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泳ぐ魂 カール・サフィナ博士 『fall 2003』カタログ掲載 【patagonia】
http://www.asyura2.com/0311/health7/msg/248.html
投稿者 hou 日時 2003 年 11 月 03 日 18:36:20:HWYlsG4gs5FRk

http://www.patagonia.com/japan/enviro/reports/soul_who_swims.shtml

奥深い山森の静かな川の上流。1匹のサケが緩やかな流れに弱々しくひれを動かしている。意識は朦朧としているようで、擦り傷を負った体にはすでに白いカビが見え始めている。このサケは驚異的とも奇跡的とも言える幸運に恵まれて一生を送ってきた。1匹のサケにできるすべてのことを成し遂げていた。そして今ここで産卵を終え、疲れ切り、満たされて、その一生を終える。サケは砂州につきあたるまで、ゆっくり下流に流された。そして、まさにこの水流で孵化し、稚魚となって泳ぎ出したその時以来、初めて、そして永遠に、泳ぐことを止める。

林立する巨木とその向こうにある眩しい空をじっと見つめる、瞬きを知らないサケの目には、今までの日々が走馬灯のようによみがえることはあるだろうか。いや、恐らく、サケを駆り立てた衝動の記憶もなければ、若かりし頃この川を離れ、大海原、そして深い海底へと旅をした末にここに戻って来たことさえも覚えていないだろう。今となっては川の激流を遡上し、陽光に輝く滝を跳び越えてきたことも、産卵のための力強いパートナーを選んだことも思い出せないだろう。産卵という未来に対する自分の役割を果たしたことすら知っているだろうか。天災や天敵、病気や事故、網や釣り鉤、あるいは人工建造物により命を失った無数の仲間の中で、ここに横たわる自分はこうした苦難を1日ずつ切り抜け、生き延びた1匹であるということをかすかにも意識しているだろうか。

このサケの一生ではすべてが好転した。しかし北米大陸の太平洋北西岸に棲息するサケのほとんどは、まったく逆の境遇をたどっている。

かつてサケは、単なる「世界で最も複雑な生態の魚」であった。淡水魚として産まれ、やがて海に下り海水魚となり、そして再び淡水の川に戻るという、繁殖のために自らの一生を尽くすこの魚は、自滅により不滅を生み出すからだ。それぞれの成長段階で極端な肉体的変化を要し、その高度なナビゲーション能力はほとんどの移動性生物にもはるかに優る。かつて北米先住民はこの謎に畏敬の念を抱き、現代になってから発見されたその真相もまた、科学者や動物学者、釣人らを同様に畏怖させる。

北米大陸分水嶺から沖合までを比較的短い一生のうちに往復する、慎ましくも武勇な生涯を送るということで、サケは他に例を見ない特別な生物である。近年サケの一生の物語には、森林伐採、農業、水力発電、ダム、政治、農薬、海外市場、私有地権、公有地論争、娯楽、商用および生活用漁業、人工養殖といったさまざまな筋立てが加わり、ますます複雑になっている。このように複雑に絡み合った苦しいジレンマは、人間が自己の精神の明暗に直面するという努力なしでは対処できず、それはサケが澄んだ涌き水から底なしの深い海までを移動することなしでは、自分の一生に直面できないのと同じなのだ。

サケは高地と大洋、深淵と頂上を銀の糸のごとく往復し、人間が大地や水に及ぼしているあらゆる障害を乗り越えながら、大陸、急流、潮とをしっかりと縫い合わせていく。

アメリカ合衆国の大北西部とカナダ太平洋岸での海洋魚の絶滅は著しく、これほど急速に海水魚の種が姿を消している場所は世界にも例がない。パシフィックサーモンはワシントン州、オレゴン州、アイダホ州、カリフォルニア州の繁殖範囲の約40パーセントから姿を消した。また、この地域では100年前に比べ生息範囲の3分の2でサケが絶滅またはその危機に瀕している。

私はこれが例外的な状況ではなく、世界規模での絶滅の前兆であることを怖れている。ニューイングランド紙の見出しや北海からのニュース、国際会議の報告書、熱帯沿岸での噂など、どれもが似たような情報を伝えている。私たちはただ海を使っているのでなく、使い果たそうとしているのだ。人間は地球のあちこちで人口を増やしながら、他種の生存期間を略奪している。そしてやがては自らをも滅ぼすことになるだろう。絶滅というのは死の異例な形態である。なぜなら死はたいてい生命の輪にブレーキをかけるだけだが、絶滅は特異な結末、種族の終焉をもたらし、未来を阻むことになる。「生を終えることと誕生しないこととは、全く別のものである」と、詩人ゲーリー・スナイダーが言ったように。

太平洋北西岸は私たちに多様な研究材料を提供する、世界へ開かれた窓のようなものだ。自然との関わりにのみ留まらず、毒物によるサケの絶滅を試みる者から魚を崇拝する者まで、あまりにも広範囲な人間の見識と政策、つまり人間の性質そのものについても考えさせる。その一方で、希望が募る。太平洋北西岸での教訓は、そしてその教訓を本当に学んだとすれば、世界での絶滅危機の回避にも生かせるだろう。まだ時間はあるのだ。

例えばインドのトラ、アフリカのライオンとゾウ、オーストラリアのカンガルーなどのように、それぞれの地域の魂を象徴する野生動物は数少ない。北米大陸ではグレート・プレインズのバッファローと太平洋北西岸のサケが経済、文化そして先住民の主体性を支えてきた。白人の開拓者たちは、私欲と先住民の大量虐殺を目的にバッファローを滅ぼしたものの、サケに関しては手放しで生活に取り入れた。移住者も先住民と同様に、深遠で力強く、感動的な価値のある何かをサケに見出したのだ。魚に対する畏敬の念は、先住民が千年にもわたって抱いてきたほど強くはなかったため、当然結果についても先住民のような成功は得られなかったわけだが。

北西部のことを考えると真っ先にサケのことが頭に浮かぶ。サケが人間の中の悪魔を象徴するにしろ、救済者を象徴するにしろ、この時に浮かび上がるその存在は大きい。この地域を象徴する動物は他にもいるが、中でもサケは特別である。サケの象徴的なパワーと、人間の文化に重大な経済的、かつ栄養学的利益を与える能力は、21世紀まで共に生き存えてきた。この事実こそ、サケとサケを必要とする人間の葛藤に対する、最大の希望ではないだろうか。

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