現在地 HOME > 掲示板 > Ψ空耳の丘Ψ32 > 482.html ★阿修羅♪ |
|
高生産の経済は健全か H15/12/18
米労働省がアメリカの非農業部門の労働生産性が第三四半期に比べて年率9・4%上昇したと発表した。これは二十年ぶりの高い伸びで、三年連続で生産性が上昇しているという。
アメリカのこの労働生産性は、単位時間あたりにどのくらいの生産を行ったかで測定している。この報道に限らず日本の経済紙には、米連邦準備理事会による景気拡大継続の判断や、米GDPの前年同期比8・2%増、好調な個人消費、堅調な設備投資など、アメリカ経済の回復を報じるものが多い。
社員数と労働時間
アメリカの現状を必要以上によく見せるニュースを主流メディアが報道するのは「だから日本もアメリカ方式を取り入れるべき」という結論を日本国民に導かせるためであろうが、しかし特にこの労働生産性の上昇が経済の健全性を写しているかといえばそうではない。
例えばここにA、Bという企業があり、ともに社員あたりの売上高が2千万円だとしよう。A社の「営業マン」の数がB社の半分ならA社のほうが生産性が高い、と言えるだろうか?。言えるはずはない。企業の生産性を比較する場合は、全社員一人あたりの売上高でみるべきである。A社の営業マンは、他の社員からより多くの支援を得ているのかもしれないし、または少数の営業マンがより多くの知恵と汗を出すか、時間を費やして、B社と同じ社員あたりの売り上げを上げているのかもしれない。この手の「生産性」について、かつてマルクスとエンゲルスがいくつもの著書を著している。ただ彼らはこれを生産性とは言わず「搾取」と呼んだ。
国の生産性もこれと同じなのである。GDP(国民総生産=国内で一年間に生み出された生産物やサービスの金額の総和)が同じで、A国はB国よりも少ない労働者しか使っていないからといってA国はB国よりも生産性が高いとは言うことはできない。国民あたりのGDPが同じで労働者の数が少なければ、A国はより多くの仕事(生産)をより少ない国民で行うことを選んだか、またはB国の労働者よりも時間あたりより多くの労働をさせているということなのだ。
「雇用なき回復」
さらに今アメリカでもっとも多くの雇用を提供しているのはサービス分野である。アメリカ最大の企業は自動車メーカーではなくディスカウントストアである。ディスカウントストアは何も製造してはいないし、主にアメリカ国外の安い労働者を使って作られた製品を販売しているに過ぎない。明確な形のないこのサービス分野で付加された価値を測定することなどできないことは明白である。
また金融サービス部門について、米労働省は一九八八年から平均労働時間は一週間あたり三十五・五時間は変わっていないというがこれは正しくない。携帯電話、ノートパソコン、その他さまざまなIT機器と通信設備のおかげで多くのホワイトカラーはいつでもどこでも仕事ができる状態になっており、その結果、実際の労働時間はかなり長くなっているはずである。生産性とは長時間働くことではなく、労働時間単位あたりにより多くの価値を得ることなのだ。
もし利益の増加をみてアメリカ企業の景気が回復しているというのであれば、それは過去数年間に二百万人近い雇用が失われたあとの「雇用なき回復」と呼べるものである。それを可能にした要因の一つは、ディスカウントストアで売られている製品を見ればわかるようにグローバル化だ。低賃金の海外で作られた製品、そしてITの発達で事務系の仕事もインドなどに委託されるなど、企業収益の短期的な改善はコスト削減によってもたらされているに過ぎない。
アメリカの個人が抱える負債残高は、二〇〇三年九月末で一兆九千七百二十億ドル(約二百十七兆円)と過去最高であり、米商務省が発表した二〇〇二年の世帯調査によると、米国の総人口に占める貧困層の割合(例えば三人家族では年収が約一万四千四百八十ドル(百六十二万円強)を下回る層)が前年の11・7%から12・1%となり、二年連続で上昇している。経済が回復しているのであれば、これらの統計は当然下がるべき数字である。
コスト削減では限界
コスト削減によって企業収益が上がれば、利益の上昇という形で生産性もあがる。しかしそれによって雇用が失われれば、その生産性上昇には限界がある。企業に価値をもたらす労働者をその限界まではぎ取ってしまえば「空洞化」された企業しか残らない。経済史においてダウンサイジングによって持続する生産性拡大がもたらされた先例はない。
雇用なき回復は市場を失い、経済を荒廃させ、そして少数の資本の所有者と残りの大部分の労働者である国民との間に大きな経済格差がもたらされる。そしてこの循環は永続的に続くことはない。長時間労働とコスト削減でもたらされたアメリカの高生産性がつかの間のものだということもすぐに分かるはずである。(アシスト代表取締役)
http://www.nnn.co.jp/essay/tisin/tisin0312.html#18