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2003年10月27日発行
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JMM [Japan Mail Media] No.242 Monday Edition
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http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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▼INDEX▼
■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第242回】
■ 回答者(掲載順):
□中島精也 :伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト
□真壁昭夫 :エコノミスト
□岡本慎一 :生命保険会社勤務
□菊地正俊 :メリルリンチ日本証券チーフ株式ストラテジスト
□津田栄 :エクゼトラスト投資顧問株式会社 顧問
□山崎元 :UFJ総合研究所 金融本部主任研究員 兼 企業年金研究所取締役
□杉岡秋美 :生命保険会社勤務
■ 『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』
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■ 先週号の『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』
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Q:432への回答ありがとうございました。自民党と民主党の公約を見ると、似
たようなことを謳っていて、表現だけが微妙に違うというものが多々あります。もう
10年以上論議を尽くしてきたことばかりで、やるべきことは決まっているのでしょ
う。つまり選択肢はすでに限定されているということです。子どものための職業紹介
の絵本の締め切りが次々にやってきて、緊張が解けません。
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■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第242回目】
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====質問:村上龍============================================================
Q:433
円高傾向にもかかわらず、日経平均株価の上昇は続いているようです。もしこの先
株価が下落し始めるとしたら、どういう要因が考えられるのでしょうか?
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※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
______________________________________
■ 中島精也 :伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト
現状の株高ですが、第1は企業収益の改善、第2にそれをバックとしたマクロの景
気回復期待、第3に米国の景気回復と株高などが理由と考えています。9月のドバイ
で開かれたG7以降、円高が進行していますが、円高そのものは輸出関連業界を中心
として企業収益にマイナスに働くのですが、110円前後のレベルでマネージされて
いる限りは、企業収益が大きく打撃を受けることも無いでしょうから、なんとか上昇
基調を維持しているものと想像しています。
さて、上記のように企業収益の改善というコアの部分を背景に株価が上昇している
わけですから、この先株価が一時的にテクニカルな要因で下げるのでなく、本格的な
下方への転換に向かうと仮定すれば、それには企業収益にダメージを与える大きな環
境変化が起こることが必要です。もっとも可能性が高いと思われるのは、やはり米大
