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牛乳の「人工ホルモン不使用」表示は不当か(上)
Kristen Philipkoski
2003年9月16日 2:00am PT 酪農家のジョン・バンティング氏のもとには、ほぼ毎日のように困りはてた同業者からの電話がかかってくる。そして、バンティング氏は精一杯、こういった人たちに対応する。
14人の子どもがいる母親は、夫が牛乳の販売だけでは家族を養えず、自分を落伍者だと感じていると訴える。別の酪農家は、壊れたトラクターの修理代を捻出するために牛を1頭売らなければならなかったと話す。電話をかけてくる人は皆、バンティング氏が乳しぼりをしながらコードレス電話で悩みを聞き、同情してくれることを知っている。さらにその悩みを、同氏が記事を寄稿している酪農業界の月刊レポート『ミルクウィード』誌で取り上げるかもしれない。
ある意味で、米国の酪農家にとってこの1年半はこれまでで最悪だった。牛乳の価格がここ10年間のインフレに見合うほど上昇しなかったために、多くの家族経営の酪農家が廃業した。農家に獣医を呼ぶ余裕がないため、牛は病気になっても治療を受けられない。それどころか、前回の治療費が未納のせいで、呼んでも獣医が来てくれない。
多くの小規模農家は、農業関連大手の米モンサント社と、同社が販売する牛成長ホルモン『ポジラック』(Posilac)が大きな元凶だと考えている。
組換え牛ソマトトロピン(rBST)とも呼ばれるポジラックは、すでに供給過剰になっている市場にさらに牛乳を供給するだけであり、酪農家の収入は減る一方だという生産者の声もある。しかしモンサント社は、ポジラックを使えば牛の乳量を増やせるので、農家はそれによって低迷から抜け出せると主張する。
「牛乳の生産効率を高めれば、酪農家の収入を増やせる」と、モンサント社の酪農事業部門テクニカル・サービス統括責任者のジェニファー・ギャレット氏は語る。「乳量の多い牛は高収入を生む。ポジラックはそれを可能にする製品だ」
しかし、このホルモン剤を使わないという選択が、競争力をつける1つの道だと考える酪農家も多い。業者によっては、rBSTを使わない牛乳を特別価格で引き取るからだ。また、rBSTが人体に安全だという調査結果があっても、「100%天然」の製品を選ぶ消費者は増えている。
rBSTを使わない酪農家たちは、自分の製品にはっきり表示したいと考えている。しかしモンサント社の幹部たちは、「rBST不使用」という表示は誤解を招くだけでなく、消費者をだます不正行為だと主張する。同社は最近、このような表示をした乳製品メーカーを訴えている。
メイン州のオークハースト・デアリー社は自社の牛乳に「酪農家の誓い――人工ホルモン不使用(写真)」と表示した。これに対しモンサント社の訴状は、この表示はオークハースト社の牛乳がrBSTを投与された牛の乳よりも優れているという印象を与え、モンサント社の事業を不当に損なうものだと述べている。
ボストンの連邦裁判官は裁判の日を2004年1月5日に設定したが、裁判が決着するまでオークハースト社がこの表示をすることを差し止めるための公聴会を開いてほしいというモンサント社の要求は却下した。モンサント社の弁護士によると、同社はオークハースト社に対して損害賠償は求めず、ただこの表示をやめるよう求めるという。一方オークハースト社は、表示をやめるつもりはないと述べている。
「この表示を通して、消費者に知らせるわれわれの権利を守りたい。消費者が飲む牛乳の製造過程で何が使われており、また何が使われていないかを知らせるべきだ」と、オークハースト社のスタンレー・ベネット社長(写真)は語る。
米農務省(USDA)は、米国の酪農家の約17%がrBSTを使用し、投与されている乳牛は全体の32%にあたると発表した(PDFファイル)。その大半が、乳牛を数千頭単位で飼っている大規模農家だという。
