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【AERA発マネー】
外為証拠金取引は安全か 円高時代の落とし穴(
「ハイパーインフレで円は下がるだろうと思った」、のだそうで)
2003年12月22日号
虎の子の退職金やこつこつと貯めたお金。少しでも有利に運用したいと思うのが人情だが、甘い話には裏がある。外為取引と外貨預金は別物だ。
◇ ◇
警備員5人と屈強な社員が入り口で目を光らせ、関係者以外を阻む。「金返せ」「詐欺師」などの怒号が中から漏れてくる。
外国為替の証拠金取引の仲介業者、フォレックスジャパン(FJ社)が11月、東京で開いた説明会には、約200人の「被害者」が集まった。神妙な面もちの許田明炎社長に代わって、弁護士が経緯を説明した。
「預かったお金のうち、3割しか残ってません」
会場にいたAさん(65)夫妻は、めまいがしそうだった。
「退職金という、まとまったお金が入ったが、超低金利では運用できない。ハイパーインフレで円は長期的に下がるだろうと思い、外貨預金に預けるようなつもりで、800万円も投資したのに……」
赤ちゃんを連れて来たBさん(35)も表情がこわばっている。
「子育てで働けないから、貯めた400万円を預け、少しでも有利な資産運用をしようと思った」
●為替取引自由化で急増
こうした「為替証拠金取引」をめぐるトラブルが急増中だ。全国の相談窓口には前年の2倍のペースの約500件もの相談が殺到し、10月には弁護士会が全国規模で相談110番を実施した。
「為替証拠金取引」とは聞き慣れないが、少ない元手(証拠金)を預けると、その10倍から200倍もの多額のドルやユーロの売り買いができる仕組みだ。為替における「株の信用取引」のようなもの、と思えばよい。
日本版ビッグバンによる外為法改正で、それまで外為公認銀行や指定両替商しか扱えなかった為替業務が自由化され、取引が活発になった。証券会社や為替ブローカーからの参入組もあるが、小豆やガソリンを扱う商品先物取引業者の参入も多い。さらに、実態が不透明な独立系業者も多い。
弁護士会などによると、少なくとも115社、多く見ると300社あるという。株同様にインターネット取引のケースもあるが、中心は営業マンや電話による勧誘だ。いまの預かり証拠金残高は業界全体で約1000億円と見られるが、数年後には1兆円を超える、と急拡大が見込まれる。
FJ社も、そうした追い風を受けて2000年に沖縄で設立された業者のひとつだ。
同社は、台湾、香港、マカオにあるユニライン・インターナショナル・インベストメント・コンサルタントに運用を委託。同社が「ユニ社の投資顧問」とするスティーブン・チェン氏が開発したコンピューターソフトで、「為替変動の先を読む」とうたい、約5000人から200億円を集めた。
●専門家もだまされる
ところが11月、FJ社は突如、ユニ社が相場変動で巨額損失を計上し、事実上倒産した、と発表。預かり金の残高は3分の1の約7300万ドル(約78億円)しか残っていない、と明らかにした。FJ社も年内に法的整理に入る方向で、冒頭の東京など全国8カ所で説明会を開いた。
FJ社は、チェン氏やユニ社に疑いのまなざしを向け、あくまでも「被害者」という立場だ。FJ社の支店内に「被害者の会」の仮事務局を設け、投資家に加入を呼びかけている。
だが、チェン氏の代理人は、
「FJ社はウソをついている。チェン氏は、そもそもユニ社の投資顧問をしていない」
と反論。顧客の資金がどれだけあるのか、銀行の残高証明書が公表されておらず、
「本当に3割しか残っていないのか確認できない」
とも言う。実は、チェン氏は10月、一部の顧客に56ページもの「内部告発書」を送り、その中で許田社長らが「数々の法律違反や契約違反をしてきた」と暴露。これによって、顧客に動揺が広がったことが「破綻劇」の背景にあるのではないか――。そう疑う顧客もいる。
「自分がだまされるとは……」