統領選挙に絡んで為替レートの急劇な変動が起きることでしょう。
米国政府は来年の大統領選挙におけるブッシュ再選を目指し、経済政策を総動員し
ようとしています。ただ、さすがに財政赤字が来年4800億ドル(米議会予算局の
試算)に膨れ上がろうとしていること、米連邦準備理事会(FRB)の政策金利であ
るFF金利が1%にまで下がっていることなど、財政金融政策はほぼ出尽くしの観が
あります。これら刺激策のおかげで経済成長率は加速の兆しを見せていますが、大統
領選挙の票につながる肝心の雇用がはかばかしくありません。
雇用者数は2月から8月まで連続して減り、9月は8ヶ月ぶりに5万7千人の雇用
者数の増加を記録しましたが、景気が良いときは毎月15〜20万人くらい増えるの
が通常ですから、この程度ではとても心もとないというのがブッシュ陣営の偽らざる
気持ちでしょう。成長加速にもかかわらず雇用が思ったほど伸びない理由には、アウ
トソーシング、生産性の上昇など構造要因もあるため一筋縄では行きません。しかし、
ブッシュ政権にとっては悠長なことは言ってられませんし、製造業からの陳情もあり、
ついに為替レートに手をつけ始めたのです。最近の中国人民元への切り上げ要求や日
本の為替介入政策への圧力増大がそれです。
我が国の通貨当局は今年初めから大規模徹底介入で円高を阻止してきましたが、市
場の円買い需要の大きさに加えて、米国からの圧力で介入政策の見直しに追い込まれ
たようです。為替政策はある特定レベルを死守する徹底介入路線から、スピード調整
に心がけるスムージング・オペレーションに変更されたと推測されます。こうなると、
円高トレンドは不変ですから、市場はもっと円高方向で攻めようとするのは間違いあ
りません。
但し、衆議院選挙前に急劇な円高が進行するのは小泉首相が好まないでしょうし、
ブッシュ大統領も衆議院選挙前に盟友小泉首相を円高で追い込むつもりも無いでしょ
うから、当面は仮に円高の動きが急劇になれば、介入で止めにかかるでしょうから、
為替は狭いレンジの域を出ないものと思います。しかし、日本の選挙が終われば、今
度は米国の選挙の論理が前面に出てきますので、いつ急劇な円高が始まらないとも限
りません。一旦動き出したら10円くらいの変動はあっというまですから、年末から
年始にかけて100円割れを目指す展開が見られるやも知れません。
さすがに90円台に突入となれば企業収益には大きな打撃となり、また輸出の先行
きへの不安から企業センチメントも急速に悪化するのは避けられないでしょう。これ
が株価下落のトリガーになるものとされます。恐いのは単に円高が進行するのでなく、
世界最大の債務国である米国がドル安誘導を行おうとしている点です。その結果、ド
ル資産で運用している世界の投資家がいっせいにドル離れに動き出す可能性がありま
す。
こうなると、米株式、米債券、米ドルのトリプル安が生じて、グローバル化の現在、
それは世界の金融資本市場に波及しますので、日本の株価も円高と米株の急落という
ダブルのマイナス要因から大きく下落するのは避けられないでしょう。これでは世界
はまさにグローバルデフレに舞い戻ってしまいます。
米財務省はそこら辺りは気にしているようですが、ホワイトハウスは政策の整合性
より目先の票が欲しいという近視眼的な判断をする傾向が強まっていると懸念する声
も聞かれます。これまでも政治で経済合理性が歪められるケースが多々見られますが、
米大統領選挙を控えて米政府のやみくもの行動が市場に波乱を引き起こすリスクには
十分な注意を払っておかなければいけないと思います。
伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト:中島精也
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■ 真壁昭夫 :エコノミスト
理論的に考えると、株価は、当該株式を保有することで得られる、配当などのキャッ
シュフローの現在価値の合計額ということになります。企業業績が改善すると、それ
に伴って配当は増加する可能性が高くなります。配当が増えるのであれば、キャッシュ
フローの現在価値額は増加し、株価も上昇します。基本的には、株価は企業の業績し
だいということになります。投資家が、企業の収益状況がよくなると考えれば、それ
に伴って株価は上昇し、逆に、企業の業績が悪化すると予想される場合には、株価は
