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製造業の海外移転 ビル・トッテン
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投稿者 エンセン 日時 2003 年 11 月 22 日 05:22:06:ieVyGVASbNhvI

 
製造業の海外移転
H15/11/20

 私はコンピュータのソフトウェアを販売サポートする会社を経営しているが、製造会社が人件費の安い海外に工場を移転するように、ソフトウェア業界でも開発を海外で行うことで人件費を削減しようという動きが出ている。
人件費は5分の1
 アメリカでは十年以上も前から始まっていて、当初は単純なルーチン作業が主流であったが最近は料金請求業務やコールセンターといったサービス業務まで海外へ委託するようになっている。最近米マイクロソフト社も顧客サポートセンターをインドに移転する計画を発表したが、これでまたアメリカ国内の多くの雇用が失われる。

 多国籍企業が海外へ業務を委託するのは、経済のグローバル化にともない価格競争に打ち勝つために仕方のないことだといわれている。例えばインドのIT技術者ならアメリカやイギリスの五分の一かそれ以下の人件費で雇うことができる。アメリカのある大手金融会社は過去三年間に国内のコールセンターのスタッフ一万四千二百人を解雇し、その業務をインドに移した。これによってアメリカ人オペレーター一人に年間約三万ドル支払っていたものが、四千ドルから七千ドル程度ですむうえ、失業保険も健康保険も不要だという。アメリカの調査会社フォレスター・リサーチ社は二〇一五年までに、約三百三十万人の職がアメリカから海外に流出すると予測している。

 一握りの資本家を除けばほとんどの人々は働かなければ生きていくことはできない。雇用の海外流出に、労働者が抵抗をするのは当然である。また企業ごとに見れば海外に業務委託をすることで短期的な利益は上がるかもしれないが、国全体で見ると長期的に大きな損害となる。だが個人や労働者団体の抵抗など、海外へ業務委託を行う大企業の前にはなすすべもない。多国籍企業の経営者にとっては海外への製造拠点の移転や業務委託は経済的にみて正当な選択なのだ。
皮肉な雇用の流出
 イギリスもアメリカと同じで、銀行、通信、航空会社などさまざまな業界がすでにインドにコールセンターを移転し始めている。イギリスからインドに雇用が流出している事実は歴史的にみて実に皮肉なことである。イギリスはインドを植民地統治し、東インド会社は広大な会社領をインドに領有した。イギリスは国内の繊維産業を保護するために質の良いインドの綿布をイギリスに輸出することを禁じ、十九世紀になるとイギリス製の安価な機械織りの綿布がインドに輸出されインドの伝統的な手織りの綿布産業は破壊的な打撃を受けた。インドはイギリスの工業製品の販売市場および原料供給地に転落し、綿花や茶などの輸出作物の栽培を強制された。イギリスは英語教育を始めとする徹底的な植民地政策をインドに行ったのである。

 そのアイデンティティーを否定し、イギリスの言語や文化を強制したこの初代多国籍企業の政策によって、いまインドにイギリスから雇用が戻っている。この点、同じ植民地統治を行ったドイツやオランダ、日本はイギリス程の雇用の流出を心配しなくても良いかもしれない。なぜならイギリスほど徹底した植民地政策をとらなかったために、英語ほど世界にその言語は普及してはいないからである。
国内企業は空洞化
 インドへの雇用流出がイギリス人労働者にもたらす影響は破壊的である。すでに過去二十年間にイギリスの製造業の多くは海外へ拠点を移転し、国内の製造業は空洞化している。その失われた雇用を補うといわれたのがコールセンターなどのサービス業だった。インド人の教育水準は高く教育のある人はほとんど全員が英語を話す。イギリスよりも安いとはいっても多国籍企業がインド人に提供する給与は他の国内企業よりはかなり高い。そのためインドのある技術サポート会社が八百人の採用広告を出したところ八万七千人の応募があったという。

 先進国の雇用がより貧しい国へ流出するというのは目新しいことではないが、新しいことは、貧しい国の労働者が単純作業だけではなく先進国の高度熟練労働者の雇用までも脅かし始めたということだ。二〇一五年までにアメリカの三百三十万人の雇用が海外に流出すると予測したフォレスター・リサーチ社は、その半分は単純作業だが、残りの半分は会計士、ITコンサルタント、建築家、デザイナー、企業弁護士等の専門職だという。

 自由貿易やグローバル化によって英語圏の専門職の人々は、他の国の専門職と雇用を争う時代になったのだ。これまで先進国でグローバル化や自由貿易を推進してきたこれらの人々は、この状況を理解しているのだろうか。それとも他の人々が犠牲になっている間はグローバル化を推し進め、自分が犠牲になって初めて、これまで自分たちが受益者であったのは他の国の誰かを不利な立場におくことによってなされてきたということに気づくのかもしれない。(アシスト代表取締役)

http://www.nnn.co.jp/essay/tisin/tisin0311.html#20

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