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水素エコノミーの疑問
H15/12/11
日米など十五カ国と欧州委員会が、水素エネルギーを利用する新たな経済システムの実現を目指して国際協力を推進することで合意したというニュースが報道された。「水素エコノミーのための国際パートナーシップ」と名づけられたこの枠組みを提案したのはアメリカである。
新燃料で環境改善
テロとの戦いを続けるブッシュ大統領は今年初めの一般教書演説において、環境を大きく改善し、かつアメリカのエネルギー分野の自立を促進するために、“よりクリーンな”技術を開発し、国内のエネルギー生産を拡大する包括的なエネルギー計画を議会に提出したと述べた。それには“クリーンな”水素燃料電池自動車の開発で世界の先頭に立てるようにと十二億ドルもの研究予算の提案が含まれる。
水素と酸素の化学反応から生まれるエネルギーを自動車の動力に使えば、温暖化の原因となる二酸化炭素が排出されなくなる。これによって大気の清浄化を進め、かつ輸入エネルギーへの依存度を大幅に削減することができるというふれこみだ。この話を聞いているとアメリカがいよいよ環境問題に真剣に取り組み始めたと誰もが思うだろう。
ブッシュのプードルと揶揄(やゆ)されているイギリスのブレア首相も二月にエネルギー政策を発表している。再生可能エネルギーの導入とエネルギーの効率化によって温室効果ガス排出量を二〇五〇年までに六割削減すると誓約したのだ。しかし地球環境のためだというエネルギー政策を発表した両国が、その翌月に地球の環境をもっとも痛めつける、究極の環境破壊行為である戦争を開始したことは皮肉以外のなにものでもない。
アメリカは大量破壊兵器を理由に始めた戦争に「イラクの自由作戦」と名づけ、空爆を開始した。エネルギー戦略においても、水素を燃料に燃料電池で走るという自動車は「自由の自動車(フリーダム・カー)」、そして燃料水素を「自由の燃料(フリーダム・フューエル)」と命名したときくと、自由という言葉の安売りに虚(むな)しさすら覚える。
水素は何から作るか
日本の自動車メーカーはすでにハイブリッドカーを提供しているが、アメリカは現行の技術を改良しようともせず、巨額の税金を水素燃料の研究に投じるという。以前にも書いたがアメリカはとてつもない量のエネルギーを浪費している。未来の燃料に予算を投じるよりも温暖化問題に真剣に取り組む気があるのなら、まず自動車の燃料効率基準の見直しから着手すべきだ。
しかしこのブッシュ大統領の「水素エコノミー」の実現に向けた大規模プロジェクトが本当に地球温暖化に取り組む代替案となるのか、またはエネルギーの独立性を保証するものなのかは大きな疑問符がつく。
確かに水素は地球上に多く存在し、電気を作り出すときには水と熱しか排出しないため温室効果ガスの排出量は減るだろう。そして水素エネルギーへの移行が実現すれば十九世紀の石炭や蒸気機関、二十世紀の石油と燃焼機関のように世界経済に大きな影響を及ぼすことは間違いない。
問題はこのブッシュの水素エコノミーが本当にクリーンなものかということと、それだけの時間が残されているかということだ。水素は化石燃料か水かバイオマス(熱資源としての植物体および動物廃棄物)から抽出されるため、何から水素を作るかが大きな問題となる。つまり水素を石油や石炭、原子力から作るのであれば結局、今と何も変わらないということだ。
米政権の利益優先
十二月一日からイタリアで気候変動枠組み条約締約国会議が始まっている。地球温暖化によって世界の気温が上昇し続けることで氷河が広範囲にわたって溶解し続け、太平洋の島国、ツバルは平均海抜約二メートルのため海面上昇の影響をもっとも深刻に受けている。アメリカをはじめとする先進国が排出する二酸化炭素によってもっとも大きな被害を受けるのは先進国自身ではなく、ほとんどそれらを排出していない国々なのだ。
ツバルの人々が直面している緊急の課題は、アメリカが長期にわたる水素エコノミーの研究に巨額の投資をすることではなく、たとえそれがアメリカ経済をスローダウンさせることになっても自動車の使用や発電量を減らすことであり、それはすなわち習慣化した、便利な生活を見直すことに他ならない。
しかし石油業界との強いつながりを持つブッシュ政権は地球環境を守ることよりもまず自分たちの利益を優先させた。京都議定書からの離脱からイラク戦争まで悪い意味で一貫しているブッシュ政権の政策をみると水素エコノミーもクリーンなものになる可能性は少ないと私は見ている。(アシスト代表取締役)
http://www.nnn.co.jp/essay/tisin/tisin0312.html#11