下落することになるでしょう。
この考え方に従えば、今後も、企業業績の改善が続くと予想される場合には、株価
は上昇を続けることになるはずです。ただ、株式は、将来の企業業績の予測によって
価格形成されていますから、実際の結果が予測どおりにならない場合には、予測値と
実現値の差異分だけ、株価が調整されることになります。最近の株式市場を見ている
と、基調はかなり強いように見えます。こうした堅調な株式市場を支えている、主な
要因は二つあると思います。
一つは、景気回復の期待が盛り上がっていることです。米国の情報投資が回復して
いることに加えて、4年に一度のシリコンサイクルのリズムから考えても、情報・通
信などの分野を中心に、経済活動が盛り上がることが期待されます。米国の景気回復
期待に支えられて、日本や中国、台湾、韓国といった、情報機器供給基地である東ア
ジア諸国の景気が、勢いを取り戻しています。今後も、こうした状況が続くとの期待
は強いようです。日本の企業も、情報・通信関連、自動車などを中心にして、企業の
収益性は堅調な推移が見込まれます。
もう一つは、お金が潤沢にあることです。日銀は、現在、超金融緩和政策を続けて
おり、社会全体で必要とする額を大幅に上回る流動性を供給しています。また、世界
的に見ても、流動性が潤沢に供給されています。その流動性の一部が、経済活動の活
発化を期待して、株式市場に流入していると考えられます。市場に流入した資金で、
株価が下支えされた格好になっていますから、投資家としても、株価が大きく下押し
される心配をしないで、株式投資を行っているようです。
短期的な株式需給を見ると、今年年初まで、日本株の保有額を相対的に減らして、
インデックス対比でアンダーウエイトしていた海外投資家が、春先から、日本株投資
を続けています。国内の投資家にとっては、大きなサポート要因といわれています。
ただし、株式需給は、株価にとってごく短期的な要因です。例えば、海外投資家が予
定額の投資を終えてしまえば、それ以上に積極的に購入することは考えにくいと思い
ます。長期的に見れば、株式の需給は株価にとって、ニュートラルな要因と考えるべ
きでしょう。
株価が下落するということは、基本的には、株価の理論値(フェアバリュー)が下
落することです。金利水準の変化を別にすれば、株価のフェアバリューが下落すると
いうことは、企業の収益力が落ち込むことが想定されます。現在、想定されるリスク
ファクターは、大きく分けて三つあると思います。一つ目は米国経済の減速です。現
在の世界経済を牽引しているのは米国です。最近、米国経済に対する依存度が、一段
と高まっているという研究もあります。
米国経済が、原油価格の高騰などの影響で減速するようだと、世界経済の先行きに
も、黄色信号がともることになります。当然、日本経済にもマイナスの影響が出ると
思います。特に、わが国経済の回復を引っ張っているのは輸出ですから、米国経済の
影響はかなり大きいと予想されます。
二つ目は為替です。円高が一段と進むようだと、海外の子会社を含めた連結ベース
の企業業績は下落することが考えられます。最近の株式市場は、企業業績が堅調な展
開を続けることを前提に織り込んでいると考えられます。円高の進展で、企業の収益
が予想したほど伸びないということが明確になれば、株式市場が調整局面に入ること
も想定されます。
そして三つ目は、一つ目、二つ目と違って、中・長期的に見た米国の双子の赤字問
題です。米国の貿易・財政の赤字は、最近、拡大の一途を辿っています。基本的には、
米国は双子の赤字分を、海外からの投資資金の流入=資本収支の黒字で埋め合わせて
います。投資資金が米国に流入しなくなったり、あるいは、既に流入した資金が米国
から逃げ出してしまうと、米国の金融市場に大きな影響が出ます。株式市場や債券市
場が、軟調な展開になることが考えられます。
米国の金融市場が軟調な展開になると、世界の金融市場に影響が及ぶことが想定され
ます。日本の株式市場も、無傷ではいられないと思います。すぐに、こうした状況に
なるとは考えにくいですが、少し長い目で見れば、可能性は否定できないでしょう。
エコノミスト:真壁昭夫
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■ 岡本慎一 :生命保険会社勤務
新聞の証券・経済欄では、「○○ということが起こったから株が上がった(下がっ
