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脱原発への大きな課題 伴 英幸 [日本ジャーナリスト会議]
http://www.asyura2.com/0311/genpatu1/msg/203.html
投稿者 なるほど 日時 2004 年 1 月 13 日 06:00:33:dfhdU2/i2Qkk2
 

(2004.1.11)
アイゼンハワー大統領の「アトムズ・フォア・ピース」提案の3ヶ月後、日本は最初の原子炉予算2億3500万円を通した。50年前の話である。科学振興追加予算として突如国会提案した中曽根康弘は、原子力の自主研究開発を主張していた学術会議に対して、「札束で頬をひっぱたいた」つもりだったらしい。数年の後には戦前の財閥を中心とする原子力5グループが形成されて「だいたいひと口原子力に乗らなきゃという時代」(『原子力開発の30年』原子力産業会議)が出来上った。
珠洲原発が白紙へ
 『原子力王国の黄昏』(伊原辰郎著 日本評論社)が出版されたのは1984年のことで、すでにその頃には開発の勢いが衰えてきていたといえよう。現在52基(4574万kW)が16の発電所で稼働しているが、最盛期の計画では、原発で1億kWの発電能力が目指されていた。計画通りに建設がすすまなかったのは、原発建設に対する強い反対運動があったからだ。いまもなお原発建設を止め続けている地域は22ヶ所におよぶ。
 1994年には豊北原発計画(中国電力)が撤回され、96年には巻原発計画(東北電力)が住民投票で拒否され、2000年には中部電力が芦浜原発計画を白紙撤回した。地元の30年にわたる猛反対を見て、当時の北川三重県知事が撤回を求めたことが断念につながった。同県海山町での住民投票(01年11月)は原発推進派から出されたが、結果は原発の拒否だった。03年12月には珠洲原発計画(関西電力、中部電力、北陸電力)が事実上断念された。報道によれば「電力自由化や需要低迷を受け、難航する計画を3社相乗りで続けるリスクが高すぎると判断」(11月27日、朝日新聞朝刊)したためである。地元での反対に加え、電力自由化の流れが新規立地断念に影響したと考えると、建設計画が公表されている原発の10基以上が、これから断念されていく可能性が強くなった。
再処理ウラン試験入りを止める
 経済産業省の諮問機関で原発のバックエンドコストの検討が行なわれている(本誌4―6ページ記事参照=略)。しかし、コストの検討は再処理の検討にはつながっていない。明らかに合理性がないことがわかっているにもかかわらず、建設中の六ヶ所再処理工場は、次の段階であるウラン試験に突入しようとしている。燃料貯蔵プールの不正溶接とその後の処理で計画は遅れているとしても、ウラン試験に入れば施設は放射能で汚染される。そうなると後戻りすることがさらに困難となる。早春に大きな山場が来るだろう。ウラン試験に入らせないことが、03年に引き続き04年の最大の課題のひとつである。
もんじゅを廃炉へ
 先のコスト小委ではプルサーマルが想定されているのみである。高速増殖炉開発は電力会社の取り組みではないわけだ。03年8月に原子力委員会が発表した「核燃料サイクルについて」では、プルトニウム利用「2段階論」が展開されていて、当面はプルサーマルの実現が課題だとした。それと符合しているようにも見える。
 他方、文部科学省や核燃料サイクル開発機構などは、ナトリウム漏れ対策を施す改造工事に向けて動いてきた。とくに7月以降の動きがめまぐるしかった。国は名古屋高裁で破れ最高裁へ上告受理の申し立てをしたが、この間の動きは、むしろ、力でねじ伏せようとしているものだ。福井県が設置した「もんじゅ安全性調査検討専門委員会」は、国や核燃機構の説明を聞いただけの調査で、改造工事を安全としてゴーサインを出した。もんじゅ廃炉を求める運動は04 年の改造工事入り阻止が焦点となって動く。そのためにも高裁判決の内容を広めて、廃炉運動を盛り上げる年としたい。
