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厄介なプレゼントかも
酒井 啓子(アジア経済研究所参事)
「ヤツを捕まえた」。どっとわくアメリカ人。ヒューヒューと鳴る口笛。暫定占領当局(CPA)は14日、米軍がイラク国内でフセイン元大統領を拘束した、と発表した。
穴蔵の中から、まるで「ネズミのように」捕まったと米欧メディアは報ずる。ヒゲもじゃ、髪ボサボサで米軍の検査に従順な姿が映し出され、おとなしく、米軍に協力的な態度を見せている、という。
おとなしく? 協力的?
本当かなあ、とイラク人は思っているのではないか。死ぬまで徹底抗戦すると豪語し、生きて捕まるくらいなら殉教するのでは、と考えられていた人物だ。なんだ、案外小心者じゃん、と「フセインの残党」ががっかりすることをアメリカは期待しているのだろう。四半世紀にわたる独裁者も、虚飾をはがせばたいしたことはない、もうフセインの残像におびえなくてもいいんだ、という安堵(あんど)感は、確かにイラク人の間にある。
だが、「フセインってあの程度か」という感想が、「じゃあオレにもできるかも」的発想を呼ぶ可能性もある。
「フセインは腰砕けになっても、おれは徹底的に反米でいく」とか、「フセインのようにやれば、政権奪取できるかも」とか、いろいろな勢力がここぞとばかりに胎動する可能性も否定できない。
そもそも、フセインを捕まえてとっちめたい理由は、米政権とイラク人では違う。米政権としては、とりあえず戦争の大義名分だった大量破壊兵器の行方とか、テロ集団との関係などを洗い出したい。イラク人には、そんなことはどうでもいい。長年の圧政の責任を取れ、うちの家族をどこにやった、ということが一番問いただしたいことだ。
フセインを捕まえたはいいが、アメリカが自分のいいように取り調べをして勝手に処分したということになれば、イラク人の間ではますます対米不信が高まる。結局アメリカが、昔の同盟相手を引き取りにきただけか、と。なにせ、ホメイニのイランを嫌って83年にフセインと握手しにやってきたのは、ラムズフェルド現国防長官なのだから。
あるいは「またアメリカはフセインを利用しようとしているだけ」という、よくある陰謀論がまた出現する。
それだけではない。米軍はフセインを捕縛したのだからこれ以上イラクに居てほしい理由はなくなった、あとはおれたちにまかせろ、と考えるイラク人も多いだろう。用済み用心棒は本国アメリカに帰れ、という意識が、かえって高まるかもしれない。
さらに、アメリカは「フセインの残党のせいで……」とも言えなくなる。イラク人の中には、フセインが本当にいなくなれば少しは生活が良くなるかも、と期待する人もいるだろうが、これで生活が良くならないと、悪いのは紛れもなく占領者アメリカだ、ということになってしまう。
そう考えると、「治安の回復」も簡単には望めない。
「やった」と考えているブッシュ政権にしてみれば、クリスマス前に駐留米軍が手柄を立てたので、ほっとしているかもしれない。
だが残念ながら、地下で発見された白ヒゲをたくわえたその男は、サンタクロースではありませんぞ。
http://www.be.asahi.com/20031220/W12/0022.html