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http://www.hotwired.co.jp/news/news/culture/story/20030926207.html
Jordan Lite 2003年9月22日 2:00am PT
ジェド・サトーさんは、外交的な性格で人気者だった。だがその陰で、人知れず悩んでいた。
何を悩んでいたのか――母親のドナ・サトーさんは当時を振り返ってただその理由を推察するしかない。ジェドさんは落ち込んでいるそぶりを見せなかったからだ。アリゾナ大学で、学習障害の学生のための特別講座を受講しはじめて2年目だった。成績のことで悩んでいたのだろうか。ガールフレンドと別れて落ち込んでいたのだろうか。
「息子は多くの人に愛されていました」と言いながらも、母は考えている。5年前の冬期休暇中に別荘で首を吊ったとき、息子は耐えがたいほどの孤独を感じていたはずだと。ジェドさんは20歳だった。
それから6ヵ月後、ジェドさんと同じ大学に通っていた男子学生の1人が自殺した。
2人の自殺は大学に大きな衝撃を与えた。2人が属していた学生友愛会『ゼータ・ベータ・タウ』(Zeta Beta Tau)のロン・ジボリ会長は、罪悪感にさいなまれた。どうして自殺のサインを見逃したのか。この2人の若者を死なせずにすむ方法があったのではないか。
そこでジボリ会長とジェドさんの母ドナさん、その夫のフィルさんが、アリゾナ大学の学生たちに、自殺の問題に対処するのにどんな助けが必要かと尋ねたところ、目立って多く寄せられた要望があった。それは、気分が落ち込んだり、どうしていいかわからないとき、あるいは助けが必要と思われる友人がいて心配なときに訪問できる場所を、インターネット上に作ってほしいというものだ。つまり、他の学生にジェドさんと同じ選択をさせないようにする場所だ。
これは後に、よく先を見越した要望だったことが判明する。現在、このアイディアに注目を寄せる大学の数は全米で増える一方だ。保健当局によると、自殺は米国の大学に通う年齢層の死因としては2番目に多く、今年1年間での学生の自殺者は1000人にのぼる見込みだという。学内での精神医療サービスを求める声がかつてないほど高まり、インターネットを利用する学生がかつてないほど増えている今の時代、オンラインでサポートを提供すれば、早まったことをしそうな学生たちを救えるかもしれないと学校関係者たちは考えている。
サトー夫妻は『ジェド・ファウンデーション』(Jed Foundation)を設立し、サイト『ユーライフライン』を立ちあげた。大学と学生とをつなぐウェブサイトだ。このサイトは、大学が各自の精神医療サービスに学生たちを導くためのリソースとして利用できるようになっている。昨年のサイト開設以来、計72の大学がこの無料サービスに登録しているが、同サイトは各大学のサイトに比べ、はるかに多くのサポートや情報が集まっているとして評判が高い。各大学はこのサイトを通じて、「病気ではないかと心配なだけの人たち」――学校のカウンセリング・センターを不必要に混雑させる健康な学生――を安心させる一方で、本当に助けが必要な学生に対して、助けを求めるようそっと促している。これまでに同サイトを利用した学生の数は130万人にのぼる。
ユーライフラインではカウンセリングは行なっていないが、オンラインでのカウンセリング・サービスはセラピストとの電子メールやチャットといったかたちで存在し、そのほとんどはとくに規制など受けることなく行なわれている。ユーライフラインはとりわけ危険度の高い層を広くカバーしているという評価を受けている。
ここ4年間で、特定の精神疾患についての診断サービスを提供するサイトが多数登場したが、ユーライフラインでは、自殺の危険性と同時に、その他さまざまな精神面での問題についても評価して診断を下し、次に取るべき行動について学生に助言している。このやり方なら、自分が特定の問題を抱えていると思い込んでその確証欲しさにツールを利用するユーザー側の先入観に左右されず、より正確な診断を下せると考えられている。
ユーライフラインは各大学用にカスタマイズされており、学生には自分の住む地域の精神医療サービスが紹介される。また、自分ではこのサービスを使おうとしない学生に代わって、友人や教授が評価プログラムを利用することもできる。さらに同サイトでは、薬物や薬物の影響(抗鬱剤その他の向精神薬を服用しながら大学生活を始めた多くの学生につきまとう不安)に関する情報を集めたデータベースや、コロンビア大学が提供する『ゴー・アスク・アリス』――精神医療の専門家にセックスや男女交際について質問できるサービス――なども利用できる。
「このサイトは非常に有益だと思う。個々の大学に合わせてカスタマイズし、各校の学生の精神的ニーズに応じられるというのが実に素晴らしい」と語るのは、自殺の緊急ホットライン『1-800-SUICIDE』を設立したリーズ・バトラー氏。「われわれは、精神面の健康状態に関する診断やカウンセリングにインターネットをほとんど利用してこなかった。これはあらゆる人にとって非常に役立つサイトとなるだろうが、とくに大学生にとっては有用だ。学生のインターネット利用率はとりわけ高い。このサイトの登場で、大学生は自分や友人の精神状態に何が起こっているか、これまでよりはるかに正確に知ることができるようになった」
