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「問題富豪?富豪問題?」大陸の風−現地メディアに見る中国社会 JMM [Japan Mail Media]
http://www.asyura2.com/0311/hasan31/msg/610.html
投稿者 エンセン 日時 2003 年 11 月 14 日 05:48:37:ieVyGVASbNhvI

 
2003年11月13日発行
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JMM [Japan Mail Media]                No.244 Thursday Edition
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                        http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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■ 『大陸の風−現地メディアに見る中国社会』 第6回
   「問題富豪? 富豪問題?」

  □ ふるまいよしこ :香港在住・フリーランスライター

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 ■ 『大陸の風−現地メディアに見る中国社会』            第6回
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「問題富豪? 富豪問題?」

文化関連の仕事をしている友人と久しぶりに会って話をした。彼はプロデューサーと
して現在、新しい企画の準備に忙しい最中で、今回はその企画をこれまで手がけた仕
事よりももっと大きく展開するために、国の正式な認可を取ろうと東奔西走している
ところだった。

中国でトウ小平が「改革開放」政策を唱え、それまでの鎖国状態を転換してから、す
でに20年余りが過ぎている。「改革開放」が始まったばかりの80年代には、一挙
に海外のあらゆる物がなだれ込み、人々に興奮と、刺激と、そして混乱をもたらした。
人に言わせると「あの頃は政府も庶民も、上も下も改革開放に夢中になっていた」の
だそうで、海外からは物品ばかりではなく、文化面でも書物や理論、映画、音楽、美
術、ファッションに至るまで翻訳やコピーを介して社会を湧かせていた。そして、人
々の期待と欲望と意欲と興奮が沸騰を続け、膨張した結果起こったのが1989年の
天安門事件だった、と80年代に青春時代を過ごした人たちはよく言う。

その影響もあるのだろう。今でも、中国では表現などに関わる文化表現では、映画で
あろうと、小説であろうと、音楽であろうと、出版であろうと、演劇であろうと、展
覧会であろうと、もちろんイベントでも国の認可を取らなければならないことになっ
ている。メディアの記者も、きちんと国の決めた講習会に参加して記者証を手に入れ
なければならない。新聞雑誌の発刊も必ず国の認可番号を取らなければならない。ラ
ジオ、テレビはもちろんのことである。

国の認可がなければアンダーグラウンドとして存在するしかない。以前と違う点と言
えば、国がそういったアンダーグラウンドの存在にずっと寛容になったことだ。その
友人のこれまでの企画もこれまでずっとアンダーグラウンドでほんの一部の人たちに
楽しんでもらうことしか出来なかった。それを今回の企画では社会全体に向けた表現
を目指して、中国の国営企業と協力関係を結ぼうとしているというのだ。

「まさか、こんなに大変だとは思わなかったよ」彼の能力を買っている国営企業の担
当者たちは、認可を取ろうと一生懸命である。国の認可を取る前に、まずはその認可
を申請する資格を持つその企業との事業提携を取りつけなければならない。担当者た
ちはまず彼を自分たちの上司との会議に出席させる。

「なにも言わなくていい。ただ、じっとタバコばかりふかしてろ」カギを握る、お偉
いさんの並ぶ会議で、彼は彼の協力者たちに神秘的な企画者を演ずるよう指示された。
それだけではなく、お偉いさんたち、そしてその周辺の人たちとの関係構築のため、
あちらこちらに引っ張り出されては食事や接待三昧。さらに、その企画を通すにはお
偉いさんのうちの数人がネックだと判断した担当者たちは、その数人に決定会議の当
日に「欠席していただ」けるよう、スケジュールを練って観光旅行へご接待する。も
ちろん、その数人にご満足いただけるよう、旅行中の各種ご接待の費用は企画の予算
から差し引かれる。

「まだなんにも始まってないのにさ、お金はどんどん出ていくんだよね」。数日前に、
「制作費」と書かれた領収書に言われるがまま署名させられた彼はそれでも企画への
認可を求め、そして国営企業の担当者たちはその企画がもたらすお金と評判を求めて、
努力を続けているところなのだそうだ。

