という言葉がもてはやされていた。
それまでオフィスに氾濫していた書類などの紙が当時出現し始めていたワープロ、光ファイリング システムなどの導入によりオフィスから消えてしまう未来が直近であるという議論が盛んに交わされていた。
ところが、現在のオフィスでこのような状況が実現したというと、全く逆である。殆どのオフィスではプリンタが氾濫しており、さらに家庭でもプリンタを接続している場合が多くなっている。
企業など組織でのEメールの普及により、平均40%も紙の消費が増えたというデータまで出ている。どうしてこのような、紙がなくなるどころかむしろ紙の消費が増えている状況が生み出されたのだろうか。
最近紙がもつ情報媒体としての価値に関して真正面から取り組んだ研究が米国で発表され、欧米で大きな反響を呼んでいる(注)。
この研究では「アフォーダンス」という認知心理学者ギブソンによって提唱された概念を援用して紙の価値を分析している。
「アフォーダンス」は、「モノの物理的特性が其のモノを認識ないし使用する人にとっていろいろな機能を提供する。換言すればモノの特性が可能な行為を規定する」という定義されている。
紙の物理的特性である、薄さ、軽さ、水・油透性、不透明性、折り曲げ自由などにより、掴んだり、携帯したり、丸めたり、筆記器具を使って書き込んだりといった行為が可能になるということである。このような紙の「アフォーダンス」を全て代替するようなIT機器はまだ市場に現れていない。
「ペーパーレス オフィス」が喧伝されていた時代には話題にならなかった「知識ワーカー」とか「KM」という言葉が現在のオフィスを語る上では必須の用語になりつつある。
オフィスでの作業が過去の現業的作業(伝票処理とか苦情処理など)から企画、分析、調査等の作業が中心になりつつある状況を反映したものである。このような知識作業において、以前はIT機器を駆使した「ペーパーレス・オフィス」の実現が喧伝されたが、むしろ書類の山に囲まれている状況が殆どの職場で見られることに反論する人はいないだろう。
2.待ち望まれる、紙ベースに替わるITソリューション
上の研究では、幾つかの典型的知識ワーカー職場でのフィールド調査と、知識ワーカーの作業(論文を読んで要約を作成する)を紙ベースとIT機器ベースで行なった実験観察から、紙ベースでの作業が知識ワーカーの支持を得ている理由として、紙の4つのアフォーダンスを挙げている。
■ 紙ベースの場合、「めくる」という手を使う行為が同時に全体のあたりをつける(ナビゲーション)思考行為と連動している。
■ 同時に何冊もの書類を参照するのが容易。
■ 紙だったら、書類にコメント等の書き込みが簡単。
■ 読みながら書き込むといった知識ワーカーに特に当てはまる作業が容易。
IT機器はこのような紙のアフォーダンスを提供できるようなものにならない限り、紙がオフィスから消えることはないだろうというのがこの研究の結論である。
紙のアフォーダンスの一つである「自ら発光しないという目に与える自然さ」に注目して、ディスプレイに紙とインクと同じ色素を導入した電子インクが欧米のベンチャー企業から発表されており、日本でもこの要素技術を使った製品が今年以降発売されそうである。
このような製品が普及してくれば、ペーパーレス オフィスも夢物語ではなくなるかもしれないが、その実現にはもう少し時間がかかりそうである。
ファイリング対象の書類は言って見れば知識ワーカーにとってはその殆どが二度と見ない、「死んだ」ものである。死んだファイルの電子化はITの得意分野であるが、作業手段としての紙に替わるITソリューションは、グーテンベルクによる活版印刷技術の革新によりその後の西欧文明の発達を促進させたのと同じインパクトをこれからの社会に与えるだろう。
(注)Abigail J.Selten & Richard H.R.Harper,
"The Myth of the paperless Office", MIT Press 2002
・アフォーダンスについての入門書としては
佐々木正人「アフォーダンス――新しい認知の理論」岩波科学ライブラリー12 岩波書店 1994年
・アフォーダンスをIT機器のデザインに応用した試みとしては
D.Aノーマン「誰のためのデザイン?」(野島久雄訳) 新曜社 1990年