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2003年8月25日,住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)の本格運用が始まった。住基ネットという言葉はよく耳にするが,実際はどのようなネットワークなのか,知らない人も多いだろう。そこで今回は,住基ネットの構成をチェックしておこう。
住基ネットが扱う情報は,住民票などに記載されたデータである。各市区町村がすでに持っている住民基本台帳というデータベースが基になる。そのデータベースをつなぐのが住基ネットだ。
市区町村が管理する住民基本台帳のデータベース・サーバーは,住基ネットの入り口であるコミュニケーション・サーバー(CS)と接続し,そこから通信事業者のIP-VPNサービスを経由して都道府県庁につながっている。さらに都道府県庁からIP-VPN経由で国につながる。つまり,ネットワーク的に見ると,国を頂点に都道府県庁,市区町村役場の3階層に分かれている。
市区町村が管理する大もとのデータベース(住民基本台帳)とは別に,都道府県庁や国に設置されたデータベース・サーバーにも住民データが蓄積される。ただ,国や都道府県庁のサーバーにあるのは住民基本台帳に載っているデータの一部だけだ。この一部のデータとは,氏名,住所,生年月日,性別の4種類で「基本4情報」と呼ばれる。国と都道府県庁のサーバーは,この基本4情報と国民一人ひとりに重複しないように割り当てた11ケタの番号(住民票コード)だけを管理する。
一方,各市区町村の住民基本台帳には,基本4情報のほかに,続柄,住民となった日付,以前の住所,さらには,国民健康保険や国民年金などに関する詳細情報も保存されている。住基ネットには,詳細情報も基本4情報も流れる。しかし,その流れは異なる。
詳細情報が住基ネットを流れるのは,住民票を居住地ではない役場で取得するときや,転居時の申請などでデータをやりとりするとき。このときは,国や都道府県庁は流れるデータに関与せず,市区町村役場同士がデータを直接やりとりする。
ネットワークは階層構造になっているので,同一都道府県内の市区町村役場同士がデータをやりとりするなら必ず都道府県庁のルーターを経由し,都道府県をまたいだ役場同士のやりとりなら中央にある国のルーターも通る。しかし,都道府県庁や国のルーターは単なる中継点で,データが蓄積されることはない。しかも,市区町村役場の間の通信は暗号化されるので,途中で盗聴しようとしても難しい。
基本4情報が住基ネットを流れるのは,結婚や転居で住民の氏名や住所が変わったとき。市区町村の住民基本台帳だけでなく,都道府県庁や国が管理するサーバーにある基本4情報も更新しなければならなくなるからだ。
例えば,住民が転入届を提出したら,その役場にある住民基本台帳に登録される。役場のコミュニケーション・サーバーは登録や更新された情報から基本4情報だけを抜き出して都道府県庁のサーバーに送る。すると,都道府県庁のサーバー内のデータベースが更新される。さらに,都道府県庁サーバーが国のサーバーに同じデータを送ることで,国のサーバーも新しい内容に書き換わる。
閉じたネットワークであるIP-VPNを使って暗号通信している住基ネットは,システム的に見れば情報漏えいなどの問題はなさそう。ただ,このあと問題になりそうなのは,住基ネットを実際に扱う公務員やネットワーク管理を請け負う業者だ。うっかりミスもあれば,意図的に住民情報を持ち出す可能性もある。こうした担当者の「情報リテラシ」のばらつきが,住基ネットの危うさといえるだろう。
(塗谷 隆弘)
<住基ネットについて,日経NETWORK 2003年10月号の「できごとズームイン」で詳しく解説しています。ぜひ,ご覧ください>