た)」と説明されます。確かに、説明が間違っているわけではないのですが、実務に
携わっている身からすると違和感があります。
養老孟司氏は、「ああすれば、こうなる」が現代の支配的な思想であり、それは人
間の意識の作り出した世界でしか通用しないと述べています(『養老孟司の“逆さメ
ガネ”』PHP出版)。よく「市場は生き物だ」とか「市場には魔物が潜む」といわ
れます。養老氏に従えば、生き物や魔物は人間が作り出したものではないので、「あ
あすればこうなる」が成立しない分野なのです。
何が起こるかわからない、ということに我々は大変な恐怖を感じます。株式市場に
大金を投資するには、その恐怖に打ち克つ必要があり、そのための精神安定剤として
理屈と論理の積上げで市場を「解説」してくれるメディアが必要なのだと思います。
しかし市場で勝つためには、「何が起こるかわからない」ということを受け入れる
ことも必要だと思います。株価が上がるときも下がるときも、理由は後からついてく
るという、ある意味で達観した姿勢も必要なのではないでしょうか。
今回の株価上昇に、これといったきっかけがなかったように、次の株価下落も特段
の要因は必要ないと思います。市場参加者が「ああだからこうなる」という期待を描
けなくなったところで、相場上昇は終わるからです。現在の「市場の理屈」を私なり
に解釈すると、(1)世界的な景気回復が続くから企業業績が回復する、(2)デフ
レが終わるから企業業績が回復する、(3)リストラが進むから日本企業は変わる、
(4)不良債権処理が峠を越えて金融システムが復活する、といったものだと思いま
す。
しかし今の株価には、私などが考え付くこうした理屈の多くは織り込まれていると
見るべきでしょう。今買った株で儲けるには、その株を更に高く誰かに売る必要があ
るのであり、そのためには新しい「理屈」を描き続ける必要があります。下落は悪い
ニュースで始まるのでなく、良い理屈を描けなくなったときに始まるのだと思います。
生命保険会社勤務:岡本慎一
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『養老孟司の“逆さメガネ”』 養老孟司・著 PHP新書
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4569630839/jmm05-22
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■ 菊地正俊 :メリルリンチ日本証券チーフ株式ストラテジスト
日本株市場は先週までは懸念材料一つない秋晴れ相場に見えましたが、今週の急落
によって先行き弱気の見方も出てきました。10月23日ザラ場に日経平均は、5月
の上昇相場入り以来一度も割ったことがない13週移動平均(23日時点10312
円)にタッチしました。ここを割り込めば、9月30日の直近安値である10219
円、心理的な抵抗線の10000円、4月28日の安値7607円−10月20日の
高値11161円の上昇幅の3分の1押しの9976円などが下値メドになるでしょ
う。先週までは相場下落の悪材料がない、売り手がいないとして上値メドの計算をし
ていたくらいでしたが、相場の雰囲気は急転しました。
銀行株とネット関連株などの急落は、基本的に上がりすぎの反動と考えますが、ファ
ンダメンタルズ的な懸念も一部に出てきました。株式市場の懸念は景気サイクル、金
融政策、不良債権問題、年金改革と政情などです。
まず、株式市場は既に来年の景気後退を織り込み始めているとの懸念が出始めてい
ます。内閣府の景気日付によると、今回の景気回復は2001年1月に始まっている
ため、戦後の平均景気回復期間の33カ月を単純に当てはめると、景気は2004年
10月にピークを迎えます。株価は景気に対して半年から1年先行するため、1年先
行なら株式市場は既にピークをつけて下落してもおかしくない計算になります。しか
し、我々は日米景気とも少なくとも2004年は景気と企業業績の拡大が続くと考え
ています。世界が不況になるなら、米国大統領選挙が終る2005年以降でしょう。
次に中国の金融引締めに加えて、英国でも金融引締めが議論され始め、世界的な過
剰流動性が終焉するとの懸念が出始めています。しかし、日米の中央銀行の金融緩和
スタンスは長期にわたって続くと考えます。
