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「ブランドの秘密」解剖 なぜ、あのブランドばかり売れるのか?
http://www.asyura.com/0310/bd29/msg/143.html
投稿者 てんさい(い) 日時 2003 年 9 月 23 日 09:39:54:KqrEdYmDwf7cM

「ブランドの秘密」解剖
http://homepage3.nifty.com/yazaword/

なぜ、あのブランドばかり売れるのか?

 スターバックス、ソニー、日産など身近なヒットブランドを取り上げ、その売れる秘密を解剖するブランド戦略コラム。収益力アップのヒントが見つかります。


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「スターバックス」「ドトール」のブランド戦略の差  2002/7
私の勤務先は銀座一丁目にあって、その半径150メートル以内に、スターバックス、ドトール、ベローチェ、3つのコーヒーショップがあります。

スターバックスで、仮にアイスコーヒーを注文した場合、250円かかりますが、ドトールならそれが180円で飲め、さらにベローチェでは160円のところ、この店は割引券をよく配っているので実質110円で飲めてしまいます(缶コーヒーより安い!)。
見方をかえれば、スターバックスは商品を250円で売って満席にできるのに対し、ドトールでは180円、ベローチェでは110円で売らなければ、満席にできない経営状況にあるわけです。

このようにおなじような商品であっても、より高い価格で取引されているものをさして、私たちはよく「それはブランド品だから」という言い方をします。
企業にとって、自社の商品がブランド品になれば、それだけ収益性の高いビジネスを展開できるわけですから、なんとしてでもブランドとしての価値を生みだしたいと願うのは、当然の心理といえるでしょう。

ドトールも、スターバックスの日本進出以来、収益性の高いビジネスを求めて、イタリアンエスプレッソカフェ「エクセルシオール・カフェ」の出店にのりだしました。
アイスコーヒーの価格をスターバックスと同額の250円にあわせ、店舗の内装も価格に見合うだけの高級感をだしてはみたものの、ランチタイム以外はけっこう空席が目立つようです。

エクセルシオールがブランドとしての価値を高めきれない理由は、ブランドになるために不可欠な、ある重要な概念にドトールという企業が気づいていない点にあると、私は思っています。

その概念とは、「ブランドの価値は驚きの数に比例する」というものです。

ドトールという企業は、この点に気づかず、単純にスターバックスの高収益性に魅せられて、店構えやメニュー構成、価格設定といった表層的な部分だけを真似てしまい、結果的に何の驚きもない、ありきたりのコーヒーショップにしてしまった。
そこに、エクセルシオールがブランドになれない最大の原因があると、私は見ています。

今回はこのへんにして、次回から「ブランド価値は驚きの数に比例する」の詳細にふれたいと思います。

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ブランド価値は、驚きの数に比例する  2002/7
前回、スターバックスのアイスコーヒーが250円で、ドトールは180円、ベローチェなら割引券を使うと110円で飲めるという話をしました。
おなじセルフサービスのコーヒーショップなのに、どうしてこんなにも値段に差ができるのか?

「それはブランド価値の差だよ」という人がいます。
では、そのブランド価値って何なの?
「それは、そのブランドが秘めているブランド力によって生まれる価値さ」。

これじゃあ、話が堂堂巡りです。
そこで、私は、断言したいわけです。
「ブランド価値は、驚きの数に比例する」と。
スターバックスがベローチェよりも140円高い理由は、「驚きの数の違いです」といいたいわけです。

どうですか。
これなら、いたって単純明解な話でしょ。
人は、驚きも、感動もないものに、高いお金なんて支払いたくはない。
ただそれだけの話です。

ここに、スターバックスから得られる驚きを、思いつくままに挙げてみましょう。

驚き1:全席禁煙(ドトールは、タバコの煙でいつもモクモク)。
驚き2:レジで注文してから、商品が出てくるまで、けっこう待たされる(それだけ手間隙かけて作っている証拠?)。
驚き3:フラペチーノ(フローズン状のこんなコーヒードリンクはスターバックスができるまでなかった)。
驚き4:ミルクをノンファット(無脂肪)に変えるなど、細かい注文を聞いてくれる。このまえ、フラペチーノ硬めで! と注文する人を見た。
驚き5:バリスタ(コーヒーを入れるプロを「バリスタ」と呼ぶなんて、スターバックスで初めて知った)。
驚き6:私がよく通っている銀座マロニエ店には、ホテルのラウンジにあるようなソファが置かれ、定期的にジャズのライブ演奏が開催される。
驚き7:専用の容器を買って持参すると、コーヒーの値段が割引かれる(割引の発想がエコっぽい)。
驚き8:テイクアウトといっても、袋に入れてくれない(これもエコっぽい)。
驚き9:子供専用の低価格なジュースがある。

まだまだありますが、このへんにしておきます。
スターバックスはこのようないろんな驚きを私たちに提供してくれているんですね。

そこで、驚いた私たちの脳内で、何がおこるかというと、驚きのひとつひとつが脳内にある引出しに収納されていくわけです。
そして、驚きの数が一定量を超えると、引出しの前面に他の引出しと区別するためにラベルが貼られます。
「STARBUCKS」と記されたラベルが。
これがブランドイメージといわれるものです。
こうしてブランドイメージが確立されると、街でスターバックスの看板を目にするたびに、もう条件反射的に脳内の引出しが開いてしまいます。
そして、引出しの中の驚きの数が多ければ多いほど、多様であればあるほど、それを求めて、またその店に入ってしまう、というわけです。

スターバックスに行けば、アイスコーヒーに250円を払っても、それに見合うだけの驚きを用意してくれている。
それに比べると、エクセルシオールにはおなじ250円を払っても、それほどの驚きが得られない。
ようするに、「驚きの数」と「値段」が釣り合っていない。
だからエクセルシオールには空席ができるのです。

コーヒーショップの話しばかりではなんなので、ソニーの話もしておきましょう。
ソニーが他のメーカーの商品より、高い値段で売れるのは、驚きのある商品を作りつづけてきたからです。
小型のトランジスターラジオに、トリニトロン、ウォークマンに、ベータ(これはVHSにやられてしまいましたが)、パスポートサイズの8ミリビデオカメラに、MDに、アイボに、バイオと、驚きのある商品ばかりを世に送り出してきました。
こうした連続性によって、人々の頭の中にソニーのブランドイメージができあがり、「SONY」の文字を見ると、その商品の値段が少々高くても財布の紐をゆるめてしまう。
どうです、スターバックスとまったく同じ構造でしょ。

というわけで、1つや2つの驚きを提供するくらいでは、ブランドにはなれないわけです。
偉大なブランドとは、絶え間なく驚きを生みだそうとする企業努力の結果としてできるものであって、あらかじめブランドになるための秘訣やトリックといったものが存在するわけではないのです。

じゃあ、おまえのいうブランド戦略って何なんだ?
とそろそろツッコミが入りそうですね。

私がこれからお話していくブランド戦略とは、「ラクしてブランドになる方法はない」という現実をうけとめながら、それでもなおブランドを目指して発展していきたいと願う企業の方々に、ぜひ実践していただきたい戦略なのです。

