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毎日新聞
http://www.mainichi.co.jp/eye/feature/shihou/0613-3.html
「裁判員」が被告を裁く
政府の司法制度改革審議会が１２日に出した最終意見は、法曹（弁護士、裁判官、検察官）に対し「国民の社会生活上の医師」としての役割を求める一方で、刑事裁判への関与など国民の主体的な役割にも期待を寄せる。政府は今後、審議会の意見を尊重しながら、法改正など具体的な作業に着手するが、審議会の意見通りに改革が実現した場合、司法の現場はどう変わるのか。「２１世紀の司法」の青写真を紹介する。
★大転換する裁判制度−−死刑言い渡す場合も
《刑事裁判》
選挙人名簿から無作為に選ばれた「裁判員」が、裁判官と一緒に法廷で被告を裁く制度が導入され、刑事裁判は大きく様変わりする。対象は、殺人など法定刑の重い重大事件だ。
選ばれた裁判員は、健康上の理由などやむを得ない事情がなければ、出廷する義務を負う。裁判員には日当や交通費が支払われるが、会社員ならば職場の理解が不可欠で、小さい子供のいる主婦ならば子供を知人に預けるなどのわずらわしさも生じる。連日開廷などで審理の迅速化が図られるが、裁判官と同じ「守秘義務」を負い、審理期間中は緊張した日々が続きそうだ。
また、被告が暴力団関係者などのケースも予想され、被告によっては裁判員に心理的負担が生じる可能性もある。審議会は「裁判員の安全保持などのためにとるべき措置について検討すべきだ」とし、組織的犯罪やテロ事件など特殊な事件を対象事件から外すことも想定している。
審理が始まれば、裁判員は原則的に裁判官と同じ権限を持ち、証人への質問などもできる。有罪か無罪かを決めるだけでなく、懲役や禁固など刑の量刑も合議や評決で決める。重大事件が対象のため、場合によっては、死刑判決を言い渡すこともある。
一方、被告は、裁判員が加わる裁判を拒否することはできない。事実誤認や量刑不当で控訴することは可能だ。
審議会で激論が戦わされ、課題として残ったのが裁判官と裁判員の人数比だ。ドイツの場合、３対２で裁判官が主導権を握る。フランスは３対９で市民側が圧倒的に多い。後者に近い場合は陪審制に限りなく近くなるが、審議会は「裁判官か裁判員のいずれか一方だけの多数で、被告に不利な決定はできないようにすべきだ」と注文を付けた。「同数か、裁判員が若干多い人数で落ち着くのではないか」（法曹関係者）との声が出ているが、結論は今後にゆだねられた。
対象事件についても、「法定刑の重い重大犯罪」という抽象的な表現にとどまっている。どの程度の事件を誰が「重大犯罪」と認定するのかなど課題は多い。
国民への周知期間も必要だ。昭和初期に陪審制度が実施された時は法律の制定から施行まで約６年かかっている。テンポの速い現代でも、相当期間が必要になりそうだ。
《民事裁判》
民事訴訟改革は、長すぎると言われる訴訟の審理期間の半減と、専門的な知識などが必要な分野で専門家が積極的に裁判官を手助けする制度を目指した。
訴訟の迅速化に関しては、当事者同士が審理計画を事前に協議することを義務付ける。
また、知的財産権が争われる事件や、医療、建築、金融関係などの訴訟で、専門家（専門委員）が、問題点の調査や意見陳述をする制度が導入される予定だ。労働事件についても、雇用や労使関係の専門家が加わる労働調停の導入が提言されている。
弁護士報酬の敗訴者負担制度については一律導入は見送られた。この制度では市民が行政訴訟などで敗訴した場合の負担が大きくなるとして、弁護士会や市民団体などから反対の声が出ていた。敗訴者負担を導入しない範囲は今後の課題として先送りされ、改めて立法段階で議論される。
（毎日新聞２００１年６月１３日東京朝刊から）
題名には必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。