最近、経営悪化見通しから一部の地銀株が急落したうえ、他の大手銀行も衆院選後
にりそなのような厳しい不良債権引当を求められるとの懸念が一部に出ています。ダ
イエーの福岡事業の産業再生機構による支援も見送られる見通しになってきました。
しかし、我々は大口・小口とも不良債権問題は峠を越したという見方を変える必要は
ないと考えます。
最後に年金改革では、年金資金運用基金を通じた株式運用が長期的に減少するとの
懸念に加え、65歳定年制が企業に義務づけられる(21日の坂口厚労相の発言)、
パートの年金加入義務付けを拡大する(現在は正社員の労働時間の4分の3以上の働
くパートに厚生年金が適用されるが、適用基準を週20時間以上に改正する案が検討
されている)などが議論されていることが、企業の負担増につながるとの懸念が出始
めています。11月末に発表予定の政府の年金改革案を待つ必要はありますが、大き
な企業負担増は避けられると考えています。
一方、政情に関しては、藤井道路公団総裁の解任問題や宮沢・中曽根両元首相の引
退問題で小泉首相のリーダーシップが低下したのは事実でしょうが、衆院選は与党が
多少議席を減らしても、過半数維持は十分可能と考えます。
株式市場は以上の懸念が払拭されるまで、当面調整含みと考えますが、来春にはデ
フレ脱却や不良債権最終処理のより強固な証拠、2004年度も増益基調の確証、国
内株式需給の改善などを背景に再び上昇する局面があると考えます。
メリルリンチ日本証券チーフ株式ストラテジスト:菊地正俊
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■ 津田栄 :エクゼトラスト投資顧問株式会社 顧問
日経平均株価は、円高のなか堅調に推移しています。しかし、10月23日には、
554円安の10,335円と、終値で直近高値11,161円(10月20日)か
ら7.4%の下げを演じています。これは、円高の動きを反映したものではなく、心
理的に急ピッチで上がり続けてきたことに対する不安が強く働いた結果ではないかと
みています。
さて、4月末の7,607円から10,000円台まで上昇し堅調な動きとなって
いるのは、以前にも述べたように、外国人投資家の日本株買いが先導し、国内の個人
投資家も買いに入ったことが大きな要因です。その背景には、米国株式の上昇、外国
人のポートフォリオ上での日本株式のウェイトの低さ、イラク戦争の終結・SARS
の沈静化や、りそな銀行への公的資金注入による金融不安の緩和など心理面の好転、
日銀による市場への大量資金供給、企業業績の好調な予想、経済の好転予想などが挙
げられます。
そのなかでも、株式投資にとって大きな判断要素は、企業業績です。一般に、株価
は、将来予想される配当(利益)を一定の割引率で現在価値に割り戻した値の合計と
されています。そこで、重要な企業業績をみると、昨年度の大幅増益に続き、今年度
も増益と予想され、収益や配当が上昇していることが伺えます。その結果として、株
価が上がっているということは、頷けるはずです。
しかし、そのためには経済ファンダメンタルズの裏づけがなければなりません。外
国人は、日本経済のファンダメンタルズの好転を経済統計の数字から判断して投資し
ているといわれます。確かに、春先の行き過ぎた悲観論を払拭するような、改善した
経済統計が発表されてきました。また、日本経済にとって重要な米国経済でも、底堅
い個人消費や設備投資などファンダメンタルズとしては好転し、今後も経済は回復し
ていくという見方が有力です。
ところで、気をつけなければならないのは、個別株と全体の指標である日経平均株
価や東証株価指数は同じ動きをするわけではないということです。経済が改善してい
ると、その影響下にある株式市場は、全体として上昇しますが、そのなかでも業績が
悪い企業の株式は下落します。逆に、経済が悪化すれば、株式市場全体は軟調な動き
となりますが、業績の良い企業の株式は上昇しています。
よって、市場全体の動きを示す指標で個別株も全て同じと判断することは間違いで
す。そして、市場全体の動きを示す株式指標は、上場企業全体の経済活動を示すもの
であり、その経済活動を行う上での基礎条件である経済ファンダメンタルズがその動
きを左右します。
もう一つ、他の市場と同様、株式市場は、心理的な面が強く反映するということで
す。それは、先行きの見通しをどう見るか、期待と不安の心理の集約が株式市場の動