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「不景気だから売れない」という言葉の罠  2002/8/6
先日、このサイトの開設を、知り合いの方々にメールでお知らせしたところ、大日本印刷の志村さんから、「ブランドの秘密の解剖、楽しみにしております」という返信をいただきました。
ブランドの秘密の解剖か、うーむ、これは驚きがあって、けっこうソソられる語感だなぁ。
よっしゃ、このコピーいただき!
というわけで、本日からサイトのタイトルを「ブランドの秘密」解剖ファイルに変更させていただきます。
志村さん、サイトの名付け親になっていただき、本当にありがとうございます。

さて、今回は「不景気」をテーマにお話したいと思います。
「不景気だからモノが売れない」という人がいます。
「不景気」→だから→「モノが売れない」
この考えは一見正しいように思えますが、実は間違っています。

「不況だ」「デフレだ」とマスコミが騒ぎたてても、売れるモノは売れています。
前述したスターバックスはその典型。
他のコーヒーショップより高い価格でコーヒーを売っていながら、多くのお客を集め店舗数も増やしつづけています。
ですから、「不景気だからモノが売れない」のではなく、「モノが売れないから、不景気になった」のです。

では、モノが売れない本当の理由は何なのか?
それは、多くのモノに驚きがないからです。
人間は驚きたがっているのに、多くの企業がその期待に応えきれないでいる。
こういう状況の中で、スターバックスは消費者に多様な驚きを提供しているわけですから、一人勝ちするのも当然なわけです
(そっくりさんのタリーズコーヒーも健闘しているようですが)。

では、なぜ多くの企業は驚きを提供できないのでしょう?
それは、人が本質的に求めているのは、物質そのものではなく、モノから派生する驚きのほうであることを、多くの企業が見過ごしているからではないでしょうか。

ソニー元会長、盛田昭夫さんの著書「MADE IN JAPAN」に、こんな一節があります。
松下氏(松下幸之助)は以前、私と話していて「うちには、ソニーという研究所が東京にありましてなあ、ハッハッハッ」と笑ったことがある。
「ソニーさんがね、何か新しいものやってね、こらええなとなったら、われわれはそれからやりゃあいい」と言う。
あの徹底した商売の精神は私は偉いと思う。

盛田さんは多少の皮肉をこめて「偉い」と表現していますが、実はこの高度経済成長期の頃から、日本の多くの企業が松下とおなじような発想に陥り、自ら驚きを生みだす気概を失いはじめたのではないかと、私には思えるのです。
そして、モノをつくれば、それが飛ぶように売れたこの時代に、多くの企業が驚きではなくモノ自体に価値があると勘違いしてしまったのではないか・・・と。

ところが、そんなモノ不足の時代はいつしか終わり、反対にモノ余りの時代になってしまったのです。
もうこうなると、驚きのないモノは売れません。
にもかかわらず、多くの企業がいまだに他社と似たり寄ったりのモノを生産しつづけ、景気が回復すれば、また売れ出すだろうと期待を寄せている。

繰り返しますが、人が求めているのは、モノではなく驚きです。
いま、モノが売れないのは、そこから派生する「驚き」が欠けているからです。
それを不景気のせいにしていたら、もうその思考回路は、「責任転嫁」「問題の先送り」「思考停止」以外の何ものでもありません。
この先、一刻も早く、各企業が「驚き」を創造するという原点に立ち戻り、「ブランド」重視の経営を進めていかない限り、景気回復の兆しも見えてこないだろうと私は思っています。

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ブランドになるための「驚き」のつくり方1  2002/8/7
驚きをつくらなければ、ブランドにはなれません。
では、その驚きをどのようにつくっていけばいいのでしょうか?

驚きを生みだすためには、まず「驚き」とは何なのかについて理解しておく必要があります。

未知のものに出会ったときや予期せぬことが起こったときに人は驚きを感じます。
つまり「驚き」とは、人の脳にすでに記憶されていた情報と、新たにインプットされてきた情報との、ギャップによって引き起こされる感情です。
そのギャップが大きければ大きいほど、驚きの度合いが大きくなるわけです。
これについては、テレビの進化を例にあげながら、もう少し詳しくみていきたいと思います。

テレビがこの世に初めて登場してから、もう50年以上経っていますが、テレビの進化はいまなおとどまることはありません。
では、その進化の過程で、人が一番驚きを感じたのは、いったいいつの時点でしょうか?

私はまだ生まれていなかったのですが、おそらくテレビが初めてこの世に出現したときの驚きが、一番大きかったのではないでしょうか。
それまで、放送といえばラジオだとみんなが思っていた時代に、突如、電波によって画像が送られてくるテレビという物体が登場したわけですから。

その次に驚いたのは、おそらく白黒からカラーになったときでしょう。
それまで、テレビといえば白黒だったものがカラーに切り替わったわけですから、誰だってカラーで見たくなる。
それで、またたくまにカラーテレビが普及していったわけです。

では、その次に驚いたのはいつでしょう?
これはかなり見解が分かれるでしょうねぇ。
私の経験からすると、チャンネルがダイヤル式からプッシュ式に変わったとき、あるいは、リモコンが出たあたりでしょうか?
それからも、音声多重が出たり、画面が横長のワイドテレビが出たり、ハイビジョンになったり、フラット画面になったり、デジタル放送になったりと、テレビの性能は進化しつづけているのですが、新しいテレビが出たからといって、かつてのように、みんながそれを買うということはもう起こらなくなってしまいました。

それはどうしてでしょう?

「大衆の時代が終って、個の時代になったから?」
違います。
「バブルがはじけて以降、日本が不景気になったから」
それも、違います。

答えは、技術がいくら進歩しても、驚きが低下してくるからです。

テレビの進化でいえば、白黒からカラーに切り替わった時点で、現在のテレビというものの原型がほぼ完成してしまい、それ以降、性能の進化に対する消費者の驚きが鈍りはじめたのです。
技術的には、白黒からカラーになったのと、アナログからデジタルになったのが同じくらい革新的であったとしても、消費者側の驚きという観点からすると、白黒からカラーに切り替わったときのほうが、だんぜん衝撃的なわけです。
このように、技術の進化があるラインを超えてしまうと、それをピークに驚きが低下しはじめる。
これ、メーカー側にとっては何とも恐ろしいことですよね。
そして、ここからモノが売れないという苦悩がはじまるわけです。

こういう状況にあるのは、何もテレビに限ったことではありません。
テクノロジーの発展によって、ありとあらゆるものの性能が、もうすでに一定のラインをクリアしてしまっています。
驚きをつくりづらくなったこの時代に、これからどのようにして新たな驚きを生みだしていけばいいのでしょうか?

