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http://japan.cnet.com/news/ent/story/0,2000047623,20063444,00.htm
亦賀忠明(ガートナー ジャパン データクエスト 主席アナリスト)
2004年1月1日(木) 0時00分
ハードウェアとOS、ミドルウェアなど企業情報システムのインフラストラクチャにとって、2004年は大きな転換点になる。この10年間でIT業界はメインフレーム時代の垂直統合型の産業構造から水平分業のオープンアーキテクチャへと変わってきた。しかし、オープンシステムが高度化、複雑化する中で行き詰まりも出てきている。これからの10年は水平分業から新しい競争モデルに移行する「ポストオープン時代」へ突入する。
オープンアーキテクチャの問題は、高度なシステムで完成度を高めようとするとインテグレーションのコストが高く付くことだ。メインフレームがやってきた基幹業務をオープン系に移行していくレガシーマイグレーションなど、オープンアーキテクチャを使ってより高度なシステムを構築するニーズが高まっているが、ここでは信頼性とコストの両立が求められる。しかし、複雑化したマルチベンダー環境で完成度の高いシステムを作るのは難しくインテグレーションのコストもかかる。
ITベンダーは今まで、CPUならCPU、OSならOS、データベースならデータベースという形でそれぞれのレイヤーごとの製品で競争をしてきたが、市場ニーズの変化に伴い、どれだけ縦に製品を揃えていけるかという競争になってきた。個別のレイヤーで競争するよりもシステム全体の統合力が大事という発想だ。オープンアーキテクチャによるメインフレームの構築を目指していると言っても良いだろう。
システム全体での競争を意識したユーティリティコンピューティング
2003年に大手ITベンダー各社が提唱し始めたユーティリティコンピューティングのコンセプトの背景にあるのもシステム全体での競争という概念だ。日本IBMの「e-ビジネス・オンデマンド」、日本ヒューレット・パッカードの「アダプティブコンピューティング」、NECの「VALMO」、富士通の「TRIOLE(トリオーレ)」、日立の「ハーモニアス・コンピューティング」など、それぞれ名称は異なるもののコンセプトとそれを実現するためのアーキテクチャはほぼ似通ったものとなっている。コンセプトは仮想化、自律化、サービス化の3つに分けられ、これを実現する技術がストレージネットワークやグリッドコンピューティング、Webサービスなどだ。
米国では2003年5月にHarvard Business Reviewに掲載された「IT Doesn't Matter(ITは重要ではない)」という論文が話題を集めた。この論文はITがコモディティ化した現在、企業にとってIT投資は差別化の材料にならない、技術革新を追いかけるには注意が必要だと主張している。
これまでITベンダーは要素技術をユーザーにアピールしてきたが、ユーザーは、IT投資をして、その結果、自社の経営課題がどう解決されるのかということを問うようになっている。「IT Doesn't Matter」が注目されたのにはこういう時代背景があり、米国ではベンダー側も「革新」を切り口に要素技術を売り込むことに後ろ向きになっている。
ベンダーの売り込み方としては「コストの削減」「複雑性の抑制」「変化への対応」「リアルタイム」など課題を明確にして、それを実現するためのシステムインフラを売り込もうという流れになる。単なる要素技術の革新を売りにするのではなく、Webサービス、グリッド、オートノミックコンピューティング、Linuxなどの技術を統合することで、経営課題に対処するインフラを提供するというのがユーティリティコンピューティングの狙いだ。
差別化が上手いのはIBM
ただ、実際に各社の取り組みを見ていると市場に対して上手くメッセージを出せているのはIBMくらいではないか。ユーザーが受け取る情報の量がこれだけ増えてくると、どんなに良い技術を持っていてもそれだけをアピールしていては埋もれてしまう。ユーザーはどうすれば自社のシステムを最適化できるのかが知りたいわけで、ベンダーは次世代コンピューティング環境に関するビジョンをユーザーが十分理解できるようなキーメッセージにして伝える必要がある。このキーメッセージをサポートするような形で自社の製品とサービスをリンクさせるようなシナリオを提示することが重要だ。
IBMの場合、「e-ビジネス・オンデマンド」というキーメッセージの下に、それを実現するためのインフラとして、オートノミックコンピューティングというコンセプトがあり、そのコンセプトを有する技術がWebSphere、DB2、Tivoliなどの製品に実装されている。さらに、Webサービス、グリッドコンピューティング、Linuxなどの新技術にも積極的に取り組むことで、IBMが取り込めていなかった空白領域への足がかりにしようという戦略もうかがうことができる。
IBMのメッセージ性が強いのは動機がはっきりしているからだ。ゲームの流れを変えることで、マイクロソフトに取られた分野をひっくり返そうという狙いがある。オラクルもLinuxとグリッドコンピューティングに力を入れているが、これは勢いを失いつつあるUnixサーバへの依存から抜け出そうという狙いがある。一方、他の多くのベンダーも同じようにユーティリティコンピューティング、Linuxやグリッド、Webサービスなどのコンセプトを提唱しているが戦略性が薄い。特に国産ベンダーはインテグレーターとしての立場からOSに中立的な姿勢を取っているが、このことがメッセージ性を弱くしている。今後、戦略的な取り組みが求められるだろう。
2004年の第2四半期から第3四半期くらいには各社のインフラ戦略の中身が具体化して、ユーザーにとっては比較しやすい状況になると思う。ただ、現時点でも次世代のインフラを作る技術基盤として何が最も優れているのか結論は出ていない。大きく分ければ富士通のTRIOLEのようなテンプレート型のアプローチと、HPのUDC(Utility Data Center)のような完成品としてのインフラストラクチャという方向性があるが、5年から10年はこの両方が併存する形で進んでいくだろう。(談)
この原稿は、亦賀氏の談話を元にCNET Japanで編集したものです。