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マグロと水銀
http://www.janjan.jp/living/0311/0311108468/1.php
2003/11/14
今年6月、厚生労働省は水銀を含む魚介類などの摂取注意事項を発表した。水銀は海を含む自然界にも多く存在し、特にマグロなどの大型魚は含有量が多い。
ではそもそも、水銀とはなにか?人の体内には、金属の水銀と、アミノ酸と結合したメチル水銀がある。そして、この二つの中で毒性が強く人体に危険をもたらすのがメチル水銀である。メチル水銀を大量摂取すると、まっすぐに歩けないなど運動・感覚障害、知能障害が起こる。メチル水銀の多量摂取による水俣病はあまりにも有名であり、その危険性は広く認知されている。
また、近年において、微量な水銀摂取によっても胎児の脳への影響を指摘する研究があり、世界各国で妊婦や乳児への摂取制限の動きが広がっている。そのため、厚生労働省は妊婦への注意を促そうと今回の発表を行い、正確な認知をさせようとした。
しかしこの時に同省は、注意リストの中にマグロを含めなかった。日本人のマグロの一日平均摂取量は21グラムと少ないという理由で、発表の対象とはしなかったのである。しかし実際のマグロの水銀含有量は、この発表であげられたキンメダイよりも上回っている。
キンメダイは、妊婦に週2回以上の摂取をしないようにと注意を促された。これを受けてやはり消費者は敏感に反応した。キンメダイの価格が暴落し、水産業者の扱い量も減った。マグロほど日本人の食生活になじみのないキンメダイであっても、ここまでの影響があった。
また、この時に厚生労働省が示した妊婦の摂取許容量は、一日当たり15マイクログラム、週では105マイクログラムであった。しかし、基準の根拠となったWHO(世界保健機関)とFAO(国連食糧農業機関)の合同専門家会議(JECFA)による許容量は、発表後に週80マイクログラムに変更となった。
これを基準にすると、メバチマグロの鉄火丼(約80〜90マイクログラム)も週1回以上食べてはならないことになるという。(メバチマグロの値は毎日新聞を参照。)
そもそもマグロは日本人にもっとも好まれている魚介類のひとつであり、世界の水揚げ量の95%を消費している。今回、基準変更後もマグロについて正式に発表しない理由として、水産業者の保護が見え隠れする。
ちなみに同省の中では、魚の水銀値はホームページに掲載しており、隠してはいないのでそれを基準として自分で計算、判断しろという無責任な声まである。
結論として、国はこのマグロの水銀問題、ひいては消費者をあまりにも軽く扱っている。消費者と生産者を見比べた場合、利益重視の立場から生産者を重んじすぎではないか。
キンメダイや狂牛病の例を見ると、消費者は一時的にではあるが過剰反応する。しかしそれは、正しく情報を伝え、国としての役目を果たせば一過性のものに留まるはずである。それにもかかわらず、利益重視の立場をとるあまり、国の対応は後手後手にまわり、その結果、国民の信頼を失い更に被害(主に生産者のこうむる損失など)が大きくなるのである。
行政は何のためにあるのか?国民の利益=生産者の利益と勘違いしているのかとさえ思わせるほどのいい加減さには閉口してしまう。マグロ問題は国民の食にかかわる重要な問題である。それを認識して、またかつての同じような問題の反省を踏まえ、いち早く正確かつ迅速に調査しなおし、国民に知らせる義務を果たしてほしい。
(野中三郎)