きを決めるということです。つまり、先行きについて、期待が強ければ、株式を買い
たいという人が売りたいという人よりも多くなり、株式市場は、タイトな需給関係か
ら堅調な動きになります。逆に、不安が強くなれば、売り手が多く、株式市場は軟調
に動きます。
しかも、将来の見通しは時間の経過とともに変化し、同時に株式市場も動きを変化
させていきます。つまり、先行きの見通しに対して期待がどれだけ強くても、時間の
経過とともに期待を裏付ける条件の現実化や裏切りにより、期待が後退し、逆に不安
が台頭してきます。そして、さらに先行きに対して期待を持たせる好材料がなければ、
投資家は不安に駆られて、急いで売りに回り、株価は急落することになります。この
ように、株式は、期待と不安の中で需給を形成しながら上昇したり、下落したりしま
す。
例えば、米国経済の好転や米国株式の上昇への期待、企業の好業績期待、経済の改
善期待があるうちは、株価は上昇しています。逆に、予想通りの好業績や悪い経済指
標がでると、一転売られるのは、現在の株価を越える収益への期待が持てないからで
す。今回の株価下げも、米国株式が好企業業績による上昇期待に反して下げたため、
先行きへの期待の行き過ぎを認識し、同時に投資家の心理に先行き経済や企業業績に
ついて期待が薄れ、疑問や不安が台頭したことによって起きたといえます。
したがって、この先株価が下落するときは、これまで、上昇を支えてきた先行きの
期待が薄れ、不安が台頭して、投資家全体に広がったときであり、そして、その下落
要因となる不安は、米国経済と米国株式の動向、その進路を決める政治・行政の動向、
企業業績、そしてなんといっても、日本の経済ファンダメンタルズということになり
ます。
米国経済について、米国のエコノミストは4%強の強気で見ていますが、経常赤字
や財政赤字の拡大など問題は山積しています。その点に目をつむっていますが、それ
が明確に投資家の不安材料に映れば、やはり下落要因になります。それは、突き詰め
てみれば、米国に依存する形になっている世界経済の陰りにつながり、ひいては外需
に頼る日本企業の業績、日本経済の悪化になりえます。
また、米国企業の業績が期待したほどではないということになれば、先行きの企業
業績は期待よりも不安に変わります。そうなれば、米国株式の下落となり、同時色を
強めてきた日本株式も売られることになります。特に、外国人投資家は、ポートフォ
リオ上日本株式のウェイトを引き上げているため、米国株式が下落すれば、オーバー
ウェイトとなる日本株式を売らざるを得ないことになります。
企業業績も、期待してきた通りで、この先のさらなる期待がなければ、やはり不安
に変わります。今回は、あまり話題になっていない円高ですが、今後この円高が継続
すれば、企業業績悪化懸念が強まり、投資家は株式保有のリスクと不安を感じて売り
に回ることになります。つまり、円高の企業業績への悪影響を認識し始めた時、先行
きへの不安となって、株価の下落につながります。
しかし、今まで述べきたように、株価下落につながる最大の不安要因は、経済ファ
ンダメンタルズにあるといえます。今、日本経済についても、過度の改善期待が広がっ
ています。確かに、個人消費は下げ止まっており、企業の設備投資にも明かりが見え
ています。そして、ここまで株価が上昇すれば、金融不安も後退しています。
しかし、一方で、デフレの解消が終わっていません。また、個人所得の減少、失業
率の高止まりなど経済には影が残っています。そして、今後も、デフレが続くのであ
れば、銀行の不良債権処理に終わりがないということになり、経済の悪化になれば、
株価の下落とともに金融不安が再び台頭することになります。さらに、総選挙で、政
治が空白のなか、道路公団総裁更迭問題のこじれで、政治が停滞することになれば、
構造改革を期待した外国人には不安に写るはずです。
結局、株価が下落し始めるのは、経済ファンダメンタルズへの先行き期待が不安に
転じた時であり、実体経済に大きな変化が見られないなかで、過度の先行き改善期待
で上昇してきた株式市場だけに、今後、少しでも不安に繋がる経済指標で現実が認識
されれば、株価は下落し始めるといえましょう。そして、株価は、先行きの経済を先
取りして動くとよく言われるのは、このような経済の先行きへの期待と不安のどちら
かが市場を支配し、変化する結果であり、過度になった反動が急騰、急落を演じると
いえましょう。