その方法としては、大きく2つの方向性があるように思います。

(次回に続く)

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ブランドになるための「驚き」のつくり方2  2002/8/7
技術やサービスのレベルが一定ラインをクリアしてしまった成熟化社会で、これからどのようにして新たな驚きを生みだしていけばいいのか。

その一つ目の方法は、技術やサービスの向上によってもたらされる「いい」「悪い」という相対的な価値ではなく、「好き」「嫌い」という嗜好性の価値によって、驚きをつくってみてはどうかというものです。

製造業でいえば、少し古くなりますが、iMacあたりがこれに当てはまるように思います。
アップルコンピューターが製造しているMacは、画像処理の用途に特化したコンピューターで、デザイン関連業界の中では、圧倒的なシェアを誇っています。
しかし、コンピューター市場全体でみると、一般的な事務処理に向くWINDOWSのシェアが圧倒的多数を占め、Macのシェアはわずか5%たらず。
バージョンアップを重ねて、画像の処理能力をあげても、アップルコンピューターはそれほど大きな驚きを生めなくなり、iMac発売直前まで、苦境に追い込まれていました。

そこでアップルコンピューターは、何を考えたか?
前述のとおり、Macはもともとデザイン関連の人々から支持を得ていたのですが、その外観のデザインにおいては、特筆すべき特長をそなえていませんでした。
つまり、Macはコンピューターの性能の面ではターゲットであるデザイン関連の人々のニーズを満たしていたものの、嗜好性にかかわるデザインの面では、ターゲットに対してそれほどの驚きを提供し切れていなかったわけです。
そこで、これまでのコンピューターの常識を覆す、スケルトンボディー(内部が透けて見えるボディー)に、カラーバリエーションも豊富に揃えiMacを登場させたわけです。
すると、何が起こったか?
なんと、デザインの仕事とは関係のない一般のOLや学生から、「こういうコンピューターなら、インテリアとしても部屋に置きたい」と指示されるようになったのです。
これをきっかけにMacは復活を遂げます。
このように嗜好性を高めることで、そこに強い共感を覚える人々がターゲット層以外からも見つかり、新たな顧客獲得の可能性が広がるのです。

もう一つ、サービス業の例もあげておきます。
「またか」といわれそうですが、スターバックスです。
スターバックスが取り扱っているのは嗜好品の代表ともいえるコーヒーそのものです。
もともと「コーヒーが好きだ」という嗜好性をもつ人々を対象にしているわけですから、その嗜好性を満たす方向で、コーヒーの品質以外の面、空間やサービスなどの質も徹底的に研ぎ澄ましていけばいいわけです。

コーヒーを飲む最高の環境を提供するには、タバコの煙は邪魔。
そう考えたスターバックスは全席禁煙にしました。

コーヒーを飲むときにふさわしいBGMとは?
そう考えたスターバックスは、音楽にこだわるだけでなく、実際にオリジナルのCDをつくり、店頭で販売しています。

また、先日、スターバックスでこんな光景を目にしました。
メニューを見て「コーラはないの?」というお客に対し、店員はこう答えました。
「うちはコーヒー屋ですので、コーラは置いていません」。

もうお気づきかと思いますが、徹底的に嗜好性を高めていくと、一部のお客を拒否することになります。
「うちは心底コーヒー好きの人々に来てもらいたい。
だから喫煙者は来てもらわなくていい。
コーラを飲みたい人は他の店でどうぞ」と宣言しているようなものですから。

しかし、ここに大きなポイントがあるのです。
通常の考え方をすれば、喫煙者にも来店してもらったほうがお客が増えるじゃないか、コーラも揃えておいたほうが、コーラが飲みたいというお客の希望にこたえられるじゃないか、とつい思ってしまうわけです。
でも、そこに落とし穴があるんですね。
そんな喫茶店は日本中どこにでもあって、何の驚きもなく、到底ブランドにはなれません。

確かに、嗜好性を高めれば、ある一部のお客を拒否することになります。
しかし、喫煙者をシャットアウトすることによって、スターバックスの店内はいつもコーヒー豆の香りに包まれ、コーヒー好きのお客から絶大な支持を得ることに成功しているわけです。

iMac、スターバックスのどちらにも共通していえるのは、めざすべき嗜好性を明確に規定していること。
これによって、おなじ嗜好性をもつ人々が引き寄せられ、熱烈なファンと化していく。
その構図は、ガンコ親父のいる店に、そのこだわりを指示する常連客が集まってくるのとまったく同じです。
「類は友を呼ぶ」といいますが、友を呼びためには、まず自らの嗜好性を具体的なカタチにして表明する必要があると、結論的にいえる気がします。

驚きをつくるもう一つの方法については、また次回で。

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ブランドになるための「驚き」のつくり方3(JR東海の例)  2002/8/7
驚きをつくる2つめの方法は、お客の行動に垣間見える「潜在的ニーズ」に着目し、そこから驚きをつくりだしていきます。

例として、JR東海をとりあげたいと思います。
JR東海の売り物は、いうまでもなく東海道新幹線です。
切符を売り、お客を目的地まで運べば、JR東海としての仕事は一応完了します。
しかし、ここでJR東海の「そうだ、京都行こう」のCMを思い出してみてください。
CMの中で、新幹線という商品の利便性や快適性といったものが語られているでしょうか?
何ひとつ語られていませんよね。
CMに出てくるのは、京都の風景やお寺で、新幹線の走行シーンは最後にほんの少し映し出されるだけ。
なぜ、JR東海は商品そのものの魅力を伝えず、京都の風景やお寺の魅力を宣伝しているのでしょう?
その答えは、お客が新幹線に乗るのは、あくまで京都に行くための手段。
お客が本当に求めているのは「京都の旅を楽しむこと」だからです。

JR東海が売っているものは「新幹線」。
お客が買おうとしているのは「新幹線を降りたってから始まる京都体験」。
ここにタイムラグがあります。
このタイムラグによって、多くの企業は勘違いしてしまうんですね。
お客はモノやサービスを提供した時にお金を支払ってくれるので、モノやサービスそのものを買ってくれているんだと。
それで、モノやサービスの向上ばかりに意識が行ってしまい、その質の向上に行き詰まってしまうわけです。

最終的にお客は何を得たいがために、その商品なりサービスを買っているのか?
それを見抜くことができれば、JR東海のように、まだまだ新たな驚き(京都の知られざる魅力)を提供でき、ひいては商品(新幹線)そのものの利用価値を高められるのです。

もう一つ例をあげます。
私は、近所のドトールにノートパソコンを持ち込み、いまこの原稿を書いています。
家では、なかなか原稿を書く気分になれず、環境の変化を求め、コーヒーを飲みながら原稿を書こうとドトールにやってきました。
ところが、この店には電源がありません。
パソコンのバッテリーが切れしだい、原稿は書けなくなります。
周りを見渡すと、テーブルでパソコンを叩いているのは私だけではありません。
アメリカには、こういう私のようなニーズ(コーヒーを飲みながら原稿を書きたい)に応えてくれるお店が既に存在しています。
スターバックスが経営する「サーカディア」というお店で、テーブルにはパソコン接続用のデータポートがあり、ノートパソコンのレンタル、フロッピーディスクの販売、さらにプレゼンテーション用のモニターをそなえた貸し会議室まで用意されているそうです。

「コーヒーショップは人がくつろぐためにあるもの」。
そういう常識にとらわれると、お客の潜在的ニーズを見過ごし、サーカディアのようなショップはおそらく生まれなかったでしょう。
お客の行動を見ていて、「最近、パソコンを持ち込むお客さんが増えたな」、そこに気づけるかどうかがポイントになるわけです。

こういう潜在的ニーズは、お客にアンケート調査を行なっても、なかなか浮かび上がってはきません。
飲食店に行くと、ときどきアンケートの協力を依頼されますが、たいていの場合、「料理の味はどうでしたか?」「サービスはどうでしたか?」という質問事項に、「よかった」「まあまあ」「よくない」というような回答が設けられています。
たとえ、意見や要望を自由に書き込める欄があったとしても、こうしたありきたりの質問から収集できる情報は、現状の商品やサービスに対する不満、もしくはその改善策です。
アンケートで「接客の態度がよくない」とわかって、それを改めたところで、そんなことはサービス業にとってあたりまえの行為であり、ブランドになるほどの驚きにはつながりません。