ポジラックは、牛が乳を分泌するときに出す成長ホルモンから分離した遺伝子で作られている。この遺伝子を大腸菌に注入し、容器内で急速に培養する。これを牛に注射すると、牛が毎日出す乳の量が増えるだけでなく、乳を出す期間も長くなる。農家によると、乳を出す期間が延びるのは平均30日ほどだが、もっと長くなる場合もあるという。1155日間も乳を出しつづけた例もある。ポジラックを投与された牛の大半は、投与されなかった牛よりも約25%乳量が増えている。
ノース・フロリダ・ホルスタインズ農場(フロリダ州ベル)のオーナーであるドン・ベニンク氏をはじめ、大規模な畜産農家はrBSTの信奉者だ。ベニンク氏の農場には約3700頭の牛がいる。
「(ポジラックは)確かにある程度の管理が必要だが、これまでわれわれに多大な利益をもたらしてきた」とベニンク氏。牛乳の価格は下がったが、以前よりも多い販売量を維持できているからだという。「酪農家にとっては難しい1年だったが、全体としてはかなり成功した方だと思う」
ウィスコンシン州ボールドウィンのエメラルド酪農場とボールドウィン酪農場で2600頭の牛を飼育するジョン・ブリーズ氏は、rBSTによって牛の生命が救われるとまで言うのは言いすぎだとしても、少なくとも延命されてはきているのだと話す。搾乳の期間を延長できれば、肉として処理される時期を先延ばしにできるからだ。
だが多くの小規模な農場は、時間を割いて1回当たり5.25ドルのポジラックを注射する方法を採っていない。ポジラックは牛が乳を出しはじめてから2週間ごとに投与しなければならない。
小規模農場がrBSTを使わないのは、時間とコストがかかるという理由のほかに、ホルモンが牛に及ぼす副作用を嫌っているからだ。カナダ保健省が1999年に出した報告書は、rBSTを投与した牛は乳腺炎にかかる率が最大25%増加し、それによって牛の体細胞、すなわち膿が牛乳に混じる確率も高くなることを示している。
この調査はまた、rBSTにより牛の不妊症が18%、四肢の運動障害が最大50%増加すると報告している。このデータに基づき、カナダ当局はrBSTを認可しなかった。
欧州連合(EU)15ヵ国、オーストラリア、ニュージーランド、ノルウェーも同じ理由でrBSTを認めていない。認可しているのはブラジル、南アフリカ、パキスタン、米国など19ヵ国だ。
また、カリフォルニア農業組合の会長を務める酪農家のホアキン・コンテント氏は、rBSTのせいで畜牛の値段が上がったと話している。
「1993年にrBSTが登場したとき、私はこれで畜牛の価格が上がるだろうと考えた。rBSTは家畜にストレスをかけるため、牛の健康にそれほどよい影響を与えないからだ」
牛への副作用は証明されていても、このホルモンが人体に有害だということにはならない。米食品医薬局(FDA)が1993年にrBSTを認可するまでに、このホルモンは生物学的に人体内では活動しないという多くの研究結果が発表されていた。小人症に治療効果があるのではないかという期待から、患者に直接rBSTを注射するという実験も行なわれたが、何の影響もなかった。
FDAはこういった調査結果を根拠に、rBSTは安全だと述べている。また、モンサント社は牛乳がrBSTを投与された牛から生産されたものであるかどうかを検査する方法を提供する義務はないというのが、FDAの見解だ。
オークハースト社は、自社の製品がrBSTと無関係だということを証明するため、乳牛にホルモンを使っていないという宣誓書を酪農家に提出させている。同社のベネット社長は、これで十分な証明になると考えている(「もしメイン州の酪農家を信用できないとすれば、ほかに誰が信用できるというのか?」と同社長は述べている)が、こういったことを検査できる手段があればもっと具体的な証明になるという意見もある。
国際乳製品協会の一部門である『飲用牛乳財団』の広報担当者は次のように述べている。「検査方法があればどんなに便利かわからない。企業が『これは投与を受けていない牛です』と表示していても、実際にそれを確かめる方法がないというのは皮肉な話だ。根拠は農家の言葉しかないのだから」
(9/19に続く)
[日本語版:鎌田真由子/高森郁哉]
http://www.hotwired.co.jp/news/news/culture/story/20030918205.html