エクゼトラスト投資顧問株式会社 顧問:津田栄
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■ 山崎元 :UFJ総合研究所 金融本部主任研究員 兼 企業年金研究所取締役
株価が下落する、或いは株価が下落したときに後付で付加される「理由」はたくさ
んあると思います。日米の景気や有力企業の業績に関するネガティブな情報、日米の
政治的な変化、テロや戦争などの突発的なイベント、大幅な円高・ドル安など数多く
の可能性があります。
ちなみに、私が一番気にしているのは、アメリカの景気の天井が見えた時に、いき
なりアメリカの株価・不動産価格などが下落するという類の「まだプラスがある」と
いう認識から、「もうここが天井だ」という認識に市場参加者の気持ちが変わる状況
です。はっきりとネガティブな情報やショックが無くても、市場参加者が「上がり目」
を織り込んで形成していた株価が、市場参加者の気持ちが「もう上がり目は無い(の
ではないか)」と変わる瞬間は、典型的な暴落のスタート時点だと思います。もちろ
ん、この場合でも、何か後講釈の「理由」は付いてきますが。
しかし、株価の下落要因となるもろもろの合理的な理由があるとしても、それ以外
に、必ずしも合理的でない理由で、先ず株価自体が何となく(そして、その後ずるず
ると)下がる、ということが十分起こりえますし、これが案外最もあり得る株価下落
の姿ではないでしょうか。
ファイナンス研究の世界では「ノイズ・トレーダー」という言葉で表現されますが、
市場には合理的な情報およびその解釈に基づかないで市場に参加する参加者(群)が
存在します。かつての、原始的な市場秩序観では、こうした参加者は損をするので、
市場から淘汰されてゆくとされていましたが(若い頃のミルトン・フリードマンが言っ
ていたような市場観です)、その後の研究(シュレイファーやサマーズなどが研究し
ています)では、こうしたノイズ・トレーダーは、たとえば不合理に過大なリスクを
取ることがあるとしても、市場に存在するリスク・プレミアム(リスクに見合って形
成される超過的なリターン)を享受するため、必ずしも相対的な富を縮小させるとは
限らないとされています。つまり、市場には常にノイズ・トレーダーが存在するとい
うことです。
株式市場に限らず市場には、こうしたノイズ・トレーダーによる価格の攪乱リスク
(「ノイズ・トレーダー・リスク」といいます)が常に存在しており、キチンとした
理由で説明できるような合理的な要因だけで価格(たとえば株価)が形成されるわけ
ではありません。
また、株価の下落それ自身が情報上の効果をもたらして、投資や消費を抑制し、結
果的に株価の下落に沿うような状態をもたらすようなポジティブなフィードバックが
働くこともあります(株価の上昇に関しても同様な現象が起こり得ます)。
先般の自民党の総裁選で、株価を政策目標として掲げた候補がいましたが、株価は
合理的な理由ばかりで形成されるものではありませんし、コントロール可能なもので
もないので、公約の対象には不適当です。また、首相の在任期間中のパフォーマンス
を株価で測るような記事(たぶんネタがない時に書く埋め草でしょうが)などを見か
けることもありますが、遊びとしてはともかく、真面目な検討の対象とすべきアプ
ローチではありません。株価に関心を持つということの重要性と、株価そのものに直
接的な意味を求めることとを混同しないことが大切です。
株価は(為替レートなどもですが)、もともと勝手に動く「危なくて可愛いもの!」
なので、その上昇・下落に一々「理由」や「意味」を求めたり、まして、政府に「責
任」を求めたりすべきものではありません。
また、最近の風潮として、株価さえ上がっていれば経済問題の大半を忘れる困った
傾向があるようです(構造改革はサッパリ進んでいませんし、日本の年金はほぼ破綻
したと言っていい状態です)。株価が動く「理由」は株式市場の参加者(筆者も少し
参加しています)が勝手に探すので、あまり気にしないでおくのがいいのではないで
しょうか。経済に関する議論やニュースを見ていると、株価が動く「理由」への関心
が時に過剰なのではないかと思うことがあります。
UFJ総合研究所 金融本部主任研究員 兼 企業年金研究所取締役:山崎元
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■ 杉岡秋美 :生命保険会社勤務