インターネットは、その利便性と匿名性によって、学生に精神疾患の知識を授けたり、恥だと思いがちな感情について話させることができる、魅力的な媒体になっていると専門家たちは話す。自殺する青年の90%は死亡時に精神疾患――ほとんどが鬱病――を患っているが、その時点で治療を受けているのはわずか15%にすぎない。
「精神医療のスタッフはつねに待機しているが、通常の診察時間が必ずしも学生のスケジュールと合うわけではない。夜遅くまで勉強していて、午前3時にふと自分の気持ちについて静かに考えることもあるだろう。だが、それが答えを得られる最適の時間とはかぎらない」と語るのは、マサチューセッツ工科大学(MIT)で精神医療サービスの副主任を務めるクリスティン・ジラード博士。MITでは1990年以降、12人の学生が自殺している。「確かな情報を得てからでないと、診察の予約を取るという次のステップに進むのをためらう学生もいる」
オンラインの精神医療サービスが登場したことで、1つの事実が明らかになった。それは、授業に出席しなくなり、友だち付き合いもやめてしまった鬱状態のひどい学生でも、インターネットにはログオンしつづけるということだ。
「ようやくここへやって来た人に、いつも部屋で何をして過ごしているのか尋ねると、インターネットをしていると答えることが多い」と、ニュージャージー州ニューアークにあるニュージャージー工科大学(NJIT)カウンセリング・センターのイーディス・フランク所長は話す。「インターネットは、何かに向き合おうと思えないときでも1人でできるうえ、誰かとつながっているという幻想を抱かせてくれるからだ」
フランク所長は昨年の秋、ためらっている学生をカウンセリング・センターに来させることに関して、インターネットが持つ潜在能力に強い関心を抱いた。NJITがオンラインの精神疾患診断テストを初めて提供したときのことだ。フランク所長によると、それまでは学校のカウンセリング・センターでセラピストがテストを実施しても、受けに来る学生は10人ほどだったという。だがオンラインでは、鬱病のテストを370人が、不安障害のテストを200人が受けた。以来、セラピストが扱う患者の数は大幅に増えたとフランク所長は言う。NJITが新たにユーライフラインに登録したことで、セラピーに訪れる学生がさらに増えるかどうか所長は注目している。
これは人手不足のカウンセリング・センターにとっては諸刃の剣にもなると、『デューク大学医療センター』の臨床心理学者で、ずっとユーライフラインの開発を進めているラリー・テュプラー氏は話す。だがこのプログラムに参加することで、セラピストは自分の大学の学生の精神状態について情報を集めることが可能となり、その内容をもとに学生たちの要望に合った、より効果的な精神医療サービスを提供できるようになる。このサイトでは、ユーザーIDはプライバシー保護のために暗号化されているが、各大学からの訪問者の数や、そのうち評価ツールでカウンセリングを要すると診断された学生は何人いるかといったデータは得られるようになっている。
「センターに学生が殺到しているような場合に、どの学生がどのくらい早急にカウンセラーに会うべきかという評価は、治療を優先するうえでの大きな判断材料となる」とテュプラー氏は言う。
ユーライフラインが自殺予防にどれほどの効果を発揮するかは、まだ様子を見ないとわからない。自殺ホットライン『サマリタンズ・オブ・ニューヨーク』の責任者、アラン・ロス氏によれば、自殺予防の研究はまだ始まったばかりで、データもほとんどないという。テュプラー氏は、同サイトの利用状況から助けを求めている学生がどれくらいいるか把握し、またセラピストの診断とコンピューターの診断が一致するか見てみたいと述べている。
「ユーライフラインの欠点は、しょせんただのコンピューターだということだ。学生はコンピューターの前のほうが正直になれると言う人もいるだろうが、人間が直接会って話すのと同じようにはいかない。人間による診断のほうが優れている」とテュプラー氏。
これまでのところ、学生の反応は良好だ。ジョン・ドラックマンさん(23歳)は、昨年アリゾナ大学がユーライフラインについて告知を始めたころに同サイトを利用した。ドラックマンさんは当時、勉強や人間関係のことで自分のした選択が間違っていたのではないかと悩み、落ち込んでいたという。
「僕は男だから、自分が悩んでいることを男の友人たちに打ち明けるのが辛かった。ユーライフラインは、人とじかに接しないですむところが気に入ったんだ。インターネットなら、誰にも知られずアクセスできる。匿名だから、秘密が漏れる不安もなかった」ドラックマンさんは話す。
ユーライフラインを訪れて気持ちが楽になったというドラックマンさんは、今年5月の卒業まで同サイトを告知する活動に参加した。オンラインで自分の感情を深く掘り下げることで、思わぬメリットがあったとドラックマンさんは言う。落ち込んでいることなど人に言えないと考えていた自分や友人たちが、そうした感情について話すようになったというのだ。
「サイトを広く知らせる活動をしていて、自分がこうした感情について何のこだわりもなく話せることに気づいた。僕がそうすることで、他の人たちの心も開いていったんだ」とドラックマンさんは語った。
[日本語版:天野美保/高橋朋子]
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