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米IBMに対するガン訴訟が始まる
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20031105-00000012-cnet-sci
米IBMが製造工場で使用していた化学物質が原因でガンを発症したとして、元従業員が同社を訴えた裁判の口頭弁論が4日(米国時間)、カリフォルニア州サンノゼの上級裁判所で始まった。2人の元従業員の弁護士は、従業員の間に化学薬品による中毒症状が広がっていることを同社が認識していたと主張した。
法廷では、亡くなった元従業員の名前が書かれた黒い腕章を身につけた遺族や友人が傍聴席で見守る中、原告側弁護士のRichard Alexanderがまず、陪審団に化学についての簡単な説明を行った。Alexander弁護士は、カリフォルニア州サンノゼにあるIBMの工場で日常的に使用されていた化学物質が原因で、元従業員のJames MooreとAlida Hernandezの2人が後にガンを発症したことを専門家たちが証明するだろう、と語った。
Alexanderは陪審団に対し、「IBMは(薬物中毒の事実を)公表する責任があったにも関わらず、何も言わなかった。そのため、従業員たちは、気の毒にも、そのまま働き続ける破目になった」と述べ、さらに「彼らには、最も大切な財産である健康を守る機会が、全く与えられなかった」と語った。
数カ月間続くと見られている今回の裁判を皮切りに、250件に及ぶ同様の訴えが裁判に掛けられことになっている。全米各地に広がったこの訴訟では、ハードディスクや半導体製造工場での勤務が原因でガンをはじめとする様々な疾患に罹ったと原告が主張しており、これに対するIBMの責任が問われている。
IBMは、これまで長い間、他メーカーと同様に、従業員が危険度の高い有毒物質にさらされる際には、被害が生じないようあらゆる予防策を講じてきたと主張してきた。
Jones Day法律事務所に勤務するIBM側の弁護士、Bob Weberは冒頭陳述の中で、「従業員が就労していた有害な環境を作り出したのが、IBMの経営陣ではないことは、証拠から明らかになるだろう」と述べ、さらに「不正の事実が明らかになることはない。なぜなら、そもそも不正行為などなかったのだから」と語った。
アナリストたちは、仮に原告が、IBMを有罪とする判決を勝ち取れば、他メーカーに対する同様の訴訟が、次々と提起される可能性があると指摘する。
しかし、法律の専門家は、原告勝訴の可能性について厳しい見方をしている。原告側弁護団は、IBMが製造工程で使用していた化学物質が原因で、元従業員たちがガンを発症した可能性が高いことだけでなく、IBMが明確な危険を認識していたにも関わらず、適切な予防策を怠ったことも立証しなければならない。
この裁判では、すでに裁判官が、IBMの従業員の死亡率についてのデータベースは証拠として認められないとの判決を下している。同社は、その死亡率についてのデータベースには、死亡証明書に関する情報しか保存されておらず、亡くなった従業員の職種や、彼らがさらされていた化学物質の種類についてのデータは含まれていないと主張していた。
一方、原告側のAlexander弁護士は、長期に渡る化学物質中毒の実態を示していると彼自身が主張する、IBMの診療所にある MooreとHernandezの診療記録を引き合いに出し、両従業員の症状と、IBMが独自に作成した化学物質の取扱いに関するハンドブックに記されている症状とを比較してみせた。
また、同弁護士は、1980年代初頭に作成されたIBMの別のデータベースにも言及した。このデータベースは、職歴、慢性疾患、取り扱っていた物質の種類、死亡率データなどの、従業員に関する様々な情報を追跡するよう設計されている。Alexander弁護士は、このデータベースシステムによって、化学物質が従業員たちに与える影響を同社が認識していた事実が証明されるだろう、と語った。
しかしIBMの広報担当、Bill O'Learyは、そのデータベース計画は、データ収集という点であまりに規模が大きすぎることが判明し、試験的に実施された後に中止されたと述べている。
IBM側のWeber弁護士は、HernandezとMooreのそれぞれの詳細な診療記録の概要を述べた。同弁護士によると、その記録には、過度の喫煙、肥満、別の場所で化学物質にさらされていた事実など、彼らがガンを発症した原因として、より説得力のある要素が含まれているという。
Hernandezについては、IBMの医師は日常的に彼女に外部の専門家の診察を受けさせており、彼女が同社の工場で化学物質にさらされていた事実をIBMが隠蔽しようとしていたとは考えにくい、と同弁護士は指摘した。
両陣営とも、今後数週間にわたって、詳細な医学的証拠を提出していくことになっている。
この裁判をきっかけに、IBMの元従業員や関係者がつくる地域コミュニティで議論が沸きあがっており、4日には、その中の一部の人々の手で、亡くなった従業員の追悼式が、裁判所で行われた。
「私は今までこの人達と共に生きてきた」と語るのは、IBMに19年間勤務したというJohn Roberts。彼の腕にも友人の名前入りの黒い腕章がつけられていた。「なぜ彼らが死んで、私だけ生き残ったのか。そのことを考えずにはいられない」(Roberts)