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企業の病欠者負担軽く
勤労意欲の維持に智恵
ワークシェアリングで失業率を劇的に低下させ、雇用改革の先進例として注目されるオランダが新たな改革に取り組んでいる。病気などを理由に休職する労働者の比率が先進国でトップ級になっているうえ、賃金の上昇も目立っているからだ。同国は政労使の協調を基本とする「オランダ・モデル」を鍛え直し、進化への道を探っている。
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「スザンヌと私は二人で一役」。外務省に勤務するカッペイン・デ・コッペロさんは一九九二年から今年七月まで同僚と週三十五時間ずつ同じ仕事を分担してきた。三児の母であるコッペロさんは「家庭と両立でき、一人で長時間働くよりも仕事の効率もいい」と語る。七月に西半球担当ディレクターに変わったが、新しい職場でも仕事を分担できる相手を探す。
オランダ金融最大手INGグループ。国内の女性行員一万五千人のうち、パートタイマーが八五%を占める。「パート比率が五%の男性行員の間でも希望者は増えている」と、人材資源総括のフランク・ファンダイク氏はワークシェアリングが浸透してきていると強調する。
オランダがワークシェアリングに取り組み始めてから二十年。以来、女性を中心に雇用機会が増え、当時一二%近かった失業率は昨年で二%台と、ユーロ圏十二カ国平均の八%台を大幅に下回る。九四年からのコック前中道左派政権が「オランダ・モデル」を確立させた。
そのオランダ・モデルに、最近変調が見える。病欠者が増えて企業の負担になってきているのに加え、好景気の影響で賃金が上昇、賃金抑制を前提としていたワークシェアリングの土台を揺るがしているからだ。
ハーグ市にある政府・議会の諮問機関「社会経済評議会」。社会問題局長として雇用問題を扱うフェインファンドラート氏は、今春の労使代表らによる会合で病欠者問題を見直した。
労組代表「重度の長期疾病者(一年以上の病欠者)への給付水準を上げてほしい」
経営側代表「代わりに企業の負担を軽減する措置にも応じてもらえますね」。激しい議論の末、双方が長期疾病者問題で合意に達した。
オランダでは一年以下の病欠者と、長期疾病者保険の受給者が合わせて労働人口の二割に上る。「五人に一人が病気で働けないというのは不自然」といわれ、これが企業の負担を高め、さらに「隠れた失業者」として失業率を低く見せていると指摘される。
現行制度では、長期疾病者が公的保険の適用を受けると、疾病の度合いに応じて賃金の最大七割が保証される。手厚い制度が受給者を必要以上に増やしたとの反省から、労使は重度でない長期疾病者には能力に応じた就労を求めることを申し合わせた。
合意内容は社会経済評議会が三月にまとめた三百数十ページに及ぶ勧告に結実した。ただ「合意は労使の微妙な妥協の上に成り立っている。一部を切り捨てるとバランスを崩しかねない」とフェインファンドラート局長は語る。
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民間企業も病欠者の問題に知恵を絞る。独シーメンスのオランダ法人は、従業員が長期疾病者になる前の病欠段階での対応を重視。専属の医師らが早期職場復帰に向けたメニューを作って患者をきめ細かく指導する手法で、全国平均五%台の病欠率を二―三%にとどめることに成功した。
日本では三洋電機などがワークシェアリングを導入したが、なお多くの経営者の間には「勤労意欲の低下やノウハウの継承」に対する懸念がある。病欠者に表れるオランダ・モデルのひずみは、手厚い制度に裏付けられたワークシェアリングが逆に勤労意欲を低下させるという問題点を浮き彫りにしている。
自らを欧州でトップ級の優等生に押し上げた「オランダ・モデル」を引き続き機能させ、改革を前進させていけるか。五月の総選挙で誕生した保守右派の新政権のさい配が試される。
(ブリュッセル=刀祢館久雄、フランクフルト=池上輝彦)
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欧州各国がユーロ導入を機に構造改革を実践している。日本の改革の一歩先を行くテーマを随時掲載する。
【図・写真】改革の勧告書を手に説明する社会経済評議会のフェインファンドラート氏(オランダ・ハーグ)