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http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/bse/news/04011301.htm
米国農務省食品安全検査局(USDA−FSIS)は1月8日、べナマン農務長官が昨年12月30日に発表した狂牛病(BSE)への取り組みのを強化を実施するための新たな四つのルールを発表した(USDA Issues New Regulations To Address BSE)。12月30日の発表で歩行困難な牛(いわゆるダウナーカウ)を食用に供することは直ちに禁止された。今回発表されたルールは、BSE検査で陰性と確認されるまでの製品出荷保留、特定危険部位の除去・隔離・廃棄、先進的食肉回収(AMR)の規制強化、空気注入スタンニングの禁止の四つの新措置にかかわる(参照:米国のBSE(第五報):米国農務省、BSE対応新措置発表、北米でのBSE再生産の可能性も高まる,03.12.31)。最初のものについては新措置の概要を検査プログラムのスタッフ宛てに通知、その他の三つについては90日間コメントを受け付けるという。
これらの措置が適切に実施されれば米国牛肉の安全性の向上にある程度は貢献するだろうが、実施面ではなお不透明なことが多い。さらに、特定危険部位については定義そのものに問題がある。
監視・検査は改善できるのか
製品出荷保留が有効に機能するためには、何よりも監視・検査体制の拡充が不可欠である。ます、検査の対象となるべきBSEが疑われる牛(ダウナーカウ、神経症の症状を示す牛)をどうやって見つけ出すのか。そのための基本的手段であるBSEが疑われる牛を発見した者の当局への通報義務、獣医・牛保有者・屠畜場関係者の教育訓練、検査・診断については、90年代初めから制度化されてきた。だが、この制度は、現実には満足に機能していない。初のBSEのケースは「ダウナーカウ」と疑われるのに見逃され、たまたま検査に送られただけだ。このことが監視制度の機能不全の明確な証左である。
関係者の教育訓練といっても、制度発足当初にビデオが配布されただけだ。関係者が疑わしい牛を発見する能力は最低だ。その上に、通常の監視体制がなっていない。農家が通報するなどまったく期待できない。獣医や検査官が農場を訪れて調べるわけでもない。このような牛が発見されるとすれば屠畜場でだけだが、検査官は能力を欠くし、そもそも人員がいない。英国「ガーディアン」紙の報道(Culture of indifference leaves America open to BSE,1.12)によれば、米国北東部で10年間働いてきた一検査官は、主として高齢の牛を屠殺する屠殺場を検査したのは、カナダのBSE発見後も2回だけだったと証言している。この間、1,000頭のダウナーカウが屠殺された。高齢乳牛を屠殺する屠殺場の検査に行ったのは一回だけだったとも言う。屠畜場に獣医が常駐するフランスとは雲泥の差だ。
今後はダウナーカウは食用から排除されるから、発見の可能性がある唯一の場所である屠畜場にも出てこない。ガーディアン紙の記事は、今後は悪徳ディーラーに売られることになる、こうした違法業者はいままでも跋扈しており、ますます増えるだろうと言う。8日の会見で、USDAのディへブン博士は、今後はレンダリング工場でも監視すると述べた(USDA technical briefing and Webcast On BSE with Canadian and U.S. Officials including Dr. Ron DeHaven, Chief Veterinary Officer, USDA and Dr. Brian Evans, Chief Veterinary Officer, Canadian Food Inspection Agency)。だが、監視体制のシステムティマチックな改善の提案はない。BSEを疑われる多くの牛が野放しにされることになるだろう。
この新措置が機能するためには、検査体制の拡充も不可欠だ。現在は、簡易検査(ラピッド・テスト)によるスクリーニング検査はまったくなく、結果が判明するまでに一週間以上もかかる免疫組織化学的的検査施設が1ヵ所あるだけだ。これまで、脳検査を受けるべきダウナーカウや中枢神経障害の症状のある多くの牛が見逃される上に、発見された牛のごく一部が脳検査されるだけであった。平均して年に7,000頭が検査されてきただけで、02年には19,990頭、03年には20,543頭に増やされたが、農務省推定が推定する20万頭(消費者団体は70万頭ともいう)というダウナー牛全体の数に比べても、ほぼ10分の1が検査されたにすぎない。ディヘイブン博士は、今後サンプル収集体制を整え、簡易検査の承認の手続を進め、今年は38,000から40,000の検査をすると発表したが、これをどう実現するかも依然として不透明だ。最大の問題は、BSE対策強化に対する米国内の敵対的雰囲気(文化)といえるかもしれない。