マクロ経済的には、GDPの予想数値の上方修正が続いているなか、企業収益の発
表ないしはアナリストの収益予想の修正は、おおむね予想通りか期待以上の数字を発
表しており、円高等の懸念はありますが株式は上昇しやすい状況となっていると思わ
れます。
もっとも、日本の株価は23日に500円以上の大幅の下げを演じましたが、特に
これといった経済的要因は見当たらなかったようです。石原大臣と藤井総裁の泥試合
で、政権交代の芽が出てきたことなどが原因として噂されていますが、この期に及ん
で政権交代が下げ材料になるのも不可解です。単なるこじつけないし、あと講釈にす
ぎないでしょう。
個人的には、今年の前半に株価が底値をつけたころから株価は40%も上昇してい
るところから、割安感がかなり薄れているのが気になります。配当利回りは1.4%
ほどありますが、比較の対象となる長期金利が、当時の0.5%割れから1.5%を
つけてきていますので、株の相対的な有利性は再逆転されました。また、底値の頃に
は、PBR(株価純資産倍率)が1以下の銘柄がごろごろしていたのですが、昨年度
決算発表を経て、純資産の償却が進むと同時に、株価も上昇しましたので、東証ベー
スのPBRは1.7ほどまで上昇しています。PERも22程度と国際的にそれほど
割安とも言えなくなって来ました。
確かに今期、来期とも収益予想は10%以上の増益予想と順調で、株価上昇には問
題がないように見えますが、現在のPBRを維持しようとおもったら、今回の景気サ
イクルが終了した時点で、最低でも現在の倍以上の収益を達成していてほしいと思い
ます。
資本の収益性を測る指標のROEを見てみます。90年代の初め日本企業のROE
は2%台でしたが、その後リストラの甲斐があって少しずつ回復して現在は7%ぐら
いになっています。しかし、現在のPBR1.7を正当化するためには、景気回復サ
イクルのあとの定常状態を想定すると現在の3倍ぐらいのROEが必要なのではない
でしょうか。そのためには、現在予想されている、今期と来期の2桁増益程度では足
りないということになります。リストラ以上のもっと根本的な収益改善策、言い換え
れば利益成長ドライバーの発見が必要です。
人口の減少が予想され、個人も企業も年金制度維持のための税負担増は避けられま
せん。一方で、現政権の規制緩和は余りにも速度が遅く、サプライサイドの新しい成
長のフロンティアを描くには程遠い状態です。現在リストラで達成が期待されている
せいぜい10%台の増益以上のことは望めないのだとしたら、株価の上昇は早晩止ま
ることになるでしょう。
現在の株価が維持され更に上昇するためには、長期にわたる利益予想の上方修正が
必要です。これが達成できるかどうかは、微妙な予想の問題です。現在の程々の利益
上昇期待は、デフレ圧力の下で売上がほとんど伸びないような予想の下で作られてい
ますので、デフレが明確に解消して経済がはっきりと上昇を始めれば、水準を変える
ような利益成長も、確率は高くはないがゼロではないという状況です。
付加価値(資本コスト以上の利益)を供給する能力が株価の源泉であるなら、現在
の日本企業の収益力は更なる株価上昇のためには明らかに不十分です。個々の企業で
言えば、利益の、水準をもう一段上げるための、新製品、新機軸、新流通チャネルな
どが描ききれないところに、現在の問題があるのだと思います。
生命保険会社勤務:杉岡秋美
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■■編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■
Q:433への回答ありがとうございました。子どものための職業紹介の絵本『13
歳のハローワーク』は、あと9日間で、すべての作業が終わります。500頁を越え
る厚い本になりそうです。
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Q:434
日本国債が安全資産ではなくなる、という事態を想定するとき、そのおもな要因に
はどういうことが考えられるのでしょうか。
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村上龍
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