お客は、企業側が一番知りたい「潜在的ニーズ」を言葉にして教えてはくれません。
それはお客自身が、自分のニーズをはっきり認識していないからです。
行動に現れてはいても、意識の面で自覚しきれていない。
この原稿を書いている私自身、パソコンを持って自らコーヒーショップに行っているにもかかわらず、サーカディアの存在を知るまで、コーヒーショップに「オフィス的ニーズ」があることを認識できていませんでした。
つまり、実物を見せられるなり、指摘されるなりするまで、お客は自分の中にあった「潜在的ニーズ」を言葉にして表現できないのです。

ですから、驚きをつくるためには、お客の行動をよく観察して、最終的に何を求めて商品なりサービスを買っているのかを見抜くほかに手はないのです。
机のまえに座って、アンケート用紙とニラメッコしたところで、お客が本当に求めている新しいニーズを見つけることはできないのです。
自ら現場に立って、お客の行動を観察し、その行動の裏に隠された「潜在的ニーズ」を見つけ出せれば、まだまだブランドになるための驚きを生みだせるはずです。

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「TUMI」のブランド力は、機能のわかりやすさ  2002/9/6
電車通勤をしていると、「TUMI」のバッグをもつビジネスマンをよく見かけます。
「TUMI」はアメリカのバッグメーカーですが、ここ数年で日本での売上を伸ばし、銀座や丸の内に路面店を構えるようになりました。
お店を覗くと、何百種類ものビジネスバッグや旅行用のバッグが並んでいます。
私の目からは、どのバッグのデザインも何の変哲もないありきたりなものにしか見えないのですが、プライスは、それに反してかなりお高めです。

なのに、なぜ「TUMI」は売れるのでしょうか?

それは「防弾チョッキの素材」でつくられているからです。
バッグを買うとき、耐久性を重視して選ぶ人に、この「防弾チョッキ」という言葉は効きます。
ここで仮に「このバッグは耐久性にすぐれたバリスティックナイロンでつくられていまして・・・」と説明していたら、おそらく「TUMI」はこれほど売れなかったでしょう。
バリスティックという名前からは、どれほどの耐久性を備えている素材なのか、普通の人にはまったく想像がつかないからです。

極端な話、素材名なんて何だっていいんですね。
重要なのは、その意味合いと説明の仕方。
「防弾チョッキの素材」と一言いうだけで、お客はその言葉からイメージを膨らませ、「耐久性にすぐれている」なんていわなくても、かってに耐久性の凄さを了解してくれるわけです。
「防弾チョッキの素材でできた旅行バッグなら、空港で少々手荒に荷物を取り扱われても大丈夫だな」とかってに想像してくれるわけです。

耐久性にすぐれていることを売りにしたいなら、このように「耐久性にすぐれている」といわずに、いかに耐久性の凄さを伝えられるか、ここがポイントになってくるのです。

そして、説明の仕方がポイントになるということは、ここでもう一つ、重要なポイントが浮かびあがってきます。
それは、説明をわかりやすくするためには、必ずしもゼロから新素材を開発する必要はないということ。
どういうことかというと、耐久性のすぐれたバッグをつくるために、たとえば「東レ」のような素材メーカーと組んで新素材を開発しようなんて、つい考えてしまうところなのですが、「説明のわかりやすさ」という観点からすると、これは逆効果なんですね。
だってそうでしょ。
今までになかったものをゼロからつくりだすわけですから、それを説明するには、図解や実証データをまじえる必要性なども生じ、もの凄く骨が折れるわけです。

つまり、いろんな努力をしてわざわざ新素材を開発しても、その特徴を一言で言い尽くせなくなるため、なかなかお客に理解されず、労力の無駄に終わる可能性が増すのです。

重要なのは、ゼロからつくりあげる「創造力」より、むしろ「編集力」の方でしょう。

丈夫なバッグをつくろう。
そう思ったら、他の分野に使われている素材で、何かバッグとして使えるものはないだろうか? と考えたほうが、驚きのあるブランドをつくるうえでは有利に働くのです。

「TUMI」の利口な点を、もうひとつ紹介しましょう。
「TUMI」の旅行バッグについているキャスターは、インラインスケート(ローラーブレード)のタイヤ。
ほらほら、もうこの一言で、いかにスムーズに移動できるかが目に浮かぶでしょ。

最後に、もう一つ、内輪話を披露して締めくくります。
何年か前に、私の家族がプラダの大きなスポーツバッグを買ってきました。
何の変哲もないナイロン製のスポーツバッグだったのですが、値段を尋ねると、確か5万だとか6万だとかいったので、「そんなスポーツバッグなら、普通のカバン屋さんに行けば
同じようなものが数千円で買えるだろう。
ただプラダのマークがついているだけじゃないか」と私は少々憤慨してしまいました。
すると家族は一言、こういったのです。

「でも、このバッグ、パラシュートの素材でできているんだよ」。

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「モーションエレメント」の驚き  2002/10/2
今回は、私がこの夏体験したバーゲンでの驚きをご紹介します。
JUNが出している「モーションエレメント」というファッションブランドをご存知でしょうか?
近未来のオフィスで働くモバイル世代のビジネスマンを想定してつくられたブランドで、スーツにはコンピューターの電磁波を防ぐ素材が使われ、パンツには携帯電話用のポケットがついていたりします。
今年から新宿の百貨店でも買えるようになって、そのバーゲンに行ったのですが、そこで驚くべき体験をしてしまったのです。

買い求めたスーツとシャツを包装してもらっている間に、店内を何気なく見渡していると、気になる靴が見つかりました。
店員さんに自分のサイズを告げて、探してもらったのですが、残念ながら売り切れでした。
バーゲンですから、サイズがなければ、もうあきらめるしかありません。

ところが、ところが、店員さんは私にこう言ったのです。
「いまコンピューターで調べたら、丸の内のお店に一足在庫がありました。
よろしければ取り寄せましょうか?」

えぇぇぇ、バーゲンなのに、取り寄せてくれるの?
利益率の低いお客に対して、そんな過剰なサービスをしていいの?
私はその感激から、逆に恐縮してしまい、「いや、いや、私が丸の内のお店に取りに行きます。
会社が銀座なので、丸の内なら帰りに寄れば近いので」。
その2日後、私は丸の内のお店で、お目当ての靴を4割引で手に入れたのでした。
さらにさらに、そのお店で、私はまたもや好みのシャツを見つけてしまいました。
でも、そのシャツのサイズはM。私のサイズはL。
残念そうな私を見て、店員さんは、こう言いました。
「そのシャツ、お似合いですね。Lサイズの在庫がないか調べてみますね・・・あ、名古屋にありますね。お取り寄せしましょうか?」。
「じゃあ、お願いします」。
「こちらに到着次第、ご自宅にお送りすることもできますが、どういたしましょう?」。
「配送料は?」。
「500円かかりますが・・・」。
「送ってください」。

さて、ここからがポイントです。
バーゲンでこのような手厚いサービスを受けて感激した私は、その後どんな行動をとったでしょうか?

