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体外受精した卵を子宮に戻す前に遺伝病の有無などを検査する「着床前診断」を、神戸市灘区の大谷産婦人科(大谷徹郎院長)が02年11月以後、3組の夫婦に対して実施していたことが4日、分かった。男女の産み分けを希望したり、高齢出産による染色体異常を心配する夫婦に行われ、1人は出産間近という。日本産科婦人科学会には実施の承認申請をしていなかった。着床前診断をめぐっては「命の選別につながる」と批判があり、同学会は重い遺伝病の診断に厳しく限って実施を認めている。これまで審査で認められたケースはない。今回のケースは承認対象にはあたらないとみられる。
大谷院長によると、02年12月、女児のみを希望する夫婦の妻の卵子を排卵誘発剤で取り出して体外受精し、着床前診断したうえで子宮に戻したが着床しなかった。2回目の昨年6月、希望通り女児を妊娠し、今月中にも出産予定という。また、男児を強く希望する夫婦には、02年11月と昨年6月に実施し、2回とも妊娠したが自然流産。3組目は高齢出産の女性で「染色体異常があれば産みたくない」と強く希望したため、今年1月、着床前診断を行って異常がないことを確認し、子宮に戻した。着床したかどうかの結果は出ていない。
着床前診断は、受精卵で診断するため、妊娠後の中絶が避けられ、また胎児の生命を奪うより身体的・精神的負担が少ない、というメリットがある。しかし生命倫理上、安易な選別を助長する懸念があるほか、海外では誤診のケースも報告されている。
このような状況を踏まえ、同学会は98年、重い遺伝病の可能性がある場合に限る▽事前に学会が審査する――などを条件に容認する学会規則を発表。99年、鹿児島大が筋ジストロフィーの可能性を調べる申請を出したが、「診断法が適切でない」と不承認となり、現在、名古屋市立大と慶応大がそれぞれ申請した筋ジスの遺伝子検査について審査中。
学会を無視して独断で実施したことについて、大谷院長は「遺伝子を人為的に操作するわけでなく、選ぶことだけは許されると思う。目の前の患者の希望をかなえることが私の良心だ」と話している。
【野田武、細川貴代】
■ことば(着床前診断) 生殖技術と遺伝子技術を組み合わせた診断。体外受精させた受精卵が4〜8個の細胞に分裂した段階で、1〜2個の細胞を取り出して遺伝子を調べ、遺伝病の有無を診断する。異常がなければ子宮に移して妊娠、出産させる。海外では欧米を中心に実施され、遺伝子疾患や染色体異常に臨床応用されている。しかし精度は100%ではなく、正常と診断されたのに妊娠後に異常が分かった例もある。
◇自主規制ルールを無視=解説
着床前診断は、受精卵の段階で遺伝子を調べる。体外受精など、生殖補助医療の発展とともに登場した。今回のケースは、親の意思で性(生命)を選ぶという倫理的問題に加え、医師集団である日本産科婦人科学会(日産婦)の自主規制ルールを無視しているという意味で二重に問題がある。
日産婦は98年に着床前診断を条件付きで認めた。以来、4件の申請が出され、2件は不承認、2件は現在審査中だ。
不承認となった鹿児島大産婦人科の永田行博教授(現・学長)の申請は、生まれる子が遺伝病の筋ジストロフィーになることを回避するため、発症リスクの低い女子になる受精卵を選別する、という内容だった。日産婦は「男女産み分けにつながりかねない」と認めなかった。今回のケースはその「男女産み分け」が目的だ。
内閣府などによると、着床前診断を条件付きで認めているのは、日本のほかフランス、イギリスなど。02年の欧州生殖医学会の実態調査では、99〜01年に実施された着床前診断1307例中30例が「男女産み分け」目的だった。
永田学長は「会告が禁じている性別診断をあえてやるなら、ちゃんと申請して社会に問うべきだ。患者が望んでいるからやる、という理由は通用しない」と指摘する。
胎児の段階で羊水などを調べる「出生前診断」に比べれば、体外でなされる着床前診断の方が母体への負担は低くてすむ。一方、遺伝病のリスクが判明すれば、着床前診断でも親は産むかどうかのつらい決断を迫られる。日産婦が慎重なのは、こうした倫理的な事情からだ。
会告は「自主規制」であり法的拘束力はない。だからといって、その手続きを「時間がない」「患者が望んでいる」という理由でパスするのは、あまりに短絡的である。【元村有希子】
[毎日新聞2月4日] ( 2004-02-04-13:48 )
http://www.mainichi.co.jp/news/flash/shakai/20040204k0000e040042003c.html