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[2003/10/28]
新勢力●急ピッチで導入が進む「ICタグ」 個別システムでは市民権を得つつも,幅広く普及するには課題山積
http://itpro.nikkeibp.co.jp/members/SI/ITARTICLE/20031021/1/
日経システム構築2003年10月号,16ページより
2002年秋ごろからブレークし始めた「ICタグ」。新聞や雑誌,Webサイト
では関連ニュースが連日のように報じられ,ブームは1年近くたった今で
も一向に衰えを見せない。自社システムにICタグを組み込んだユーザー事
例も増えている。一方で,通信精度の環境依存やプライバシー問題などの
課題も抱えたままだ。
図1●システムへの採用が本格化しつつあるICタグ
左は千葉県富里市立図書館。書籍にICタグを張り付け,貸出作業の手間を
軽減した。右は會澤高圧コンクリートの採用例。ミキサー車の窓にICタグ
を張り付け,生コンクリートの積載状況などを管理している
図2●ICタグでバーコードの弱点を補う
無線通信機能を備えるチップを組み込んだICタグは,「タグとリーダーが
離れていてもデータが読み取れる」,「データ容量が大きい」といった理
由から,バーコードの代替技術として期待が高まっている
図3●ICタグが抱える様々な課題
単価下落の流れや標準化作業の進展具合により,ありとあらゆるモノに普
及するかは微妙な状況。プライバシー問題も議論の余地が大きい。当面は,
限られた場所や用途での利用が進む見通しだ
「図書の貸出,返却の処理時間が短縮できた。利用者の評判も総じて良
い」――千葉県富里市立図書館 主査補 武藤弘之氏は,利用開始から半年
が経つICタグをそう高く評価する。
同図書館では,約7万5000冊の蔵書の表紙裏にICタグを張り付け,貸出/
返却業務の効率化に役立てている。受付テーブルや自動貸出装置に組み込
んだリーダーで書籍情報を読み取る(図1左[拡大表示])。「バーコード
では,1冊ずつデータを読み取る必要があるが,ICタグなら貸出制限の10
冊まで同時に処理できる。館内が立て込む土日でも,利用者を待たせるこ
とはほとんどない」と武藤氏は導入効果を認める。
北海道で生コンクリート事業を営む會澤高圧コンクリートも,ICタグを
活用するユーザーだ。ミキサー車の窓に張り付けたICタグで,車両番号と
停車位置,生コンの積載状況を管理する(図1右[拡大表示])。「導入前
は,運転手が車から一旦降りて,工場内にある生コンの積載ボタンを操作
する必要があった。ICタグの導入で作業効率が大幅に向上した」(経営管
理本部 情報システム担当リーダー 奥山寿貴氏)。
ICタグ導入の流れは上記2つの事例にとどまらない。ICタグ・メーカー
の1社,オムロンでは「ここ数年,ICタグの引き合いは着実に増えている」
(RFIDプロジェクト 営業・企画グループ 担当係長 主査 立石俊三氏)と,
市場拡大の手ごたえを感じている。同社は,回転寿司店のお皿の裏にICタ
グを張り付け,ハンディ端末で料金を精算するシステムを約80店舗に納入
したほか,工事現場の入退室管理用途などでICタグの納入実績を持つ。
バーコードの代替として期待
ICタグ自体は,決して新しい技術ではない。1980年代からすでに,工場
のラインなどで工程管理目的で利用が始まっている。
広く知れ渡るようになったのは,2002年10月の電波法の改正が1つのき
っかけ。免許を取得せずにICタグ向け大型アンテナの利用が可能になるな
ど,日本国内でも欧州レベルまで規制が緩和されたためだ。メーカー参入
が相次いだことで,単価が下落傾向にあることも追い風となった。
富里市立図書館の例にあるように,ICタグをバーコードの代替技術とし
て期待するユーザーは多い。ICタグ内に商品コードや価格情報などを記録
すればバーコードの代替として十分機能する。それだけでなくICタグには
バーコードでは難しかった機能が満載されている(図2[拡大表示])。書
き込めるデータ量が飛躍的に大きいほか,データの書き換えも可能だ。1
度に複数のデータを読み込めるため,データの読み込み時間が短縮できる。
同図書館は来年3月に控える棚卸し作業の効率も高まると期待している。
「本棚に沿ってリーダーを動かせば一気にデータが読み取れる。1冊ずつ
本棚から抜き取ってバーコードで棚卸しをするのに比べ,作業効率が大幅
に向上するはずだ」(武藤氏)。
当面は場所と用途に限界
この9月2日には日立製作所が,アンテナ機能を備えた0.4mm角の超小型
ICタグ「ミューチップ」を発表した。同社は「紙幣や有価証券へ組み込む
ことも可能」と力説する。では,近い将来,ICタグはバーコードに取って
代わり,ありとあらゆるモノに組み込まれるまで普及するのだろうか。
オムロンの立石氏は,最近のICタグ・ブームについて「関心が高まった
ことはベンダーの立場としては歓迎したい」と前置きしつつ,「多種多様
な分野に幅広く普及するには乗り越えるべき課題はまだまだある」と指摘
する。例えば通信距離や通信環境だ(図3[拡大表示] )。「13.56MHzの周
波数を使う製品の場合,実用的な通信距離は50cm程度。周波数帯を上げれ
ば通信距離を延ばせるが,金属や水分による電波の反射,吸収の影響も大
きくなる。ICタグは便利なツールではあるが万能ではない。性能や特徴を
理解するのが先決」と立石氏は注意を促す。
価格もまだ高い。バーコードの原価がほぼ0円なのに対し,ICタグは現
時点で最低でも1個数十円はかかる。格納可能なデータ容量が増えると100
円近くするケースもある。
プライバシー問題も議論の余地が大きい。米ジレットや伊ベネトンは,
消費者団体から抗議を受けて,ICタグ実験の中止に追い込まれた。国内で
も同様の議論が起こる可能性は高く,消費財メーカーは採用に慎重な姿勢
を取らざるを得ない。ICタグは当面,範囲の限られた場所で,限られた用
途での利用が進みそうだ。
(菅井 光浩=sugai@nikkeibp.co.jp)
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