その後の行動1
バーゲンなのに、こんなに親切にしてもらっては、あまりに申し訳ない。何かお返ししなくてはと思い、セール除外品のベルトを一本、定価で購入。(利益率アップ) その後の行動2
「バーゲンでの取り寄せ」初体験に、沈黙を守れず、10人以上の人にその初体験の模様を語り聞かせた。(口コミ効果)

その後の行動3
それでもまだ語り足らず、とうとう、こうして文章にまとめ、600人以上のメルマガ読者に配信してしまった。(パブリシティ効果)

私はプロの広告屋です。
これまで、けっしてタダで広告を引き受けたりしたことはありません。
にもかかわらず、モーションエレメントについて、こんなにも無料で宣伝してしまいました。
「顧客満足」を向上させれば、口コミで評判が広まり、広告費を縮小できるという説は、どうやら真実のようです。

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バーゲンにおけるブランド戦略  2002/10/11
バーゲンであるにもかかわらず、サイズ切れの商品を他店舗から取り寄せてくれる「モーションエレメント」の顧客サービスについて前号で触れました。
しかし、読者の方の中には、割引価格で売っているのに、そこまで顧客サービスを高める必要があるのかと、疑問に思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで、バーゲンにおける「顧客サービス」の是非について、ブランド構築の観点から、もう少し掘り下げてみたいと思います。

バーゲンで顧客サービスが不要に思える最たる理由は、おそらく「忙しくて、それどころじゃない」という物理的制約によるものでしょう。
お客さんが殺到するバーゲンでは、いつもの接客は不可能。
この点については私も納得です。
しかし、バーゲンも3、4日目に入ってお客さんが減り、通常の営業日となんら変わらない状況になった場合は、どうでしょうか?
こうなると、「いつもの接客は不可能」という物理的制約は、もう解消されています。
にもかかわらず、たいていのお店は、サイズ切れの商品を他店舗から取り寄せてくれたりはしません。
通常の営業日なら当たり前にやっていることなのに、どうしてやってくれないのでしょう?

第1の理由:「いつもより安い」=「顧客満足」と考えているから。
第2の理由:通常より利益率が落ちるバーゲンで取り寄せをすれば、その経費によってさらに利益率が悪化してしまうから。

二つとも、もっともらしい理由のように思えますが、第1の理由については、あきらかに嘘が含まれています。
そもそもバーゲンというのは、シーズン遅れの在庫品を処分するために実施されるものであって、それはあくまで企業側の事情によるもの。
それを「半期に一度、お客様に利益を還元!」なんていって「顧客サービス」を行っているかのように見せている企業が、なんと多いことか。
ここから、バーゲンにおける顧客サービスの手抜きが始まるわけです。

第2の理由としてあげた「取り寄せによる利益率の悪化」にも矛盾点があります。
バーゲンでの売れ残りは、企業にとっての不良在庫になってしまいます。
何の利益も生まない不良在庫を抱えるくらいなら、取り寄せの配送コストが少々かかっても、各店舗ごとで顧客を紹介しあい、在庫を減らしたほうが、会社全体としての利益につなるのではないでしょうか。

つまり、バーゲンでの取り寄せは、企業側には在庫処分のメリットをもたらし、顧客側にサイズ切れの商品が手に入る幸運をもたらしてくれるわけです。
企業、顧客の双方にメリットをもたらすこうしたサービスを、なぜ、多くの企業がいまだ実行しようとしないのか?
これは見方を変えれば大きなチャンスです。

顧客サービスの水準が全体的に低下するバーゲンで、通常どおりの顧客サービスを実行するだけで、それが強烈なインパクトとなり、顧客の心にブランドを印象づけることができるからです。

バーゲンこそ、ブランドの驚きを認知させる絶好のチャンスとご記憶ください。

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利益とともにブランド価値を下落させるもの  2002/11/13
今回は、駅前や路上でよく配布されている「割引券」に関するお話です。

file1でもご紹介しましたが、コーヒーショップの「ベローチェ」は、50円引の割引券を頻繁に配っています。
これをもらうと通常150円のコーヒーが100円(缶コーヒーよりも安い値段)で飲め、私もよく利用させてもらっているのですが、ブランド構築の観点から見ると、割引券の配布には大きなデメリットがあります。
こういうサービスは即刻とりやめたほうが賢明でしょう。

割引券の配布が、なぜいけないかと言うと、ベローチェのようなセルフサービスのコーヒーショップでは、注文の際にお客が列をなしているため、自分の前後にいるお客が商品をいくらで買っているかが見えてしまうからです。
仮に自分がコーヒーを注文して、正価の150円を支払ったとしましょう。
自分の後ろに並んでいたお客が同じコーヒーを注文して割引券を出し、100円で買っているところを見てしまったら、あなたはどんな気分になりますか?
私の場合(これは実体験なのですが)、こんな感じで怒りがこみあげてきました。

なんで俺が150円払ってるのに、こっちのお客は100円でいいんだよ。
割引券をもらえたか、もらえなかったかなんて、単なる偶然だろ。
もらえた人間はラッキーで喜んでいるかもしれないけど、もらえなかった俺はアンラッキー!
だいたい気分をリフレッシュしたくて、コーヒーを飲みにやってきただけなのに、なんでこんな不愉快な思いをさせられなくちゃいけないんだよ。
割引をやるんなら公平にやれってんだ!
吉野家とかミスタードーナツみたいに期間を決めてやるとかさ。
・・・あれあれ、なんだよ、この店員、俺がこんなに不愉快な気分になっているのに、にっこり笑って「ありがとうございます」だってさ。
もしかして、正価でコーヒーを買ってしまった俺のこのくやしさが、まったく分かってないのか?
く〜、この無神経さがまたまた癇にさわるんだよナ〜。

こんな思いをして以来、私は、割引券をもらった日にしか、ベローチェを利用しなくなってしまいました。
正規の料金を支払うなら、近くにあるドトールかスターバックスに行ったほうが、不愉快な思いをしなくて済むからです。

さて、ここで着目してもらいたいのは、もともと割引をしなくても来店してくれているお客(利益率の高いお客)に対して、このような心理的なダメージを与え、他の競合店にお客を逃がしてしまっている点です。
割引券を配れば、確かに一時的には客入りが増えるでしょうが、顧客単価が30%強も落ち込んでいて(割引券の印刷費やそれを配布する人件費を含めれば実質それ以上の落ち込み)、利益の面でもけっして有効な販促手段とはいえません。
こんなことを繰り返していると、正規の料金で商品を買ってくれる大切なお客が、みんな他の競合店に流れていってしまい、お店に来てくれるのは割引券をもらったお客ばかりになってしまうでしょう。
こうなるともう、連日割引券をばら撒かなくてはお客が来なくなるという、最悪の事態を招くことにもなりかねません。

大切なことは、売上ではなく、利益を上げるための方策を練ることです。
売上が伸び悩むと割引券を配って数字の帳尻あわせをしている行為は、ただ単に問題の先送りをしているとしか言いようがありません。

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日産の目に見えない(?)デザイン戦略1  2002/12/12
10月にJIDA(日本インダストリアルデザイン協会)の主催する講演会で、日産のカルロス・ゴーン社長がデザインについて基調講演を行うというので、参加してきました。

ゴーんさんは、やっぱりすごい人ですねぇ。
お得意のマネージメントの話ではなく、デザインの話をさせても、問題の核心をついてい、論理的で奥が深い。

あまりにタメになる内容だったので、このメルマガでご紹介しようと思っていたのですが、なんと、なんと、私がもたもたしている間に、週刊誌などのメディアで先に報じられてしまいました。(2ヶ月も、もたもたしてれば、そりゃ先を越されるわな!)

