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「公共貸与権」という制度は、あまり知られていないと思う。日本ではまだ導入されていないからだ。
自治体の公共図書館が住民に貸し出した本の冊数に応じて、その本を書いた作家らに補償金を支払う仕組みのことである。
この制度を設けるべきかどうかをめぐって、図書館と作家側の間で論争が続いている。読書週間中の文化の日にこの問題を考えてみたい。
著作権法では、貸し出し用の映画ビデオや音楽CDについては著作権者への報酬が認められている。文化庁は民間の貸本業についても著作権料の支払いを義務付ける方針を固めた。
この方式を公共図書館の貸し出しに対しても同じように適用すべきだ、というのが、作家らで組織する日本文芸家協会などの主張である。
背景には出版不況と言われる本の売れ行き不振がある。景気低迷による消費者側の倹約やメディアの多様化によるものだろう。それだけではない、という見方も作家側にはある。
図書館が新刊書をたくさん買い入れて、貸し出す。そのせいで書店の本があまり売れなくなった、と言う。
本の販売部数は一九九六年には約九億冊だったが、二〇〇一年には約七億五千万冊に減った。一方、図書館の貸出冊数は徐々に増えている。
買うよりも借りて読む傾向が強まっている、とも言える。作家側が危機感を深めるのも無理はない。
作家ら書く側の収入が減り、経済的な生活基盤が脅かされれば、創作活動の衰退を招く恐れも出てくる。
図書館側にも反論がある。新刊書の貸し出しが本の売れ行きを妨げると言うが、それを厳密に証明した調査結果はない。いろいろな本を豊富に提供するのは公共図書館の使命だ。
むしろ、読書の芽を育てることで図書館は本の購買層の拡大に役立っているのではないか。
こうした言い分も否定することはできない。図書館は知識のオアシス、情報発信の基点という公共的な役割を担っているからだ。住民にとっては読みたい本をいつでも借りることができる方が便利でありがたい。
課題は作家と図書館はどうすれば共存できるか、である。
公共貸与権の制度は、すでにデンマークや英国、ドイツなどで実施されている。国が税金で基金を設け、そこから著作権者に支払っている。
狙いは図書館の利便性の維持と、著作権者の保護の両面にある。財政面の課題はあるが、欧州の制度を参考にして、公共貸与権の導入に向け、本格的に検討すべきではないか。
創作活動と出版文化、豊かな読書環境を守るために知恵を出し合い、作家側と図書館がともに存在価値を発揮できる策を見つけなければならない。
[11月3日 社説]
http://www.hokkaido-np.co.jp/Php/backnumber.php3?&d=20031103&j=0032&k=200311030810