大手金融機関を辞め、ファイナンシャルプランナーとして独立したばかりのCさんは呆然とする。自ら100万円投じただけでなく、自身の顧客10人も誘い、計3000万円を投じさせたからだ。
金融のプロであるCさんがFJ社を信じたのは、金融機関時代の元同僚の紹介があったからだ。知名度がないFJ社が一気に顧客を広げたのは、こうした「口コミ」が背景にある。被害者は「友人から熱心に勧められた」「沖縄の親類がわざわざ上京して勧誘した」と口々に言う。
これには裏がある。FJ社は客を紹介するほど、自身にも成功報酬が落ちる「普及員」という仕組みを採用していたのだ。「模合(もあい)」と呼ばれる頼母子講(たのもしこう)がさかんな沖縄で特に被害が広がったのも、そうした事情がありそうだ。勧誘した人は「加害者」と「被害者」の両面を持つようになる。
●損害賠償請求訴訟も
外国為替証拠金取引では今年に入って訴訟が続発。札幌地裁は5月、札幌市の男性が2970万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、
「外為取引とは異質で、外為相場をめぐる賭博行為にすぎない」
として、業者のコスモフューチャーズ(本社・福岡市)に請求通りの支払いを命じた。コスモ社もFJ社同様、「オーストラリアのサマセット&モーガン認可商業銀行」に取引を委託したと主張したが、判決は「豪州の銀行法における銀行ではない」と、説明に虚偽があると断じた。
埼玉県に住む男性(72)も近く、別の業者を相手取って損害賠償請求訴訟を起こす。この男性の代理人である池本誠司弁護士は、かつて豊田商事被害者弁護団の一員で、先物取引などの被害者の弁護に長く携わる。池本氏は、
「いざ解約を求めても、『もう少し待てば儲かる』『損したので、証拠金をもっと追加してください』と言って解約させず、より多額の金銭を出させようとする。そもそも業者側は、本当は為替取引をしていない可能性が高い」
と指摘する。
警察も動き出し、福岡県警は10月末、東京の業者ファーストクラブの会長宅や元社員宅を詐欺の疑いで捜索した。同社の場合、「金のペーパー商法」で全国的に被害者を出した豊田商事の関係者がいると見られている。
東京都消費生活総合センターによると、為替証拠金取引の相談件数のうち44%が60歳以上の高齢者、次いで40歳代の中年層の割合が高かった。被害額の平均は699万円で、中には、82歳の男性が5810万円を取られかけたケースもあった。
●悪質業者に共通の手口
国内の超低金利に嫌気がさし、ドルを持つ人が増えている。そこをついて、あたかも外貨預金のように装って勧誘する。同総合センターに寄せられた悪質業者の手口はほぼ共通している。たとえば、
「銀行の外貨預金のようなものです。海外の金融機関と組んで、インターバンク市場で外貨を調達しています」
と近づき、ロスカットルール、ロールオーバー、スワップなど専門用語を駆使して売り込む。
ところが、お金を返してもらおうと、業者の事務所を訪れたら、「もぬけのカラ」だったという詐欺まがいのケースもある。
相談員の丹野美絵子さんは、
「業者を取り締まる法律がないことが問題です。自由化ばかりではなく、規制も強めるべきです」
と指摘する。
日本弁護士連合会や市民団体の金融オンブズネットは、金融庁に規制強化を申し入れている。しかし、金融行政は金融庁が所管するものの、先物取引は農水省、経産省が所管し、為替証拠金取引業者全体を包括する所管官庁はない。金融庁企画課の担当者は、
「金融庁が監督権限のある証券会社には指導していくつもりだが、先物取引系業者は、農水、経産両省が適切な指導をすべきではないか。すべての業者にウチがかかわるべきかは疑問だ」
と及び腰だ。官庁の縦割り行政が被害を蔓延させる遠因にある。
マネー誌や経済紙に証拠金取引業者の宣伝が頻繁に掲載される。大阪弁護士会で消費者保護に取り組む大槻哲也弁護士は、
「外貨預金と勘違いする人が多いので、被害は拡大しそう。全面的に禁止するか、あるいは警察が悪質業者を徹底的に取り締まるしかないだろう」
と話している。
(編集部 大鹿靖明)
(12/24)