メディアと同じことをいまさら語っても新鮮味がないよなぁ、と思い悩みながら会社の資料室で雑誌SPA!(12/3号)を眺めていると、日産のデザイン本部長の中村史郎さん(日産のコマーシャルに出てくる、あのジェスチャーを交えながら、熱く車を語る、細身で髭をはやしたメガネの人)のインタビュー記事を発見。
これはネタに使えるかも、と思える箇所を見つけたので、ここに抜粋させていただきます。

・・・大事なのは、デザイン全体の戦略です。
日産は、メルセデスやBMWのように、デザインを揃えることはしません。
しかし、目に見えない一貫性を持たせたい。
形は違うけど、どれも日産のデザインらしいな、と思っていただきたい。
つまり、料理は違ってもシェフはひとりだと感じていただきたいんです。

中村さんは、「目に見えない一貫性を持たせたい」と言っていますが、実は、最近の日産の車には、目に見えるところで一貫性を持たせている部分があります。

それはどこだか、皆さん、わかりますか?
こんど街を歩いていて、新しい日産の車を見かけたら、ぜひ、車の背後に周って、車種名をよ〜く確認してください。

「FAIRLADY Z」「MARCH」「SKYLINE」「PRIMERA」・・・
できれば、同じ場所に日産の車が2台(異なる車種)あれば、比較できて気づきやすいと思うのですが、車種の英文字をじ〜っと見つめていると、ある共通点が浮かび上がってくるはずです。

読書の皆さんの、せっかくのお楽しみを奪うのもなんなので、ここはあえて答えを公表しないことにします。(意地悪?)
もし、その答えを発見できたら、「料理は違ってもシェフはひとりだと感じていただきたい」
という中村さんの言葉の真意が、より深く理解いただけるはずです。

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日産の目に見えない(?)デザイン戦略2  2003/1/10
明けましておめでとうございます。
皆様は、年末年始、どのように過ごされましたでしょうか?
私はですね、東京から実家のある大阪の方へと帰省し、深津絵里も通う心斎橋の「川福」といううどん屋さんに「玉だいこ」(かき揚と目玉焼きが合体した具)を食べに行ったり(店員さん情報では、深津さんは「蛸だいこ」と「揚げもちだいこ」のファンだとか)、奈良の東大寺に大仏を見に行ったりして年末を過ごし、新年は「ベッカム」と「たこせんべい」で有名な淡路島で迎えました。

年末の奈良は、京都に観光客を奪われているせいか人出が少なく、鹿たちは鹿せんべいをもらえず、かなり飢えておりました。
せんべいを一枚鹿にあげようものなら、まるでストーカーのようにどこまでもつきまとわれてしまう始末。
なかにはかなり凶暴なやつがいて、オバさんのポケットから観光用のパンフレットを強引に奪いとり、キャーキャーと悲鳴をあげる人間を尻目に、何食わぬ顔でむしゃむしゃと紙を食っている鹿もおりました。
鹿が紙を食べるなんて初めて知りました。
もしかすると、山羊の先祖はお腹をすかした鹿だったのかもしれません。

前置きはこのへんにして、そろそろ本題に入りましょう。
まずは、前回のお答えから。
「FAIRLADY Z」「MARCH」「SKYLINE」「PRIMERA」・・・の車種名の英文字に含まれている共通点とは何か?という問題でしたね。
答えは、書体です。
つまり文字の形が同じデザインなんです。
手書き文字でいうなら、筆跡が一致していることになります。
「料理は違ってもシェフはひとりだと感じていただきたい」という日産のデザイン本部長・中村史郎さんの発言の真意が、これでお分かりいただけたかと思います。

ここで「な〜んだ、たかが書体かぁ」と、あなどってはいけません。
一見どうでもいいようなことに思えるかもしれませんが、視覚に訴える情報ほど人間の潜在意識に多大な影響を及ぼすものはないのですから。
「人は第一印象が大切」とか「百聞は一見に如かず」とよく言うじゃないですか。
ブランドの印象も、目に見えるデザイン面の管理がどれだけ行き届いているかによって、大きく左右されるのです。

では、実際に商品名の書体を統一するのと、しないのとでは、顧客サイドから見て、どのような違いとなって脳に記憶され、ブランドイメージに影響を及ぼすことになるのか。
そのあたりのからくりについて、また次回、お話を進めていきたいと思います。

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日産とホンダのブランド戦略の違い  2003/2/27
前号では、日産の車種名を示す「MARCH」「SKYLINE」「PRIMERA」などの文字が、同じ書体で統一されていることについて述べました。(ただし「FAIRLADY Z」の文字は、スピード感を表現するためか、やや斜めに傾いています)

今回は、日産のように文字の書体を統一した場合と、しない場合とで、受け手(顧客)の脳の中に、どのように情報が記憶され、それがブランドイメージにどう影響を及ばすかについてお話します。

  
「MARCH」と「PRIMERA」の文字を見比べると、「M」「A」「R」の文字が共通して含まれているので、同じ書体であることがお分かりいただけると思います。

  
これに対して、ホンダの「Fit」と「HR−V」の文字は、それぞれまったく違うデザイン処理が施されています。

日産とホンダのどちらの文字が、より印象に残るかというと、大半の人はホンダの方だとお答えになるのではないでしょうか。
では、日産はどうしてホンダのように車種ごとに文字をデザインせず、あえて控えめな書体を使って全車種の文字を統一しているのでしょう?

その狙いは、マーチの市場投入によって生みだすことができた驚きを、「MARCH」という記憶の引出しに収めてもらうのではなく、「NISSAN」の引出しに収めてもらいたかったからです。(記憶の引出しについては、file.2を参照してください)
つまり、マーチの驚きも、プリメーラの驚きも、フェアレディZの驚きも、すべて「NISSAN」の驚きとして受けとめてもらえるよう、日産はあえて文字のデザイン性を抑え、統一感を出したわけです。
一台一台の車の名声よりも、「NISSAN」の名声を上げたい。
そう願う日産の思いは、車体の前後につけられた円形のNISSANマークが、以前よりも大きく立体的にデザインされ直された点、さらにはCMの最後に「シフト・ザ・フューチャー ニッサン」の音声とともに、NISSANマークが挿入されるようになった点にも顕著に表われています。
日産とホンダの戦略の違いを図で表せば、ざっと下のような感じになります。

の驚き の驚き 「他の日産車」の驚き
    ■          ■          ■
       ■               ■
          ■    ■    ■
各車の驚きが、文字の統一感によって、NISSANマークに統合
                ■
             
文字のデザイン性を控え、NISSANマークをより印象づけることにより、脳の中に「NISSAN」の引き出しが作られ、そこに各車の驚きが貯蓄されていく構造。
結果として、「NISSAN」のブランドイメージが向上していく。

の驚き         の驚き
     ■ ・               ・ ■
     ■  ・             ・  ■
     ■   ・ 統合性が弱い ・   ■
     ■    ・         ・    ■
    
