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トロン 小型OSで世界一 『巨人』マイクロソフトも歩み寄り
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20031012/mng_____tokuho__000.shtml
トロン。携帯電話やデジタルカメラをすばやく動かしている、国産の基本ソフト(OS)だ。姿は見えないが、エアコンや電子レンジなど身の回りの家電製品にも役立っている優れものだ。「ぜひ手を組みたい」。世界最大のソフトウエア会社「マイクロソフト」も頭を下げる電子世界の妖精、トロンの実力とは。 (中山洋子)
■生みの親坂村教授『無償、誰でもOK』
先月末、トロンの開発団体とマイクロソフトの提携が発表された。それ以降、トロンの生みの親で、開発団体「T−エンジンフォーラム」を主催する東京大学の坂村健教授の仕事に、メディア対応という項目が増えた。
「それこそ世界中のメディアからですよ」。坂村教授は苦笑しながら続ける。
「ネジやクギをつくっているようなもので、消費者と接するわけではない。世間の関心は薄かったかもしれない。しかし、組み込み型OSとしてすでにトロンは世界で一番使われている」
現在、ほとんどの電気製品にコンピューターが組み込まれている。コンピューターを動かしているのが組み込み型OSだ。OSとはソフトを動かすソフトだ。コンピューターが劇場でソフトがオーケストラだとすれば、OSはソフトに指示を与える指揮者にあたる。
坂村教授は「車のエンジン制御、携帯電話、コピー機、DVDにも」と列挙しながら「ノーベル賞をもらわないと評価されないように、外国に認められて初めて大騒ぎになるのは、ちょっと残念だと思うけど」と肩をすくめた。
トロンは、一九八〇年代に産学協同プロジェクトとして始まった。トロンの発想の根底には「OSは電気や水道と同じ社会基盤である」という意識がある。利用も無償だ。仕様を秘密にしてビジネスを拡大させるマイクロソフトとの最大の違いはこの点だ。
■米で89年に制裁対象候補
しかし日米貿易摩擦のあおりで、パソコン向けトロンは一九八九年、米通商代表部のスーパー三〇一条による制裁対象候補に挙げられてしまった。この影響もあり、パソコン向けは「ウィンドウズ」など米国製の独壇場に。このため今回のマイクロソフトとの提携は「歴史的な和解」ともいわれる。
だが、坂村教授は「大きな誤解だ」とマイクロソフトとの因縁を否定する。
「最初から、パソコン向けだけではない組み込み型OSの開発をしている。トロンはすべての人々に開かれ、誰でも利用できる。参加したいという会社を拒むことはありえない」
ただ「そもそも『特定の会社のOSが世界標準になるのはおかしいよね』というのがトロンの発想だ。だから、どんどん広がること自体がわれわれのメリットだ。世界一のソフト会社が参加する影響は大きい」と歓迎する。
坂村教授は八〇年代から「身の回りのいたるところにコンピューターがある社会」を提唱している。
「二十年前にはSFだと思われていたが、トロンに時代が追いついてきた。携帯電話が日用品になり、家電にも便利な機能がどんどん増えてきている。だんだんイメージが伝わるようになった」
■普及急速で安全面危ぐ
だが、急速な浸透に対する危ぐも生まれた。
「パソコンがこんなに広く行き渡るとは誰も想像していなかった。だから、安全性やプライバシーの保護などが配慮されなかった。便利だからと商品化を急ぐのではなく、時間をかけても、生活と社会に安全なシステムを作らなければ」
坂村教授が目指す家電ネットワーク社会の主役はトロンだ。提携はトロンの世界標準化への第一歩か、それとも−。
技術評論家で工業調査会の志村幸雄会長は「米国の覇権戦略でいったん葬られた日本の技術が、ユーザー側からの要請により家電などの分野で復活した。マイクロソフトが低姿勢でトロンと手を結ぶのも、こうした情報家電への流れをくみ取ってのことだ」と背景を指摘する。
マイクロソフトも小型機器用OS「ウィンドウズCE」を開発している。しかし、トロンに比べて動きが遅くシェアを伸ばせないでいる。
今回の提携発表の際、マイクロソフト側は、トロンを基盤にして『CE』を作り替える意向を示している。
■和製復権 一気にメジャー
志村氏はマイクロソフトの狙いについて「家電もAV機器も日本のお家芸で、強いメーカーがそろっている。最近の家電ネットワーク化の動きが、日本のメーカー主導になることを警戒したようだ。現段階でトロンと結びつけば、(家電分野で)新たなビジネスチャンスを見つけられるという判断もある」とみる。
カメラやテレビなどのデジタル化は急速に進んでいる。携帯電話で調節できる電子レンジやエアコンなどの「ネット家電」も、すでに市販され始めている。国内家電大手の広報担当者は「OSに何を使っているかは公表されないことが多いが、間違いなくトロンは増えている」と認める。
■メーカーもMS社警戒
トロンの開発や教育・普及活動などを行っているトロン協会の昨年十一月のアンケートでも、電子機器メーカーなどの四割が「トロンを使っている」と回答している。
ただ、したたかなマイクロソフト戦略に取り込まれ「トロンが世界最大手の一部門になってしまうのでは」との声もある。
技術ジャーナリストの宍戸周夫氏は答える。
「マイクロソフトが恐れているのは、トロンではなく、リナックスだ。リナックスとの勢力争いのために、トロンを陣営につけておこうという判断だ」
リナックスも、トロン同様に無償で公開されているOSで、ヘルシンキ大学の大学院生によって提唱、開発された。米国はじめ、多くで政府のコンピューターなどにも導入されている。
■リナックスの対抗軸に?
宍戸氏は「八〇年代はマイクロソフトとトロンが対立軸だったが、九〇年代以降、マイクロソフトの敵はリナックスだ。マイクロソフトが今回、トロンと共同開発をする『CE』は、同社の本流ではない。同社への風当たりが強くなっている状況で、トロンに歩み寄りを見せることは、同社のイメージアップにつながるだけで、同社が負うリスクもない」と指摘する。
前出の志村氏がトロンの未来図を予測する。「携帯電話で外からエアコンの操作をする時代はすぐやってくる。家電ネットワーク化に向かう中で、それぞれの情報家電をコントロールする総元締めが必要になる。最終的にはユーザーが決めることだが、情報家電の分野でトロンの優位性は圧倒的だ。ビル・ゲイツが認めるほどですから」