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松下のシグマブック
http://www.mainichi.co.jp/digital/coverstory/today/index.html
家電大手の松下電器とソニーが、今年、相次いで電子書籍専用の読書端末を発売する。「電子の本」は、読書をどう変えるのか。電子書籍コンテンツ配信のパブリッシングリンク初代社長に就任した松田哲夫さん(56)は「読書の新しい市場を作り出す可能性」を語る。また、評論家の加藤弘一さん(50)は「普及は先」としながらも、読者ニーズを満たす電子書籍の出現に期待を寄せる。(太田阿利佐)
■■新しい文化の土壌に 松田さん
――これまで、出版界では黒船のように「電子書籍の時代が来るぞ、来るぞ」と言われてきました。でもこれまで来なかった。
◆狼みたいでした。来ませんでしたねぇ。(笑い)。これまでは、電子書籍に過剰に期待されている部分があった。フランクフルトなどの海外の展示会などを見ると、電子書籍のブームは去ってしまったと思うほどです。いろいろな実験もあまり成功していない。 しかし、過大な期待や抵抗感がなくなってきた今こそ、電子書籍を本格的に展開するいい時期だと私は考えています。
これまで、電子書籍が普及しないのには主に三つの理由がありました。一つは無論、ハードの問題です。電車やベッドでも読め、目が疲れず、電池も長持ちする……現在、やっと紙に近いテイストのハードが現れてきてくれました。もちろん、しろうと考えでも、現在の端末が読書端末として完成されたものではない。でも、本格的なスタートを切れる端末が出てきたと思っています。
二つ目は主に出版界の問題です。数年前、編集者にアンケートをしたら、約8割が電子書籍に否定的でした。比較的元気のいい編集者でも、紙の本へのセンチメンタルな気持ちが実に強かった。著作権管理や日本語表記などは、技術面での課題もありましたが、紙の本のルールを踏襲するのかどうかという大きな問題があった。
しかし、2000年になって光文社、新潮社など文庫大手が参加する「電子文庫パブリ」ができ、出版界でルール作りをしようよ、自分たちで解決しようという機運が生まれ、実際に経験も積まれてきた。
三つ目はコンテンツ。電子書籍として読める魅力的な作品が十分あるかどうかという問題です。電子書籍に積極的な出版社や著作者がごく一部のままでは、魅力的な「本」が十分できるわけがない。私はそれをこれからやりたいと考えています。
さらに従来の、出版物をただ電子化するだけではなく、新しいビジネスモデル、新しい本の楽しみ方そのものを提供したいと考えています。パブリッシングリンクが2カ月間のレンタル方式……いろいろとご意見もあるようですが(笑い)……を採用したのもそのためです。
■■「内容だけ享受したい」読者が増える
――松田さんは、雑誌「ガロ」の編集にかかわり、筑摩書房専務、編集者として知られるなど、紙の本と歩んできました。紙の本は、電子の本に替わると考えていますか。
◆もう5、6年前から本のほとんどはフルデジタルで作られるようになりました。読者が手にするのは紙の本でも、裏方の作業はほとんどコンピューター化され、ある意味電子化は済んでいます。
電子辞書の小さな端末の中には、10〜20冊もの辞書のデータが入っていて、とても便利です。電子辞書の販売はもう紙の辞書を抜いたと言われています。使い勝手がよく、使う習慣がつけば「紙から電子に変る」いい例です。ソニーの読書端末には、電子辞書機能の搭載も検討されています。辞書として買って本も読めたら一挙両得で、電子書籍への入り口になるのではないでしょうか。ただ、紙の本がなくなることはないでしょうが……。
――電子書籍の読者のメリットは何でしょうか。
◆出版不況と言われても、以前は単行本、全集などハードカバーがそこそこ売れた。現在、主流は文庫、新書と完全にペーパーバック。出版社の勝ち組、負け組は、新書と文庫を持っているかどうかで決まると言われるほどです。この意味は、読書のスタイル自体が変わり、本の低価格化が進んでいるということです。
かつては蔵書として飾っておいて、いつでも読み返すところまでが本との付き合い方でした。最近は、電車や旅行先など空き時間に読み、あとは捨てるか売るか、積んでおくか。本というカタチではなく、「本の内容や情報だけ享受できればいい」という層が多数になっているのです。
こうした読者には、紙の本より安く、保存のための場所もとらない電子書籍は大きなメリットがある。外出時に読書端末1台を持っていけば、10〜50冊を持って出るのと同じです。記録メディアを入れ替え、別の本も読める。手元にデータが残らなくても、さほど問題はないのではないでしょうか。
今は新刊本が非常に多い一方、書評で取り上げられた本などはすぐ売り切れ、欲しい本がなかなか書店にありません。インターネットで紙の本を注文する「オンライン書店」がヒットするわけです。電子書籍には売り切れもありません。データ形式にもよりますが、字を拡大できるのも高齢者や視力の悪い人にはとても大きな魅力です。
――しかし、パブリッシングリンクが提供する、2カ月たつとデータが読み出せないというビジネスモデルは、本好きの読者には寂しくないですか。
◆コンピューターの世界は、日進月歩です。電子書籍の購読に必要な、 OS、ビューワー、ブラウザーのバージョンも次々アップすることが予想されます。電子書籍のデータを売って、数年たってまともに読めないというのは無責任です。かといって、環境が変化する度に、それに対応したデータを読者に送るというのでは、コストがかかってしまう。
