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「ターゲットを三割引き上げるぞ」。十月、米中小企業庁(SBA)のバレット長官が現場に極秘指令をだした。対象は民間の中小企業向け融資につける信用保証。七万五千件としていた二〇〇四年度(来年九月までの一年間)目標を十万件へ一気に拡大したのだ。
新しい目標は前年度実績に比べて五割増となる野心的な水準。だが現場に戸惑いはない。「今の勢いなら達成できる」と融資担当幹部のハマースリー氏(50)。自信を裏付けているのは民間の積極的な融資姿勢だ。
日本の信用保証協会と異なり、米国では官が融資全額を保証することはない。銀行も焦げ付きリスクを一部とっている。それでも保証が伸びるのは、銀行側が「官の助けを借りれば信用度の低い融資先にも手が出しやすくなる」(幹部)と受け止めているからだ。
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「SBA取引でトップになる」。大手銀バンク・オブ・アメリカが行員にこんな発破をかけたのは二年前。全米を席けんする営業で首位を最初の年に獲得。二年目には他をさらに引き離した。
中小取引にまい進するのは分厚い関連ビジネスが見込めるためだ。中小企業部門の昨年の利益は全体の一割に相当する約十億ドル。「半分は中小経営者の個人資産に関連した業務で稼いだ」と同部門のデュラゴ社長は打ち明ける。「融資拡大のみに焦点を当てがちな日本の金融機関とは収益機会のとらえ方が違う」。邦銀関係者はこう驚く。
中小取引を「打ち出の小づち」と見る大手銀は収益拡大に向けた効率化策に余念がない。例えば融資の審査。「自動審査システムの高度化を進め、リスクと収益最大化の均衡点を絶え間なく探っている」とシステム・コンサルタントのバーネジアック氏(40)は話す。多くの取引が見込める顧客には専任担当を張り付け、コスト割れの相手には電話で対応するドライな線引きも始まった。
「いつでも相談してください」。九月、ニューヨーク市を地盤とする中堅銀インディペンデンスのフィッシュマン会長が最大手シティグループの長年の顧客を一本釣りした。中堅企業社長の心を動かしたのは「銀行家との距離感だった」(マーシャル上級副社長)。
中小取引では銀行の規模が強みにもなれば、弱みにもなる。高度な金融サービスで分があるのはやはり大手。だが「緊急時に権限のある幹部に接触できる安心感は中小でないと得られない」(金融コンサルタントのローゼン氏)。官僚組織的な大手銀に比べ、顧客ニーズにも迅速に対応できる。「身近さ」と「臨機応変」を武器に、大手に対する中堅銀の巻き返しも激しくなっている。
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「計画の練り直しが必要です」。米国には中小経営者らが教えを請いにやって来る無償のよろず相談所がある。スコアと呼ばれる団体で、助言者は一万千人に上る大企業の幹部経験者らだ。
スコア・ニューヨークのロズリン支部長は「中小企業が行き詰まるのは経営方法が悪いため。資金繰りは二の次だ」と言う。SBAは融資を頼む前にまずスコアを訪ねることを推奨。資金供給に加え、経営指導を通して破たん回避を支援するインフラも手厚い。
SBAによると、米国の民間部門の国内総生産(GDP、農業を除く)の半分以上を従業員五百人以下の中小企業が生み出している。ここに収益機会を見いだす銀行と、それを側面支援する政府。官民の歯車がうまくかみ合い、マネーがフル回転で中小企業へ流れ込んでいる米国で貸し渋り批判は聞こえてこない。
(ニューヨーク=豊福浩)