先の「ガーディアン」紙は、獣医・検査官の発言として、
・政策は消費者の安全を犠牲に牛肉産業の肩を持っている、
・BSE検査は稀で無計画、実行する人は最低限の訓練しか受けていない、
・規制官が病気について論議することが邪魔されている、
・政府は自身の安全基準の執行を怠っている、
と書く。
特定危険部位の問題
特定危険部位については、連邦監督下の屠畜場・食肉処理工場に、その除去・隔離・処分の文書化された手続を開発・実施・維持することを義務付けるという。いかにもアメリカ流のやり方であるが、こんな民間任せの規制で目的が達成できると考えているとすれば、BSE「先進国」の教訓にまったく学んでいないことになる。
実施にかかわる問題とともに、特定危険部位の定義自体も問題だ。特定危険部位として指定する中枢神経組織(頭蓋、脳、三叉神経節、眼、脊柱、背根神経節)を30ヵ月以上の牛のものに限定している。FSISは、中枢神経組織が感染性をもち始めるのは潜伏期末期で、英国での発症例で30ヵ月未満のものは0.01%に過ぎないとをこの決定を根拠づけている。日本で発見された23ヵ月でのBSE確認のケースは異型のBSEだったし、日本のもう一例や英国で発見された若い牛の発症例は、異常に多量の病源体を取り込んだ例外的事例だと言う。
だが、EUは12ヵ月以上の同様な組織を特定危険部位に指定している。これを根拠づけるEU科学運営委員会の意見(Update of the Opinion )によれば、自然状態(農場で飼育されている状態)でBSEに感染した牛の中枢神経組織が感染性を持ち始める時期は不確定であるが、通常のマウス生物検定法により最低で発症3ヵ月前、平均60ヵ月(5年)の潜伏期間の牛では、理論的には30ヵ月前から感染性を持ち始めるとするのは「アンリーゾナブル」には見えない。それは、牛からマウスへのBSE伝達にかかわる種の壁は牛から牛の場合に比べて500倍ほどだが、牛から人間への壁の高さは分かっておらず、牛の中枢神経組織に発見可能な感染性が現われ、それによって人間が感染するリスクの計算をすることは不可能だと言う。
新措置は、抜け穴だらけの飼料規制には何も触れていない。それはヨーロッパの初期段階で取られ、今では有効性が完全に否定されている規制そのままだ。豚・鶏・ペットフードには、特定危険院部位さえ入った肉骨粉の使用が許されている。それでいて、まともな「交差汚染」防止策は何一つ取られていない。この規制はアナだらけだ。現在では、肉骨粉の「全面禁止」によってさえ、BSE撲滅ができるかどうか分からなくなっているにもかかわらず。
わが国は、「全頭検査」を米国牛肉輸入再開の最優先の条件としている。だが、米国に求めるべきは、何よりも肉骨粉の全面禁止と上記のようなズサンな安全措置の改善である。それと「全頭検査」を引き換えにするような妥協は絶対に避けるべきである。
関連情報
米国のBSE(第六報):農水省、米国牛肉輸入条件を検討、安全レベル向上はゼロ,04.1.8http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/bse/news/04010801.htm
米国のBSE(第五報):専門家会見、感染牛はカナダ産、北米牛肉は安全,04.1.7http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/bse/news/04010701.htm
米国のBSE(第五報):米国農務省、BSE対応新措置発表、北米でのBSE再生産の可能性も高まる,03.12.31http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/bse/news/03123101.htm
米国のBSE(第四報):牛肉輸入再開条件に苦慮する日本政府―最低限何が必要か,03.12.27http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/bse/news/03122701.htm
米国のBSE(第三報):英国研究所、ワシントン州の牛をBSEと確定診断,0312.26http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/bse/news/03122602.htm
米国のBSE(第二報):崩れる消費者の信頼、最大の心配は先進的機械回収肉(AMR),03.12.26http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/bse/news/03122601.htm
米国のBSE(第一報):初のBSE発生か、影響は測り知れず,03.12.24http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/bse/news/03122401.htm
農業情報研究所(WAPIC)