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http://www.hotwired.co.jp/news/news/technology/story/20031107303.html
Kristen Philipkoski
現在シリコンチップの不良品の検知に使われているナノテクノロジーの手法が、将来全く別の分野で役立つことになるかもしれない。これまでのどんな手法よりも早期に、そして正確にガンを診断する技術に応用される可能性があるのだ。
米インテル社の工学、化学、物理学、ナノテクノロジーといった専門分野に携わるおよそ10人の研究者チームが、ナノテクノロジーを使った研究開発に取り組んでいる。研究チームは、人間の生体サンプルの分子ひとつひとつを調べて、分子単位で疾病を検知できる装置の開発を計画している。
もし計画が成功すれば、これまであったどんな機器よりも正確無比なガン診断装置が実現することになる。ガンの最も初期の段階――治療が最も容易な段階――で、ガンの診断が可能になる。
同社の『プレシジョン・バイオロジー』http://www.intel.com/research/exploratory/precision_biology.htmプログラムの主任研究員アンディー・バーリン氏は、「今、医療機関用に販売されているどんな機器も太刀打ちできないほど、はるかに感度が高い」と述べている。
バーリン氏が率いるグループは診断装置の試作品を組み立てた。カリフォルニア州サンタクララにあるインテル社の本社内にある約55平方メートルの部屋を占拠するほど大きな装置だ。フレッド・ハッチンソン・ガン研究センターの研究者たちがこの噂を聞きつけ、テストしてみたいと熱心に申し入れたため、インテル社の研究者チームは全く同じ装置を、シアトルにある同研究センターに建設している最中だ。
「この装置のほかにはない特色は、分子をひとつひとつ個別に調べられることだ。このような検査ができるところは多くない」と、バーリン氏は説明している。
正常な構造から逸脱したタンパク質は、次々と連鎖反応的な現象を引き起こし、ガンにつながってゆく。タンパク質は、どれも1個の分子からできている。つまりこの装置は文字通り、ガン発生の直後に検知できることになる。
このプロジェクトは大きなリスクを抱えている、とバーリン氏は述べている。『ラマン・バイオアナライザー・システム』と呼ばれるこの装置が、人間の疾病について有用な情報をもたらすかどうか判明するまで、短くても1年はかかる。
インテル社が、(パロアルト研究所に在籍していた)バーリン氏をプレシジョン・バイオロジー・プログラムの責任者に迎え入れたのは、バイオテクノロジー分野で最も有望と思われる自社技術を選び出すためだ。バーリン氏が目をつけたのは、インテル社のラマン分光計だった。ラマン分光計は現在、シリコンチップ不良品の検知に使われているが、人間の不完全な細胞も正確に特定できるかもしれないと同氏は考えた。開発期間が長くなるのはわかっていたが、成功すれば長期的に非常に大きな見返りがあるはずだとバーリン氏は述べている。
「インテル社は、非常に高感度の装置を開発した……これを使えば、これまで見えなかったものも検出できるようになると思う」
研究者たちは、同様のシステムを化合物を特定するために何年も前から使っている。しかし、皮膚や血液といった生体物質の検査にまで広げて使った例は皆無だ。
「私たちはウシの血液を調べてある程度の成果を得た。しかし人間については、まだ何も調べていない」とバーリン氏は説明している。
インテル社の装置は、ラマン効果http://www.icmm.csic.es/Fagullo/ramicr_e.htmという現象を利用している。この現象が、いわば「化学物質を見分けるバーコード」の働きをするのだという。
インドの物理学者チャンドラセカーラ・ベンカタ・ラマン博士は1928年、さまざまな物質に光を当てたとき、散乱されてくる光は入射光と異なっていること、そして散乱光は物質ごとに異なることを発見した。この光学的な信号を分光計を使って調べることにより、さまざまな化合物を特定できるようになった。科学者たちはさまざまなラマン信号について、そして信号がどのようなタイプの化学物質を示しているかについて、研究成果http://www.amazon.com/exec/obidos/tg/detail/-/0471957747/qid=1067036461/sr=1-26/ref=sr_1_26/104-5635085-2902303?v=glance&s=booksを多数発表している。
インテル社のラマン分光計はレーザー光を使っており、まだレーザー技術がなかった1928年にラマン博士が検出したものより強い信号を引き出せる。
「検査する分子の種類によって、非常に異なった光の波長パターンが得られる」とバーリン氏。
生体サンプルについても、同じような成果が得られることをバーリン氏は期待している。もし期待通りならば、ガン診断の全く新しい分野を開拓できるだろう。新しく判明したラマン効果を分類してまとめることにより、特定の信号がどんな種類のガンを表わすかがわかってくるはずだ。
マサチューセッツ工科大学(MIT)と米国立衛生研究所(NIH)の研究者たちも、診断ツールとしてラマン分光計を使いはじめたが、まだ実験段階にとどまっている。
「ラマン効果を利用した診断装置の中で、定量的検知の性能でもコスト対効果といった観点からも、(現行技術に)取って代わるほど優れたものを私は見たことがない」と、カンザスシティーにあるミズーリ大学のラマン分光学専門家、ジョージ・トーマス教授は指摘している。
開発中の新装置の製造費用はインテル社が負担するため、フレッド・ハッチンソン・ガン研究センターの負担は設置場所の提供だけになる。同センターはガンの早期発見に大きな重点を置いているため、このプロジェクトは研究目的に合致している、とセンター内の研究者たちは述べている。
「私たちはガンの早期発見と、ガンになる前兆を示すバイオマーカーを血清その他の体液中に発見することに、非常に大きな重点を置いている。このような発見を可能にするのは、(従来のものとは違う)新技術だけだ」と、ハッチンソン研究センターのペギー・ミーンズ戦略開発担当上級副所長は述べている。
しかし、新技術の開発には多大な費用がかかる――NIHのような政府機関では予算もリスクも負担しきれない。したがって、インテル社のような民間企業の研究所との協力が、画期的なガン早期診断技術を開発するための鍵になる、とミーンズ副所長は語った。
[日本語版:中沢 滋/湯田賢司]
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