文化関連ばかりではなく、国の認可を左右する母体となる企業は中国のどこの業界に
も存在し、企業といえどその特権によってお役所と同じような権威性を持つ。そこで
決定権を持つ人たちは官僚そっくりだ。しかし、官僚たちは権威に弱い。友人が彼ら
との会議の席で押し黙ってタバコをふかすよう指示されたのは、そんな官僚たちに無
言の圧力を感じさせるためだった。

まるで狐の馬鹿し合いのような、現場担当者とお偉いさんへのあの手この手の「認可
手続き」には笑わせてもらったが、違和感は感じない。さもありなんだ。なにせここ
は、仲秋の名月の贈答シーズンには月見団子ならぬ月餅に腕時計や金のライターなど
がセットされたギフトセットが堂々と売られているお土地がらだ。

そして、たかが一つの文化企画の認可を得るためにきりきり舞いするほどの精力と演
出とお金が要るのだから、ここでもっと大きな事業を成功させていくためには、その
数倍もの苦労と知恵が必要となるだろう。

今、わたしの手元に『2003中国大陸百富榜』、今年度中国富豪トップ100のリ
ストのコピーがある。これは留学生上がりのイギリス人会計師、ルパート・フッジワー
フが始めたもので、彼は米経済誌『フォーブス』に1999年から4年間、独自調査
の中国富豪リストを提供し、中国社会の注目を集めた。そして今年に入って、中国進
出をにらみ、中国側とのトラブルを回避したがっていると噂される同誌が彼との契約
を解消すると、フッジワーフは『ユーロマネー・インスティチューショナル・インベ
スター』誌と契約、富豪リストは同誌が10月に発行した増刊号に掲載された(その
後、『フォーブス』誌は独自調査による『中国富豪リスト』を発表したが、中国国内
ではフッジワーフのリストの方が相変わらず注目を集めている)。

先にも書いたように改革開放から20年、特に天安門事件以降の10年余り、その
「開放」の重点は経済に置かれ続けてきた。都市の発展はめまぐるしく、世界でも有
数の証券市場である香港株式市場への中国企業の進出もめざましい。そんな中国にお
いて富を築きつつある富豪たちはいったいどんな顔をした人たちなのか。フッジワー
フの興味はそこから始まった。

そして、その調査リストが発表されるや、今度は中国の人々が「我らが富豪」の評価
にとりかかった。そして、「青い目の青年フッジワーフが作ったゲームのような中国
富豪トップリストは、中国数千年来の富に対する観念を混乱させた。一人一人の富豪
を前にして、中国人は羨ましがりながらも腹をたて、中国人は富める者に対する一種
の『他人の災いを喜ぶ』心理をもつようになり、これを前提として、富める者の財産
の質に限りない疑問をはさみ、同時に富める者を『富のためなら仁をも省みない』人
物として見なすようにな」(南風窓・11月2日)ったという。

もちろん、リストに載った富豪たちにとっても痛し痒しだ。成功した企業家として社
会に名を馳せることが出来る一方で、「このリストは『お尋ね者リスト』とも呼ばれ、
リストに挙げられた中国富豪たちはたびたび税務当局の訪問を受け、さらに上部ラン
クにリストアップされた富豪たちは法律のトラブルにみまわれている」(南風窓・1
1月1日)。実際に、楊斌(2001年第2位)、仰融(2001年第3位)、周正
毅(2001年94位、2002年11位)、蒋泉龍(2001年39位)とかつて
リストに名を連ねた富豪が次々と資産詐称、違法融資などの罪で逮捕され、李海倉
(2002年27位)、喬金嶺(2001年72位、2002年58位)らが資産運
用に絡んで殺害されたり、自殺しているのである。

しかし、リスト自体は確かに注目に値する。リスト末端の最下位資産額だけを比べて
みても、2001年には5億人民元(約6000万米ドル)だったのが、2002年
には7億元(約8400万米ドル)、今年は9億元(約1億米ドル)とハードルが上
昇しているのが分かる。さらにその年齢層も50歳未満が70%を占めており、年々
その割合を高めており、今年度の平均年齢はなんと44.5歳の若さである。中国の
経済成長の証しが確かにここにある。トップの資産額の変化に至っては……目がくら
みそうなので、興味のある方はフッジワーフのウェブサイトwww.hurun.netへどうぞ。