確かにレンタルの不自由さはあると思いますが、紙の本と読者を食い合うより、違うチャネルから入った方がおもしろいと考えました。
――電子書籍は、私たちの読書をどう変えていくのでしょうか。
商売以前に、本は読まれなければ意味がないんです。紙でだろうと電子でだろうと、極端な言い方をすれば、万引きででも、読まれてこそ新しい文化が生まれてくる。しかし出版社は零細なところが多く、執筆者も楽な生活をしている人はごくわずかです。「中身さえ読めればいい」という読者からも、出版社や執筆者が一定のリターンを得る仕組みがないと、文化を再生産していく力そのものが枯れてしまいます。
逆にその仕組みができれば、もっと新しい文化を生む土壌になる。将来は、本と音楽や映像との融合もあるかも知れません。紙では採算ベースに乗らなかった優れた作品、全集を買うしかなかった書簡やエッセーを読んだり、再発見する機会が増えるのも魅力の一つです。ハードが普及したら、当社オリジナルの作品もぜひ送り出したいですね。
■■電子書籍の時代は必ず来る 加藤さん
――「紙の本」は「電子の本」に変ると思われますか。
◆電子書籍の時代は将来必ず来る、と思います。しかし、普及はまだ先でしょう。今はまだメーカーや出版社側の思惑が先行して、読者側のニーズを満たしていないからです。
例えば物書きや学者など仕事の関係で大量の本を持っている人々には、場所をとらない電子書籍はとても魅力ですが、内容が検索できるとか、文章の一部をコピーして引用できるとか、自分なりにデータベースを作るとかができないとほとんど意味がない。画像データでは検索はできないし、レンタル方式ではそもそも手元に内容が残らないので使えない。
一方、新古書店の利用者のような「一度読むだけでいい」層が何万円もする読書端末を購入するのかどうかは疑問です。携帯電話端末のようにタダ同然で端末を配付できるなら違うでしょうが。
――電子書籍の時代はいつ来るのでしょうか。
◆僕は、本格的普及は、インターネットの上で書き手が生まれ、育った時だと思っています。
ネットとつながらない電子機器はもはや考えられない状態ですが、「紙の本」向きの文章と、電子媒体向きの文章は違うらしい。
ホームページを読むことを「ブラウズする」と言いますが、「ブラウズ」とは「つまみ食い」とか「拾い読み」という意味です。電子媒体の読者は文章をきちんと読まない上に、すぐにネットを通じて他のサイトへ飛んでいってしまいます。最初からネットで育った書き手や読み手は「紙の本」世代とは別の文章感覚を持っていそうです。
ネットでは今、ブログと呼ばれる一種の個人評論が急速に広がっています。執筆者もニュースソースも明示されているので、電子掲示板「2ちゃんねる」などより信頼性がはるかに高い。ブログを読んだ専門家らからの情報提供もあり、書き続けることさえできれば、書き手のレベルは次第に上がっていきます。
――そんな方法で、本当に優れた書き手が育つのでしょうか。
◆もともと出版界が著者の養成で大きな役割を果たすようになったのは戦後のことです。以前は圧倒的に同人誌でした。仲間内の評論でレベルを高め、総合誌で世に出た。ネットでも、育つ人は育つでしょう。
■■外部に開かれた「電子文章」
――ディスプレーは「紙より読みにくい」と言う人もいますが、一読者としてどうですか。
◆現在のディスプレーがいいとは思いませんが、携帯電話も含めれば「紙よりも画面を眺めている時間がずっと長い」人はもうたくさんいる。技術的には今後、乗り越えられていく問題ではないでしょうか。
――電子書籍で何が変わる?
◆「紙の本」は閉じた小宇宙を作るのに対し、電子メディアで提供される文章はネットワークを通じて外部に開かれ、膨大な情報の海の中をただよっているようなものです。流行のブログは単なる日記ではありませんし、携帯電話のために書き下ろされたいわゆる携帯小説は伝統的な小説とはまったく別のジャンルの読み物です。
ディスプレーの性能が紙に近づいても、作品のあり方は「紙の本」とは違ったものになるのではないでしょうか。現在の電子書籍は「紙の本」を一所懸命マネしようとしていますが、そこには少数の読者しかいないと思います。
■■[メモ]電子書籍
電子書籍読書用端末は、松下電器が今年早々、ソニーが春に発売予定だ。
松下のシグマブックは、書籍の画像データを省電力の記憶型液晶で再生する。見開き型で、単三乾電池2本で3〜6カ月間使用可能。松下、東芝、電子書籍配信の「イーブックイニシアティブジャパン」などでつくる「電子書籍ビジネスコンソーシアム」と協力体制を組む。予定価格は4万円弱。
ソニーの端末は、四六判本程度の大きさ。テキスト(文字読み込み)形式で、2カ月でデータが読み出せなくなる「レンタル方式」。読者は本の内容を、ソニーのほか講談社、新潮社などが出資する「パブリッシングリンク」のサイトから借りる。
記録メディアには、松下の端末がSDカード、ソニーはメモリースティックを採用し、ここでも両社が火花を散らす。
【関連サイト】
[イーブックイニシアティブジャパン]
http://www.ebookjapan.co.jp/
[松下電器産業]
http://www.matsushita.co.jp/
[東芝]
http://www.toshiba.co.jp/index_j3.htm