「Fit」「HR-V」の文字がシンボリックにデザインされているため、ホンダマークと同レベルで「Fit」「HR−V」の引き出しが脳の中に作られ、ほぼ一対一対応で各車の驚きが貯蓄されていく構造。
結果として、車種そのもののブランドイメージが向上していく。

これで文字の書体を統一した場合と、しない場合とで、受け手(顧客)の脳に驚きの情報がどのように収まり、結果としてブランドイメージがどのように違ってくるかが、お分かりいただけたと思います。

ここで誤解のないようにしておきたいのですが、私はここで日産のブランド戦略とホンダのブランド戦略を比較して、どちらがより優れているかを説明しているのではありません。
日産には日産、ホンダにはホンダのお家の事情があり、それによってブランド戦略の方向性も変わってくるからです。

日産という企業が、「NISSAN」ブランドの向上に重きを置いた戦略をとっているのは、皆さんもよくご存知のように、数年前までの日産の業績が倒産を懸念されるほど悪化し、「NISSAN」のブランドイメージが著しく低下していたからにほかなりません。
倒産の可能性が高まれば、商品の買い控えが起きます。
いま買った日産車を何年間か乗って買い換えようとしたとき、もしメーカーが倒産していたら、下取り価格が大幅に下がってしまうリスクをともなうからです。
いくら性能の高い車を開発できたとしても、NISSANブランドに対する信用を回復できなければ、なかなか販売には結びつかない。
そのような状況に立たされていたからこそ、日産は「NISSAN」ブランドの向上に重きを置いた戦略をとったわけです。
一方で、ホンダは業績好調で、「HONDA」ブランドに対する信頼も厚く、各車種ごとのブランドイメージの向上に力を注げるわけです。

仮に日産が、NISSANブランドの危機的な状況をよく踏まえず、ホンダと同じようなブランド戦略をとっていたら、今ごろどうなっていたでしょうか?
どれだけ商品やサービスの質を改善できていたとしても、ブランド戦略(受け手の脳の中に商品やサービスの驚きをどのような構造で記憶させるか)の方向性を誤っていれば、これほど短期間に日産の業績は回復していなかったのではないかと、私は感じています。

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ソニーVAIOのブランド戦略  2003/4/26
4月5日の朝日新聞の別冊版に、VAIOのネーミングの意味を紹介する記事が出ていたのですが、皆さん、お読みになりましたか?

これぞまさにネーミングのお手本!と太鼓判を押せるほど、 ハイレベルな内容だったので、すでに記事を読まれた方もいらっしゃると思いますが、 ここに紹介させていただきます。

この記事を読むまで、私自身、バイオの意味は、 バイオテクノロジーの「バイオ」にひっかけたネーミングで、 コンピューターでありながら「生命」感を感じさせるところがソニーらしいな、 くらいのとらえ方をしていました。

ところが、VAIOには、その「BIO」の意味に加えて、 「VIOLET」(すみれ色)の意味もこめられていたとは、 私自身バイオユーザーでありながら、気づきませんでした。
バイオの本体は、紫色がキーカラーになっていて、 それが他社のコンピューターとの違いを表す アイデンティティになっているわけですが、 まさかその紫色がVAIOのネーミングから派生したものだったとは・・・ まったくもって、一本やられた!って感じです。

さらに極めつけは、VAIOの四文字は、なんと、
Video(映像)
Audio(音声)
Integrated(統合した)
Operation(操作)の頭文字だったんですね。
ソニーといえば、ハンディカムにウォークマン。
「バイオは、その映像と音楽の楽しみを広げるためのツールである」という商品特性を明確に打ち出し、他のコンピューターとの差別化を図ったソニーの狙いが、VAIOの四文字に刻み込まれていたわけです。

驚きは、これで終わりません。
VAIOのロゴデザインにも、ちゃんと意味があって、VAの部分の曲線は、音の波(アナログ)を表し、IOの部分はデジタル信号の「1と0」を表していたのです。


「VAIOには、どういう意味があるんですか?」と誰かに聞かれたら、ソニーの関係者は、待ってました!とばかりにその四文字に込められた意味合いを次々に披露し、人々を驚かすことができるわけです。

商品のユニークさにびっくり!
そしてネーミングの意味を聞いてまたびっくり!
ソニーは、ほんと、世界一のエンターテインメントブランドです。

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「プレミアムマック」のプレミアムって?  2003/5/30
以下、同僚と私との会話。


「このまえ、日経ビジネスに、マクドナルドのプレミアムマックには、
普通のハンバーガーと違う部位の肉を使っていて、
かじると肉汁があふれる!って書いてあったんだよ。
で、それは旨そうだと思って、さっそく買ってみたんだけど、
かじっても、ぜんぜん肉汁が出てこないの。
でね、おかしいなぁと思って紙袋に書いてあったお客様相談室に電話してみると、
プレミアムマックの肉は、普通のハンバーガーと同じ部位の肉を
使っていますって言うんだよね。
じゃあ、何がプレミアムなの?って聞いたら、
肉の量が普通のハンバーガーの約2倍で、あとパンの厚さとソースが違いますだって・・・。
それじゃあチーズバーガーを2個買ったほうが、
だんぜん安くてボリュームもあるわけじゃない。
ソースが違うといっても、あのソースって、フィレオフィッシュのタルタルソースの味と
ほとんど変わらないし・・・」

同僚
「日経ビジネスの記事は、結局、間違ってたってこと?」


「いやー、それがよくわかんないんだよね。
雑誌にはマクドナルドのマーケティング部長の発言として掲載されていたんだけど、
お客様相談室では、いや、そんなことはありません、同じ部位の肉を使ってます、
たぶん、取材された方がかってにそう解釈されて書かれたんじゃないでしょうかって
言うんだよね」

同僚
「マクドナルドって、最近おかしいですよね。
僕も、このまえ子供とマクドナルドに行ったんですけど、
いま、注文を聞いてから砂時計をひっくりかえして、
60秒以内にすべての商品をお出しするっていうサービスをやってるじゃないですか。
でね、注文を聞いてからの、あわて方が凄いんですよ。
一刻を争うかのようにあちこち走り回って、
最後は滑り込みセーフって感じで、レジまで戻ってきたんですけど、
勢いがつきすぎて、容器からポテトが数本バサーッと飛び出しちゃって・・・
でも、そのまま手渡すんですよね。
こっちは、別に70秒かかってもいいから、ちゃんと出してくれよって思ってるのに・・・」


「誰も60秒で出してくれなんて頼んでないのに、かってに60秒以内に出すぞって決めて、
それがサービスだと勘違いしているんだよね。
マクドナルドの考えている価値って、価格とか、ボリュームとか、時間とか、
どうして数字で表せるものばかり目がいっちゃうのかなぁ」

同僚
「僕らが求めているのは、マニュアルや数字では表せない、おいしさなのにね」


「アジ〜なことやる〜、マク〜ドナルド〜って、昔は歌ってたのにねぇ」

同僚
「でも、日経のブランドランキングでは、相変わらずマクドナルドは
上位にランクされていますよね」


「なんでも、数字で表そうというところに、そもそも、無理があるんじゃないの・・・
あ、でも俺も言ってるか。
ブランドの価値は、驚きの数に比例するって・・・
失礼いたしました」