予断を許さないプルサーマル計画
 東電が計画したプルサーマルは事前了解取り消しで白紙に戻っている。他方、関電の方は不正が行なわれた燃料をイギリスへ送り返し、今度はフランスのコジェマ社と燃料製造契約を締結すると発表している。05年の実施をめざすという。プルサーマル問題が再燃してきた。再処理〜プルサーマル〜高速増殖炉という核燃料サイクル計画の矛盾がいよいよ煮詰まってきている。政策転換の正念場を迎えている。
避けられない応力腐食割れ
 維持基準は90年代後半から準備されてきていたが、東電の損傷隠し事件を利用して、ドサクサ紛れに法制化された。今もなお、SUS3 16配管には適用できないでいる。亀裂の測定精度や亀裂の進み具合の不確定さなどに課題が残っているからだ。SUS316材は応力腐食割れを解決してくれるはずの材料だった。それに亀裂が多数発生していた。しかも発生までの時間が予想外に早いようだ。沸騰水型炉では再循環配管の多くに使われており、取替え工事が行なわれている。
 維持基準導入が議論されているとき、アメリカでは導入することで稼働率が90%に上がったなどと宣伝されていたが、稼働率の上昇は定期検査間隔の延長によると言うべきだ。アメリカに見習って原発を色分けし、事故・トラブルの少ない原発には定期検査の項目を減らしたり、検査間隔を延ばそうという案が出てきている。
 これに原発の老朽問題が重なってくる。稼働から30年を経過した原発は04年現在で7基であるが、2010年になると20基に達する。そもそも定期検査で見る部分はほんの一部である。チェックしない部材に老朽化がおこるのだからトラブルは増える。
圧力抑制プールのゴミ問題
 さらにつけ加えると、圧力抑制プールがゴミ箱化していた。東電や中国電力などで、ここに電動グラインダ、レンチ、靴、ビデオテープ、布類などなどが捨てられていた。東電だけでもその数は1000点を超えている。管理が正常に行なわれていたなら決して起きないことである。東電の管理能力の欠如あるいは下請けとの馴れ合いが明白になった出来事である。上記3つの要因を重ね合わせると、これらによって深刻な事故の危険は増えているといえる。
 このような状況の中で、福島、新潟、福井の三県知事が連名で、原子力安全・保安院の分離独立と核燃料サイクルの見直しを提言したことは非常に大きな意味を持つ。東電損傷隠し事件以来、佐藤栄佐久福島県知事は機会あるごとに原子力安全・保安院の独立を主張してきた。にもかかわらず対応が遅れていることに対して、提言という形で再度突きつけたのである。維持基準の本格的導入と絡んで、この問題が今年の大きな焦点のひとつとなるだろう。
廃炉時代を迎えるスソ切り基準つくり
 老朽化の先には廃炉が待っている。原研・動力試験炉JPDRに続いて、東海1号炉とふげんが廃炉となった。2010年には敦賀1号炉、福島第一1号炉が廃炉となるだろう。東海1号炉の解体が始まる前に、放射性廃棄物のスソ切りを法制化しようと国は動いている。そうなれば、住居のコンクリートや食卓のスプーンが原発廃棄物の再利用品という時代がやってくる。再利用のためのスソ切り問題に切り込んでいくことが求められている。
脱原発の道筋を!
 原発の老朽化―廃炉、そして、廃炉・解体の後に新設するまでに 15〜20年を要することをあわせて考えると、近い将来に原発による発電能力が少なくとも現状の4分の1に下がる。最初の原子力予算導入から50年、いよいよ脱原発の道筋を議論する時期に来ている。当室は『市民のエネルギーシナリオ2050―将来の望ましいエネルギー構造』(勝田忠広、2003)をまとめたが、省エネ努力と省エネ技術開発そして新エネの導入という方向性が、脱原発へ向かう上で一番重要なことだ。

(『原子力資料情報室通信』355号(2004.1.1)より転載)

http://www.jcj.gr.jp/forum.html#20040111

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