お金を使ってリストに載せないでくれと頼む富豪もいるという噂をフッジワーフは否
定し、これらの富豪を中国富豪第一世代と位置付け、「この世代に共通するのは実務
的であるということ。彼らはどうやったら自分がやろうとしていることを実現出来る
かをずっと考えている。彼らにとって失敗するということは衣食住にも関わる問題で
あるため、彼らの用いる手段はそれほど道徳的ではないと我々の目には映るが、それ
は理解できることだ」(南風窓11月1日)と論評する。ついでに付け加えるなら、
彼はさらに「彼らは第二次世界大戦後財を成した日本やドイツの富豪に比すことがで
きる。ただその時間は中国よりも30年早かったが」とも言っている。さすが、イギ
リス人、の一言だ。

確かに、私営企業家の「原罪」を取り沙汰して、その功罪を問うのはここ中国におい
て現実的ではないのかもしれない。日の当たる場所でなにかを行うためにも、先の友
人のようにあれやこれやの手段が必要な国なのだ。「改革開放」「市場経済化」と言
われても、今だに権限を握る官僚がいる。洋酒とセットになった月餅が売られている。

実際に、これらの「問題富豪」事件をきっかけに多くの学者が市場経済を取り巻く現
状に疑問を呈している。「国有資産と資源(特に金融資源)はすべて行政官僚の手中
にあり、利益の誘惑のもと、事業主は贈賄というリスクを冒さないわけにはいかず、
また行政官僚も収賄を拒むのは難しい」「富豪たちが次々と事件を起こすのは、社会
に現行する『裏ルール』が社会構成メンバーそれぞれにリスクをもたらしていること
を証明している……ルールがあいまいであり、明朗でなければ、誰しもが被害者にな
り得、一人一人にとって日々の生活は博打のようなものとなる」(外灘画報・6月1
2日)と、経済学者の陳志武は警告する。

さらに富豪の多くが陥る資金融資問題のトラブルにしても、香港中国銀行のリスクマ
ネジメントマネジャーを務めた巴曙松・現中国証券業協会発展戦略委員会主任も、旧
経済体制における赤字国有企業融資の焦げつきを引きずったままの国有銀行側の問題
を指摘する。「銀行業界のリスク鑑別能力の低下は、ある著名人にある銀行が高額の
貸付を行うと、ほかの銀行もその人物に貸し付けようと競争が繰り広げられるという
事態の原因にもなっており、企業の返済能力はほとんど注目されていない」(中国経
済時報・7月10日)現実を批判している。

11月初めには、河北省の「農民企業家」孫大午が執行猶予の判決を受けて釈放され
た。孫はかつて全国優良私営企業トップ500社のリストにも載った大午農牧グルー
プの創設者であり、事業拡大の際に贈賄を拒否して正規金融機関の融資を受けられず、
グループ職員を中心に「預貯金」を募って資金に当てようとしたところ、「違法資金
調達」の容疑で逮捕された。貧しい農村に経済の風を吹き込もうとニワトリ1000
羽、ブタ50頭の養殖から身を起こし、肥料など農村の特徴を活かした製品造りを追
求し、学校を建てて農民の子供たちに教育を受けさせようとまでした人物であった。

彼が逮捕されるや、多くの学者たちが優良企業ですら融資を受けることができない制
度の欠陥を指摘した。金融法に対する知識を持たなかった孫自身の「違法性」は認め
ながらも、多くの記事は今だに貧しい農村の経済起こしに孤軍奮闘してきた孫に同情
的であった。これは逮捕された犯罪者に対するものとしては、中国ではかなり珍しい
傾向だ。孫の妻は逮捕を恐れて姿を消したまま、今も音信不通だという。

『次は誰?』。フッジワーフのリストが発表された数日後、ある新聞に出ていた記事
の見出しである。本当に、このまま行くと次は誰なんだろうか?

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ふるまいよしこ
フリーランスライター。北九州大学外国語学部中国学科卒。1987年から香港在住。
近年は香港と北京を往復しつつ、文化、芸術、庶民生活などの角度から浮かび上がる
中国社会の側面をリポートしている。
著書に『香港玉手箱』(石風社)
個人サイト:http://members.goo.ne.jp/home/wanzee
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