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阪神タイガース「星野監督」のブランド戦略1  2003/7/31
今回は18年ぶりの優勝に向け快進撃を続ける阪神タイガースを題材に、
ブランド戦略の重要性を語ってみたいと思います。

どうして今年の阪神はこんなに強いのか?
その第一の理由は、なんといっても選手層が厚くなったことです。
昨年から今シーズンの開幕までに、23人もの選手が解雇されました。
そして広島からはFA権を取得した金本を獲得。
メジャーからは伊良部を、さらに日本ハムとのトレードで、
下柳をはじめ3人の選手を獲得しました。

新規加入の選手が揃って大活躍。
もともと阪神にいた選手も、ウカウカしてると今シーズン限りで俺のクビも飛ぶカモ、
という危機感が芽生えたのか、飛躍的に成績を伸ばしています。
阪神が行ったこの大リストラの光景は、何かに似ています。
そうです。
V字回復する前の日産のリストラです。
日産の再生にあたって、最も困難を極めたのは、「危機感の欠乏であった」と、
カルロス・ゴーンさんもその著書で語っていますが、
まさに阪神再生の状況とそっくりです。

さて、ここからが本題です。
阪神の戦力が大幅にアップしたのは事実ですが、
それでもなお、シーズン開幕前に、阪神優勝を予想した野球解説者はいませんでした。
戦力面を単純に比較すれば、まだまだ巨人のほうが上手だと、
大方の解説者は予測したわけです。

でも、結果は阪神のブッちぎりです。
なぜ、こんなことが起こったのでしょうか?
「阪神には、10人目のプレイヤーがいる」と、他チームの監督はよく口にします。
あの熱狂的な阪神ファンのことです。
お客さんがお金を払ってまで、これだけ熱心に応援してくれるわけですから、
ビジネスとして、これほどアリガタイ話はないでしょう。

しかし、ここにひとつの疑問が浮かびます。
昨年と比べて、選手の顔ぶれがガラリと変わっただけでなく、
コーチングスタッフとして広島出身の達川や巨人出身の西本が新たに招かれ、
ベンチ入りしている顔ぶれを見渡せば、
阪神的な要素がかなり薄らいでしまったのも事実です。
なにより星野監督自身が、中日生え抜きの選手であり、監督でもあったわけです。

阪神ファンの心情からすれば、いくら強くなったとはいえ、
心の片隅で違和感を感じていたり、どこかシラける部分があってもおかしくないはずです。
にもかかわらず、阪神というチームは、
どうしてこれほどまでに阪神ファンの心を魅了しつづけることができるのでしょうか?

清原、江藤、ペタジーニといった他球団の4番打者を獲得しつつ
戦力アップをはかってきた補強組織の最大手ジャイアンツとは一味違う、
阪神・星野監督ならではブランド戦略のうまさについて、
また次回、お話したいと思います。

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阪神タイガース「星野監督」のブランド戦略2 (2003/9/10)

巨人は、清原、江藤、工藤、ペタジーニといった他球団の主力選手を獲得し、
着実に戦力を強化してきた。
にもかかわらず、阪神は戦力の補強を怠ってきた。
これでは長年Bクラスに低迷するのもあたりまえ。
そう考えた星野監督は、昨シーズンのオフから今年の開幕までに、
大胆なリストラとトレードを行い、
広島の金本、メジャー帰りの伊良部、日ハムの下柳といった新戦力を獲得しました。
その甲斐あって、タイガース優勝のXデーが迫りつつあります。

ここで不思議に思うのは、選手の顔ぶれが大幅に変わったにもかかわらず、
なぜ、阪神ファンは、以前と変わらず熱狂的に応援しつづけられるのか、ということです。
今年の阪神は優勝が狙えるほど強くなったわけですから、当然ファンは盛り上がります。
しかし、いくら強くなるためとはいえ、選手の顔ぶれがこれほど一気に変われば、
タイガースらしさが薄れ、ファンがシラけてもおかしくありません。
ところが、阪神ファンはまったくシラけていません。

どうしてなんでしょう。
それは星野監督が、戦力強化に力をいれる一方で、
タイガースらしさ(ブランドアイデンティティ)をどうキープしていくか、
そのコントロールを実にたくみにやってのけたからです。

コーチ陣では、元・巨人の西本、元・広島の達川を招きいれながら、
バッティングコーチに阪神の象徴的存在である田淵を置き、
心理面で阪神ファンの心をとらえました。

選手では、主砲級の金本をあえて3番に置いて、打の主軸となる4番には生え抜きの濱中を。
そして、投手陣の柱となる開幕投手には、これまた生え抜きの井川を指名しました。

これは単なる偶然ではありません。
星野監督がそれを意図的にやっていることが判明したのは、
濱中が故障して戦線から離脱したときでした。
濱中の変わりに4番を打ったのは、
今年、外野から不慣れなファーストにコンバートされ、打率が落ち込んでいた桧山でした。
実績からみて、金本(元広島)、アリアス(元オリックス)といった
4番候補がいたにもかかわらず、
星野監督は生え抜きにこだわり、桧山を4番に指名したのです
(その後、桧山が故障してからは金本、八木、片岡などが4番を打ち状況は変わりました)。

阪神の星野監督がとったこの戦略は、これまでの巨人の戦略とは対照的です。
巨人は、落合にはじまり、清原、江藤、ペタジーニと
他球団から獲得した選手を4番に置いてきました。
それがいとも簡単にできた理由としては、
原監督も、前任の長嶋監督も、ともに巨人の生え抜きで、
監督の存在そのものが「巨人らしさ」を象徴してきたからではないかと思われます。

両チームの違いを図式化すれば、こうなります。

・阪神
星野監督=元中日の選手・監督
そこで
濱中・桧山=生え抜きを4番に置いて、
阪神らしさをキープ

・巨人
原監督・長嶋監督=巨人の生え抜き
だから
西武の清原、ヤクルトのペタジーニを4番に置いても、
巨人らしさは損なわれない

さて、この両チームの違いを、ブランド戦略の観点から評価してみましょう。
阪神、巨人のどちらの戦略が、よりファン(顧客)の心をとらえ、
ブランド(球団)への感情移入を起させるでしょう?
プロ野球の主役はあくまでグランド上でプレーする選手であって、
監督は脇役であるとするなら、阪神の方が戦略的に優れていると言えそうです。

「阪神には10人目のプレーヤーがいる」と言わしめるほどファンを熱狂させる
この星野監督のブランド戦略、興味深いことに、
日産のブランド戦略とかなり似ているところがあります。
最後にその共通点を図式化して終わりたいと思います。

日産のカルロス・ゴーン社長は企業再生のために外部から招かれた
=星野監督も中日から招かれた

業績を回復させるために、ゴーン社長は大胆なリストラを行い、
外部から優秀な人材(デザイン本部長の中村史郎氏など)を招き入れた。
=優勝のために星野監督も、選手、コーチの顔ぶれを大胆に入れ替えた。

その一方でゴーン社長は、ブランドらしさを損なわないよう、
日産の象徴的存在であるフェアレディZに着目し、みごとそれを復活させ、
往年のファンの心をとらえた
=星野監督も投打のかなめに生え抜きの選手を置き、ファンを熱狂させた
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